第22話 大反響

「お帰りなさい、お疲れ様!」


 事務所に帰ってくるなり、歩夢さんはエントランスで俺たちを出迎えた。


「ただいま戻りました」


「本当に無事で良かったわ。疲れたでしょ?少し休んでいって」


 歩夢さんに続いて空いている会議室に向かう。

 そこには三人分のお茶が置いてあった、どうやら配信が終わったのを見てから準備してくれていたらしい。


「それにしても本当にすごいわね、まさか三人だけで攻略してしまうなんて」


「あはは、ほとんど悠真くんの活躍だったけどね」

 

「さすがはDランク、といったところね」


「……Dランク⁉︎」


 美月が今までに聞いたことのないような大声で驚きを露わにする。

 そういえば流れで一緒に配信者としての活動をすることになったが、ランクとかについては何も話していなかった。


「そうよ、悠真くんはDランクなの。本人はそれが凄いって自覚はなかったそうだけど」


「そんなことあるんだ……」


 心底驚いた顔をしながら美月は俺を見る。


「しかもね、ずっとEランクが一番下だと思いながら挑んでたんだって」


「なにそれ……」


 言葉も出ない、と言った感じだ。

 歩夢さんと由那も苦笑いしながら頷いている。

 きっとみんなからすればあり得ない話に思えるのだろう。


 ただ一つだけ言い訳をさせてもらうとしたら、俺が勘違いしていたのは両親がダンジョンで命を落としたことも影響していると思う。

 そこがスタート地点だったからこそ、初めからダンジョンは酷く恐ろしいものだという先入観があった。


 そのせいでEランクダンジョンでティアマトやらグローツラングといった凶悪なモンスターが現れても、そういうものなのだと思っていた。

 ダンジョンは危険な場所、Eランクですらこんなモンスターが出現し、上のランクになればさらに強大なモンスターばかりになるのだ、と。


 そう勘違いしながら5年間Eランクダンジョンに潜り続けた結果、こうなった。


「だからあんなにEランクのモンスターに詳しかったんだ……」


「おかげさまでな」


 怪我の功名、というやつだろう。

 使い方が正しいのかはわからないが。


「ところで、みんなこのあと時間はある?」


 歩夢さんはパン、と一つ手を叩きながらそう言った。


「特に予定はないですけど」


「ならEランクダンジョン攻略とみんなの無事を祝って、このあとご飯に行かない?もちろん私の奢りよ!」


「さすがマネージャー!みんなで行こ!」


「私もいいの……?」


「もちろんよ。貴女たち三人、全員いないと意味がないじゃない」


 美月は自分だけ歩夢さんがマネージャーではないので遠慮していたのだろうが、由那がその手を掴む。


「さ、早く行こ!悠真くんも!」


 こうして俺たちは外食に行き、歩夢さんにたくさん美味しいものを食べさせてもらった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 少し時間は飛んで二日後の土曜日、俺は家でゆっくりしていた。


 昨日の学校は大変だった。

 さすがにEランクダンジョンの攻略と、何度も秘剣を使用したことによる疲れが大きく、授業中寝ないようにするので必死だった。

 それは由那や美月も同じだったらしく、昨日は全員眠気と闘っていた。


 そしてやはりというべきか、ダンジョン攻略の反響は大きかったらしい。

 昨日の学校でもずっと噂になっていたし、今もこうして寝転がりながらエゴサをしているが、いまだに二日前の配信に関する話題がトレンド上位をほぼ独占している。


 ここまで話題になると、次回普通の配信をすると逆に冷めるのではないか、と不安になるほどだ。


「まあ、その辺は歩夢さんに任せればいっか」


 あいにく俺は配信者のことはよくわからない、プロに任せるのが無難だ。

 それより今日は久々の休日、ゆっくり過ごそうと思いスマホをベッドに放り投げる。


 それから少しして、着信があってスマホが震えた。


「ん、なんだ?」


 スマホを拾いにいくと、相手は由那だった。


「もしもし?どうしたんだ?」


「悠真くん、今時間ある⁉︎」


 電話越しの由那はかなり慌てた様子だ。


「あるけど、どうかしたのか⁉︎」


「今凄いことになってるの!あのね、サタンって人の配信を見て!」


 てっきりまたダンジョンで危険な目に遭ったのかと思ったが、そうではないらしい。

 俺は安堵して胸を撫で下ろしつつ、言われた通りに配信を開く。


 サタンといえば世界最強の呼び声高い配信者集団『七つの大罪』のリーダーを務める男。

 全体の登録者数の合計は3000万越え、サタン一人でも500万人を超える名実ともに日本を代表するダンジョン配信者だ。


 今日は一人で雑談配信を行っているらしいが、それでも20万人近く集まっているあたり人気の高さが伺える。


『俺もこの前の配信は見てたんだよ、一回ニルとはコラボしてみたいよね』


「は?」


 配信を見始めた瞬間に聞こえてきたその発言に、俺は思わずそう言ってしまった。

 コメント欄を遡ってみてもどうやら俺に関する話題が少し前から続いているらしく、コラボを望む声が多い。


『俺らとどっちが強いって?いやぁ、そんなのわからないでしょ』


 由那が大慌てで連絡してくるのも納得だ。

 配信内でもその他SNS上でも、今のサタンの配信での発言が取り上げられている。

 各所でコラボして欲しいとか、或いはどっちが強いのか勝負してほしいとか、みんな好き勝手に言っている。


 何かしらの形で共演するのはともかく、勝負するのはおかしいだろ。

 そんな感想を抱いていたのも束の間。


『みんながそんな言うなら、いっそ今ここで連絡しようかな』


 突然そんなことを言い出したのであった。

 

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