第38話 噂

「あ、凛さんは電車じゃないんですよね」


「うん、それじゃあ高校頑張ってきてね」


「はい、凛さんも」


 家が近いとはいえさすがに高校と大学も近いわけではない、俺はここから電車で数駅行く必要がある。

 ということで駅についた俺は凛さんに別れを告げて電車に乗り込む。

 それから数十分で高校の最寄駅についた。


 朝から想定外の出来事があったため既に濃密な1日を過ごした気分になっているが、まだ何も始まっていない。

 しかし改めて思うのだが身体が重い、やはり二つの奥義をはじめとしていくつも秘剣を使用したのはかなり負担も大きかったらしい。


「あ、悠真くん!おはよ!」


 なんてことを考えながら一人歩いていると、背後から由那に声をかけられた。


「おはよう。なんか珍しいな、途中で会うのって」


「確かにそうかも。それより大丈夫?なんか疲れてそうだけど」


「わかる?正直ずっと寝てたいくらいなんだよな。てか由那こそ昨日の疲れとかないのか?」


「うーん、私は平気かな。昨日も楽しかったし!」


 由那は満面の笑みでそう答える。

 昨日なんて慣れないEランクダンジョン、しかも多数の罠もあって大変だったはずなのに、楽しかったと言えるなんてなかなかの胆力だ。

 さすがは一人で登録者100万人まで上り詰めた人気配信者、といったところか。


「あっ、そうだ!登録者100万人おめでとう!」


 そういえばそうだった。

 他に色々あったせいですっかり頭から抜け落ちていたが、昨日の配信の反響もあって俺のチャンネル登録者がついに100万の大台を突破したのだ。


「ふふっ、あっという間に追いつかれちゃったね」


「数字だけならそうかもだけどまだまだだよ。俺の実力なんてほんの僅か、みんなのおかげでいけたようなもんだし」


 そもそも俺が最初から人気が出たのも、元はといえば既に人気があった由那の配信に偶然映ってしまったから。

 そして由那が注目を集めてくれたからこそ、デビューと同時に多くの人の目に留まることになった。


 今回もそうだ。

 サタンとの勝負という形でとんでもないリスナーがあの配信についていたからこそ、こうして登録者が100万人を突破した。

 言ってしまえば世界最強の称号を引き継いだと同時に、元はサタンについていたリスナーが俺の方に流れてきたに過ぎない。


 俺一人の力ではこんなにたくさんの登録者がつくのは遥か先の話だっただろう。


「謙遜しないで自信を持ってよ!今や悠真くんは世界最強、日本一の配信者なんだから」 


「さすがにそれは言い過ぎでしょ」


 そう言って笑いながら、俺たちは教室は向かう。


「あの二人、いよいよ一緒に登校までしてるぞ」


「ちょっと前からすごく仲良くなってるよな、もしかして付き合ってんのか?」


 どこからかそんな声が聞こえたが、気づかないふりをした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「なぁ、お前って白星さんと付き合ってんの?」


「ゔっ!」


 昼食の時間。

 いつもの友人たちと一緒に教室で弁当を食べていると突然そんなことを言われた。

 思わず口の中のものを吹き出しそうななったが、どうにか寸前で堪えて腹の中に押し込む。


「き、急になんだよ」


「それはこっちのセリフだ。急に仲良くなりやがって、羨ましいなぁ、おい」


 ニヤニヤしながら俺を肘で小突いてくる。

 

「付き合ってねーよ、まあ多少は仲良くなったかもだけどさ。席隣だし」


「またまた、最近クラスでも噂されてるぜ?お前らが付き合ってるんじゃないかって」


 確かに最近そう噂されてるのを少し聞くようにもなってきた。

 まあそういう勘違いをされるのも仕方ないのかもしれない、事実最近は由那と学校で話すことも増えた。


 同じ事務所に所属していて、一緒に配信をすることも多いのだからそうなるのも当然である。

 しかし俺たちは付き合っているわけではない、あくまで配信者仲間というだけ。


 とはいえ俺たちが実は今世間を騒がせている配信者でした、なんてもっと言えるはずもないので、黙っているしかない。


「ただ仲良くなっただけでそんな噂が立つなんてたまったもんじゃねーな」


「そうだな、お前の雰囲気が変わったのもあるんじゃないか?」


「俺?何か変わったか?」


「上手く言いにくいけど、自信に満ちてるっていうか」


「なんだよそれ」


 変わったという自覚は全くない。

 今日だって昔と変わらず、いつものように過ごしているだけだ。


「なんつーの、カリスマってやつ?」


「おだてても何も出ねーぞ」


「違うって、これはマジなやつだから」


 そう言って友人はケラケラと笑う。

 自分では気づかない変化、というやつだろうか。

 なんてことを考えていたら、今度はニヤニヤと笑いながらこちらに顔を近づけて小声で言った。


「それで、実際のところどう思ってんの?」


「なにが?」


「白星さんのことだよ、好きなのか?」


 どうやらしばらくはこの話題が続くらしい。

 俺は昼食を食べる間ひたすら質問攻めに遭いつつ、適当にあしらっていた。

 

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