第16話 鼻先の人参
目の前で二人の女性が服をはだけて、胸や尻を見せつけてきた。
天下の往来で何をしているのだ……リオンは顔を赤くして、慌てて怒鳴る。
「馬鹿なことを言うんじゃない! さっさと服を着てくれ!」
「貴様が首を縦に振ったらな!」
「断固拒否」
「ああもう……まさか、本気で抱かれるとか言ってるのか?」
「もちろんだ! 貴様のような暴漢にアルフィラ様を奪われるよりもはるかにましだ……滅びるがいい!」
「残虐非道。悪即斬」
「人聞きが悪すぎないか!?」
二人の言い分はあまりにも一方的かつ苛烈である。
まるで、すでにリオンがアルフィラを凌辱したかのようではないか。
「勘弁してくれ……いや、好都合? わからない……何なんだ、この状況は……」
リオンは混乱のあまり頭を抱える。
戦って勝ったら抱かせてくれるというのは目標に合致しているような気がしなくもないが、目の前の二人が自分の子供を産んでくれるとはとても思えない。
万が一、子を孕んだとしても……リオンのことを憎みきっている二人のことだ。子供を産むことも育てることもしない可能性の方が高かった。
(ましてや、女を打ちのめして無理やり抱くようなこと、男としてできるものか)
「……断る。帰ってくれないか」
リオンは目先のニンジンに喰いつくようなことはせず、きっぱりと拒絶を示す。
「何だと!? この私の身体に価値がないというのか!」
「無礼千万」
「そんなことは言ってない! だから脱ぐな!」
二人がさらに服を脱ごうとしていた。
公爵家の家臣だと言っていたが、こんな狂犬か露出狂かもわからない人間をこの町の領主は飼っているというのだろうか?
「フハハハハッ! どうだ、貴様が我らとの戦いを受け入れるまで脱ぎ続けるぞ!?」
「回避不可。強制戦闘」
「ああもう! だからやめろって……!」
リオンは服をはだけている二人に手を伸ばし、どうにか脱いだ服を着せようとした。
しかし……リオンの指先が彼女達に触れた途端、二人がニヤリと唇を吊り上げる。
「「きゃああああああああああああっ!」」
「なっ……!?」
「私は今、乱暴されたぞ! この男が私を襲おうとした!」
「痴漢発見。断固抹殺」
「ああ、こうなった以上は反撃をするしかない! この男を剣で切り刻んだとしても不可抗力ではないかー!」
「あ……コイツら……!」
二人が一瞬で服を直して、背後に飛び退る。
一方が剣を、一方が杖を構えて、先端をリオンに向けてきた。
「最悪だ……この女達……」
まさか、痴漢冤罪を仕立て上げてまでリオンと戦おうとするとは思わなかった。
どこまでリオンを叩きのめしたいというのだ……アルフィラに子作りをお願いしたことがそんなにも罪深いことだったのだろうか?
「クックック……死ぬがいい」
「滅殺確定。撲殺開始する」
「……仕方がない。ここまできたら
リオンは戦う覚悟を決めた。
仮にリオンが逃げ出したとしても、彼女達はどこまでも追いかけてくることだろう。
ならば……面倒事は早めに済ませてしまった方が良いに決まっている。
「了解した……ただし、ここでは周りに人が多すぎる。もっと開けた場所に移動しないか?」
「いいだろう……死に場所は選ばせてやる!」
「荒野希望。断末魔、好きなだけ上げる」
「……とりあえず、都の外まで行こうか」
リオンは都の城門へ向かって大通りを歩いていく。
二人はリオンに武器を突きつけたまま、後ろから付いてくる。
すれ違う人々から好奇の眼差しを向けられてしまったが、気にすることなく都から出ていった。
城門に立っていた兵士が何事かという目をしていたが、リオンの後ろにいるのが公爵家の家臣……つまり身内であることに気がつくと、申し訳なさそうに視線をそらした。
(職務怠慢だな……どうでもいいけど)
「そういえば、今日はアルフィラ……様は一緒じゃないのか?」
「アルフィラ様は所用があって、公爵家の屋敷にいらっしゃる……助けを期待しているのであれば無駄だぞ!」
「往生際悪し」
「そういうわけじゃない……だから、護衛の君らが好き勝手にやってるというわけか。監督不行き届きだ……軍隊だったら連帯責任で懲罰ものだよ」
「はあ?」
「何でもないよ……それよりも、ここなら誰にも迷惑がかからないだろう」
都から少し離れた場所にある平原までやって来て、リオンは改めて二人と向き直る。
「一応は名乗っておくけど……リオン・ローランだ」
「アルフィラ様を守る『右壁』のミランダ・アイスだ!」
「『左壁』、ティア・アックア」
「うん、よろしく。それじゃあ決闘開始ということで、何か合図は……」
コインでも投げようかとポケットを探るリオンであったが……直後、不吉な声が耳朶を震わせる。
「『
「あ……」
不意打ちの一撃。
二人の女性の一方……ティアの杖から放たれた火球がリオンの足元に着弾し、真っ赤な炎を撒き散らして爆発したのである。
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