第14話 ダンジョンの中に

 俺は続けて『希望のほとり』を進んでいく。

 人もモンスターもいないと本当に静かな場所だ、こんな風景が続くとダンジョンに居るという感覚が薄れていく。


「今日の配信ではあまり伝わらないかもしれないですけど、ダンジョンは危険です。食料や毒・怪我の備えは十分にした上で行くようにしましょう」


 俺もダンジョンに潜りたての頃は、鞄いっぱいに荷物を詰め込んできたものだ。

 それでも備えが底をついて命からがら帰還する、なんてことを繰り返してきた。

 ただそんな経験の甲斐あってか、ダンジョン内で自給自足をする能力も身につけた。


「もし本当に困った場合はこの木の実は食べられます、あとこれは薬草がわりに使えますね、まあ不味いので基本おすすめはしません」


 場繋ぎ程度にその辺に生えていた使えそうな植物を紹介する。

 あとはゴブリンと並んで初心者が相手することになる定番モンスター、スライムの紹介をして配信を終わりたいのだが、なかなか見つからない。

 普段はすぐ出てくるのにこういう時だけ見ないんだな、なんて思いながら歩いていると、予想外のものを見つけてしまった。


「あれは……」


 大河の真ん中に存在する空間の歪み。

 それを見ることは珍しくない、世の中に多数存在するダンジョンの入り口だ。

 だがそれをダンジョンの内部で見るのはおかしい。


「なんでこんなところにあるんだ」


 ダンジョンの中に別のダンジョンの入り口があるなんて話は聞いたことがない。

 それはみんなも同じらしく、コメント欄でも困惑する声がたくさん見られる。


「この配信の趣旨とは外れますけど、入ってもいいですか?」


 試しにそう聞いてみると、行って欲しいという声が多い。

 ずっとのどかな雰囲気に眠くなってきたところだ、ここらで気分転換するのもいいだろう。


「よし、それじゃあ行ってみます」


 俺は『希望のほとり』の中に生まれた別のダンジョンへと飛び込んだ。


「あー、これは……」


 入った瞬間にわかった、空気がまるで違う。

 この感覚は『龍の巣窟』と同じ、つまりEランクダンジョンの気配がする。


 これはかなりまずい。

 Bランクダンジョンである『希望のほとり』がEランクダンジョンへの入り口に繋がっているのだ。

 初心者の探索者や観光客が誤ってこのダンジョンに入れば、とてつもない被害を引き起こしてしまう。


 放っておくわけにはいかない。


「とりあえず進んでみましょう」


 入り口が川に繋がっている影響だろうか、足元には1cm程度の水が張っている。

 のどかな外とは違って雰囲気は全体的に薄暗く、周囲は鬱蒼としたジャングルに囲まれていた。

 その中に作られた狭い道を、チャプチャプと音を立てながら進んでいく。


「外と同じで自然型のダンジョンか」


 ダンジョン内部は大きく分けて自然型、洞窟型、遺跡型の3つにわけられる。

 自然型というのはここや『希望のほとり』のように、一見すると外にいるのと変わらない風景が広がるダンジョン。

 砂漠や氷河、火山などの過酷な自然が広がるダンジョンも少なくない。


「見たところ食べられそうなものはないな……」


 今日はBランクダンジョンを想定したため、そこまで用意はしていない。

 さすがにこの状態で初見のEランクダンジョンに挑むのは厳しいかもしれない。

 ひとまず道に迷うことがないように、近くの木には等間隔にナイフを刺しながら進んでいく。

 

「シャァァァッッ!!!」


 少しするとモンスターが現れた。

 アーヴァンク、ビーバーのような姿をしたモンスターで、大きさは80cm程度。

 数は見たところざっと10体ほどか。


「鋭利な爪と怪力が危険だって聞いたことがあるな」


 実際に戦うのは初めてだ。

 俺は右手の中に剣を創造しつつ、まずは様子見から入る。

 するとアーヴァンクはその腕を振るい、周囲の大木を薙ぎ倒していく。


「おいおい、マジかよ」


 その体躯からは全く想像もできない超怪力。

 やはりEランクダンジョン、ここのモンスターは危険すぎる。


「気が抜けねえな!」


 俺は近くにいる個体から順に、攻撃を躱しつつ斬り伏せていく。

 Eランクにしては弱めの個体で、数もそこまで多くはないため助かった。


「これはかなりヤバそうですね。今日中に攻略するのは難しいと思うので、今日は準備段階とします」


 Bランクダンジョンにここが繋がっているのはあまりにも危険だ。

 帰ったら公的機関に連絡するとして、被害を出す確率を下げるためにも自分にできることは少しでもしておきたい。


 今こうして歩いてきて一番面倒に感じたのは、道の狭さだ。

 足元に水が張った通路の横幅は1m弱しかなく、両脇のジャングルは木や草が多すぎてまともに進めたもんじゃない。


 ここでモンスターに襲われたら、相当慣れていない限り本来の実力を発揮できないだろう。

 

「せめてこの辺は『掃除』しておくか」


 俺は今手にしていた剣を消し、代わりに別の大剣を創造する。


「壱の秘剣・聖剣エクスカリバー」


 こういう自然型のダンジョンはその辺にモンスターが潜んでいるのもお決まりだ。

 なので全部まとめて、この一振りで周辺の環境もモンスターも破壊する。


「ハァッ!」


 俺はエクスカリバーを両手で持つと、その場で一回転した。

 ライフルを弾くクエレブレすらも軽々と両断するエクスカリバーの一撃は、周辺の木々もそこに潜んでいたモンスターも関係なく切断する。


「よし、だいぶ見やすくなったな」


 曲がりくねった通路がかなり先まで延びているのが見えるようになった。

 視界が確保できただけでもかなり安全になったはずだ、ついでにモンスターも結構倒した。


「にしてもかなり広そうだな」


 見た感じそう簡単に攻略できるダンジョンではなさそうだ、今の時間を見てもこれ以上探索を続けるのは得策ではない。


「次回がどうなるかはわからないんですけど、今日はこの辺りで配信を終了します。途中から趣旨が変わってしまったんですけど、見てくれてありがとうございました。それでは!」


 俺はここで配信を終了して、ダンジョンを後にした。

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