第42話 学校防衛戦①
俺は耳を疑った。
モンスターが現れた、誰かがそう言った気がする。
いや、そんなはずはない、ダンジョンでもないのにモンスターが現れるはずが──
「グルォォォッッ!」
そんな俺の甘い考えはモンスターの叫び声に掻き消される。
気が付けば俺は外に飛び出していた。
急いで辺りを見まわし、音のする方へと走って行く。
すると本来ダンジョンの内部でしか見かけないはずの存在、モンスターの姿がグラウンドにあった。
何が起きたかなど考えるまでもない、ダンジョンからのモンスターの出現が起こったのだ。
「近くにダンジョンの入り口はなかったはず、一体どうして……」
もしかしたら誰も気づかないうちにこの周辺にダンジョンが新たに生成され、そこからモンスターが溢れ出したのかもしれない。
とにかく今はそんなことよりもコイツらを倒すことの方が先決、やるしかない。
「悠真くん!私たちは周りの安全を確保するね!」
「頼む!見た感じモンスターはここにしかいないが、他の場所に現れる可能性もある。十分に気をつけてくれ!」
「終わったら私も戦うから…….」
周りには一般人、この高校の生徒が大勢いる。
今回は普段のダンジョンでの戦闘とは違い、彼らを守りながらモンスターを倒していかなければならない。
そのため一旦は俺が一人で戦い、その間に二人には避難誘導をしてもらう必要がある。
「まさか、こんなことになるなんて」
モンスターがダンジョンから溢れ出すことがある。
そんな噂を聞いたことはあるが、実際のどうかなんて懐疑的だったし、ましてやまさか自分がそれに直面するなんて夢にも思わなかった。
自分でもひどく動揺しているのがわかる。
「ふぅ……」
一つ大きく息を吐いて心を落ち着かせる。
状況は特殊ではあるが、今現れているモンスターからはそこまで恐ろしい気配は感じない。
Eランクには程遠い、いつも通りやれば難なく対処できる。
「よし、いくか」
一振りの剣を創造し、近くの一体に斬りかかる。
「いける、これなら問題ない」
やはりほとんど手応えはない、これまで戦ってきたモンスターと比べればザコだ。
ただ討ち漏らしにだけは気をつけなければならない。
万が一にも横をすり抜けるモンスターに気が付かなければ、一体何人の人が犠牲になるかわからない。
「やらせるかよ!」
絶対にそれだけは避けなければならない。
ダンジョンのせいで誰かが命を落とす、それで誰かが悲しむ、そんなことあってはならない。
「次々に来やがって」
モンスターの押し寄せる勢いは増すばかり。
どこから来ているのかわからないが、グラウンドの向こうから続々と姿を現す。
まだまだ戦いは続きそうだな、と強く剣を握り直したその時だった。
「悠真くん!」
一筋の矢がグラウンドの中央へ向かっていったかと思うと、続いて幾つもの火球が降り注ぐ。
それらは巨大な爆発を引き起こし、そこにいたほとんどのモンスターを消滅させてしまった。
ふと後ろを見ると、校舎の屋上に由那と美月の姿があった。
俺は一度二人の元へ向かう。
「ありがとう、助かった。二人の方はもう終わったのか?」
「うん、避難は完了。みんな校舎の中に入ってもらってる……」
「そっか、これでやりやすくなるな」
現時点でベストな判断のはずだ。
こうなれば俺たちは校舎を背にして、グラウンド方面から迫り来るモンスターたちを片っ端から倒すだけでいい。
しかももう俺一人ではない、由那と美月も戦線に加わった。
「しかし、すごい威力だな」
グラウンドを見渡すと中央には大穴が開き、二人の魔法の威力を物語っている。
心なしか前に『静寂の氷河』で見た時よりもさらに威力が増している気がする、もしや二人はEランクダンジョンでの激闘を経て凄まじい勢いで成長しているのではないだろうか。
少なくとも初めて会った時とは比べ物にもならない。
きっと今の由那だったらグローツラングに襲われても一人で対処して、俺が助けに行く必要もなかっただろう。
今の二人は紛れもなくEランク探索者だ。
「ど、どどどうしよう!これ怒られないかな⁉︎」
「こんなことになるなんて思わなかった……」
どうやら魔法を放った張本人ですらここまでの威力になるとは思っていなかったらしい。
二人はグラウンドを見るも無惨な姿にしてしまったことに慌てふためいている。
「さすがに大丈夫だろ、こんな事態なんだし」
モンスターが現れる緊急事態なんだからわかってくれるはず、そう思うのは俺は無関係だからかもしれない。
「おっと、まだ来るな」
「お咎めなしで済みますように!」
「こうなったらいっそ諦めがつく……手加減なしでいく……」
こちらに向かってくるモンスターを見据え、俺たちはそれぞれ得物を構える。
なんでもないはずの金曜日、突如として現実世界に現れたモンスターを相手に学校防衛戦が始まったのであった。
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