第48話 身バレ
「色々お疲れ様、それにしても大変なことになったわねぇ」
学校防衛戦を終えた次の日、俺たちは家ではなく事務所に集合していた、理由は簡単。
『昨日過去に類を見ないモンスターの出現が起こりました。その数は500を超えたと言われており、未曾有の被害をもたらすかと思われましたが、その場に居合わせた高校生が撃退』
ニュースでは学生の誰かがSNSに上げた動画が使われている。
さすがに顔は隠されているが、戦い方を見ればすぐに誰だって気づくだろう。
『その正体は今勢いのあるダンジョン配信者とも言われており──』
クラスメイトに正体がバレたと思われたその日の夜、誰かがSNSに投稿した俺たちが戦う様子を撮影した動画が大バズり。
騒ぎは瞬く間に広がり、今や世間では完全に正体が割れてしまった。
そして今日には遂にニュースで取り扱われるようにまでなっている。
「ウチも昨日から電話がすごくてね、みんなで必死に対応してるわ」
「なんかすいません」
「謝ることないわよ。こうなった時に事務所で対応できるってのも悠真くんに来てもらった理由の一つだしね」
「まさかここまで騒ぎになるとは」
「タイミングが悪い……いや、むしろ良いのかしらね」
歩夢さんの言う通り、本当にタイミングが絶妙だった。
元々サタンとの勝負に勝利し、世界最強の座を勝ち取っただのなんだのと騒がれていたところに今回の一件だ。
身バレするだけでなく過去最大のモンスター侵攻を食い止めたものだから、完全に英雄視されてしまっている。
自画自賛になるかもしれないが、もはや世間の話題は俺が独占している。
「まあでも良かったじゃない、これでまたしばらく配信無しでも良さそうよ」
歩夢さんはケラケラと笑いながら言う。
確かに配信とは別の形でとんでもない話題を提供したのだ、これならしばらくはもつ。
というかこれだけ世間を賑わせたらこれ以上の配信など不可能、逆にプレッシャーもなくなるというものだ。
「もうこの際俺のことなんてどうでもいいですよ」
身バレしたのだからどうしようもない、お手上げだ。
これからは開き直って普通に配信をやっていけばいい、それにこうして俺たちが集まった理由はもう一つある。
「それより聞きましたか?ダンジョンが見つからなかったそうですが」
「ええ、聞いたわ。あのあと協会の探索者も周囲を調べたけれど、やはりなんの変化もなかったと」
「正直言ってこんなことあり得ません。あれだけのモンスターの出現はどう説明すればいいんですか?」
「謎の超常現象、と言うしかないわね」
そう言われても納得できるはずがない。
モンスターは本来ダンジョンの中にしか存在しない、それが現実に現れたということはどこかのダンジョンから這い出てきたのは間違いないのだ。
「もう一度俺が探します、絶対どこかにあるはずです」
早く原因を突き止めなければ、また同じことが起きるかもしれない。
それに今回はなんとか被害もなく凌ぎきれたが、頻繁にこんなことが起きれば俺たちの身体が持たないだろう。
そもそもその場に都合よくいない可能性だって大いにある。
「そうは言っても10人以上で探しても見つからなかったのよ?」
「それに、痕跡がないことが不自然……」
「そうだよね、結局グラウンドの外にモンスターは現れなかったってことだもんね」
1日経ってもまるで進展が見られない、八方塞がりというやつだ。
何か重大なことを見落としている気がする、だがそれが何なのかはわからない。
そしてそれがわからない限り、俺たちはきっと真実には辿り着けない。
「正直この問題は私たちの手に負えるものではないと思うわ、一旦は協会に任せましょう」
「……わかりました」
「身バレの方の影響は……正直学校が始まらないとどうなるかわからないわよね」
「そうですね、SNSはすごいことになってますけど」
昨日は確かに学校中の生徒に身バレしてしまったが、あの後すぐに臨時休校となったため俺たちは逃げるように帰った。
次に学校に行った時に周りがどんな反応をするのか、想像したくはない。
「ないとは思いたいけれど、ストーカーの気配とかあったらすぐに連絡してね。こっちで対処するから」
「大丈夫、私がなんとかする」
凛さんが自信満々に答える。
頼もしいことには間違いないのだが正直なところ心配だ、相手の方が。
「他にも何かあればいつでも連絡してちょうだい」
「いつもありがとうございます」
「いいのよ。それが私の、マネージャーの仕事だもの。それに……」
「それに?」
「なんでもない。せっかくの休日なのに呼んでごめんね。今日はこれくらいで終わりにしましょう」
「わかりました、じゃあ失礼します」
出現したモンスターの謎にしろ、身バレしてしまったことにしろ、今はどうしようもないことばかり。
ひとまずは何かあればすぐに対処する、という形でこの場はお開きとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃあまた月曜日!」
「バイバイ……」
「ああ、またな」
一足先に最寄りに着いた俺は、二人に別れを告げて電車を降りる。
凛さんも今日はこれから予定があるということで、駅から家までの道は一人。
帰ったら何しようか。
ゆっくり寝るのもありだな、適当に動画を見るのもいいかもしれない。
一旦モンスターのことは忘れよう、さっきも電車の中で考えていたら二人に『さっきから上の空だけど大丈夫?』なんて心配されてしま──
「上の空?」
それは本当に偶然だった。
「そうか、それならダンジョンやモンスターの痕跡が見つからなくても不思議ではない」
俺たちはずっと思い込んでいた、ダンジョンは地上にあると。
しかし、もしもそれが空中にあればどうなる?
モンスターが上空からグラウンドに降りてきていたとしたら、周辺に痕跡が見つからないのも当然である。
答えに辿り着いた嬉しさから思わず笑みが溢れてしまう。
「ダンジョンはそこにあったんだな!」
そう言って空を見上げた俺は自分の目を疑った。
だって、一人の少女がゆっくりと落ちてきているのだから。
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