第56話 新生最強パーティ

「私たちは騙されていた。奴は封印されたところで力を失っていない、失ったフリをしていただけだったの」


 5年前、デミウルゴスは封印されながらも動き出し、再び外の世界の人間を取り込むようになった。

 それを受けて封印ではなく完全に消滅させなければならないと悟り、歩夢たちは再び決戦に臨んだ。


「それは20年前の戦いよりもさらに激しかったわ。そしてその戦いの中で……」


「俺の両親は命を落とした、というわけですね」


「ええ……」


 多くの犠牲を払いながらもデミウルゴスを追い詰め、遂に決着がつくかと思われた。

 だが狡猾なデミウルゴスは死の間際、かつて歩夢たちに受けた魔法を模倣。

 自らを封印することで窮地を脱し、傷を癒して復活の時を待つことにしたのだ。、


 その封印は三体の強力な魔物によって守られている。

 一つは『静寂の氷河』に潜む霜の巨人、一つは『渾沌の領域』に住まうカオス、そしてもう一つが『龍の巣窟』を支配するアジ・ダハーカである。


「えっ⁉︎それじゃあ封印は」


「そうよ、もうほとんど解けかけている。奴はかなりの力を取り戻したはずだわ」


 突如校庭に大量のモンスターが出現したのも、偶然にも霜の巨人を倒したことで封印が弱まり、デミウルゴスが力を取り戻したからである。

 奴は悠真の存在を危険視したために、大量のモンスターを送り込んで殺そうとしたのだ。




「私が配信マネージャーをしてたのはね、デミウルゴスと戦える人材を探すためだったの。だけど私は由那に、そして何より貴方に出会ってしまった」


「歩夢さんは俺のこと、最初から知ってたんですか?」


「すぐに気がついたわ。高校生にしてあんな力を持っているなんて、あの二人の子ども以外に考えられないもの。だから悠真くんだけはこれに巻き込まない、絶対に私が守る、そう思っていたの」


「あの時俺に『龍の巣窟』に行くなって言ったのは」


「これ以上デミウルゴスとの戦いに関わって欲しくなかったの……何も知らないまま、今まで通りの日常を過ごして欲しかったのよ……結局、全部話すことになってしまったのだけど」


 歩夢さんは哀しそうに笑った。

 どうやら全て俺が生まれる前から始まっていたらしい。

 今なら俺にDランクの力があるのもわかる、俺の両親が当時世界最強と呼ばれていたのだ、その力を受け継いだというわけだろう。


 ならやるべきことは一つだ。


「俺は戦います。死んだ父さんや母さんの代わりに、俺がデミウルゴスを倒します」


「ダメよ!奴は他のモンスターとは比べ物にならないわ、本当に神のような強さなのよ」


「だからですよ。この世界で唯一のDランクの、俺がやるしかないんです」


 歩夢さんは納得がいかないようだ。

 だが隣にいた真琴が言った。


「ハッキリ言って私と歩夢さんだけじゃ勝てません、私の仲間もこの世界に来る時にデミウルゴスの力で記憶を失ってしまいました……先輩の力は必要不可欠です」


「それに『静寂の氷河』で霜の巨人を倒した時から狙われてるんですよね?なら今更一緒ですよ、やられる前にやるだけです」


 多分これも全て運命なのだ。

 もし俺が歩夢さんたちと出会っていなかったとしても、いずれは『龍の巣窟』でボスを倒していたはず。

 結局のところいずれデミウルゴスとの戦いになっていたのだろう、これは俺の父さんと母さんから続く戦いなのだ。


「歩夢さん、俺は戦いますよ。デミウルゴスを放っておいたら不幸な目に遭う人が増えるだけです……俺みたいに」


「それじゃあ一緒に行きましょうよ!先輩と私なら『龍の巣窟』の攻略なんて楽勝です!」


 デミウルゴスを倒すにはまずは封印を解く必要がある、つまり『龍の巣窟』に潜むアジ・ダハーカを倒さなければならない。

 俺は真琴と共に『龍の巣窟』に向かう、だがドアを開けたところで立ち止まってしまった。

 そこに由那たちが立っていたのだ。


「いつからそこに……」


「最初から。配信が話題になってるのを見てね、急いでここに来たの」


「由那……貴女も全部聞いてしまったのね」


「うん。そのデミウルゴスってのを倒せばいいんだよね!」


「私たちも、少しは力になれるはず……」


「悠真、貴方は絶対に私が守る」


 どうやらみんなも戦うつもりらしい。

 きっと勝てるはずだ、なにせ俺たちは世界最強のパーティなのだから。


「……わかったわ、もう迷わない」


 歩夢さんは椅子から立ち上がると、近くにあったジャケットを羽織りながら言った。


「戦いましょう、デミウルゴスと」


「それじゃあ!」


「ええ、行くわよ。残り一つの封印が眠る場所『龍の巣窟』に」


 由那、美月、凛さん、真琴、歩夢さん、そして俺。

 この世界の最高戦力を結集した、文字通りの新生世界最強パーティが今ここに結成された。


「絶対に、誰も死なせないわ」


 目指すは『龍の巣窟』、そしてその先に眠る偽神・デミウルゴス。

 

 決戦のときは近い。

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