第19話 賢者タイム


 数時間後。

 太陽が昇るかどうかという時間帯になって、リオンはトボトボと暗い森の中を歩いていた。


「……やってしまった。抱いてしまった」


 メイナとアルティ。

 かつて同じ村で生まれ育った幼馴染とよく似た姉妹と身体を重ねてしまった。


 朝になって村を旅立ったリオンであったが……姉妹には別れの挨拶はしていない。

 まるで夜這いを果たした間男が逃げるように、夜明けと同時にリオンは村を出た。


 リオンに抱かれたばかりに二人はクッタリと果てており、目を覚ます様子は少しもなかった。

 リオンにとっては初めての情事である。

 勇者の底無しの精力を……解放されたばかりで、暴走する雄の衝動を正面から受けることになった姉妹は、完全に体力を使い果たしてしまったようだった。


「もしかして……二人は俺の子を孕んでしまったのだろうか?」


 森の中をトボトボと肩を落として歩きながら、リオンは表情を曇らせる。

 仮に孕んでいたとしても、今回の件についてリオンが悪いかと聞かれるとそうではないはず。

 先に迫ってきたのは二人だし、同意の上で行為に及んだ。

 ついでに言うのであれば、リオンは女神から子供を作るようにとのミッションを受けている。

 リオンが子供を作らなければ世界は破滅。十分な大義名分は持っていた。


 むしろ子供ができた方が良いのであって、気に病むようなことではない。

 それでも逃げるようにして村から出てきたのは、やはり未婚の女性の処女を散らしてしまったことへの罪悪感があったからである。

 罪滅ぼしだとばかりに、昨日、魔窟で採掘したオークの素材を置いてきた。

 魔窟の魔物の素材はかなり高値で売れる。あれだけの量があれば一財産だ。二人が子供を産んだとして、成人するまでの養育費には十分だろう。


「……俺はこれからもこんな気持ちを抱えて、女性と行為に及ばなければいけないのか? 百人も子供を作るまで、続けられるのか?」


 落ち込んだ様子のリオンであったが……この自己嫌悪はいわゆる『賢者タイム』と呼ばれるものである。

 初体験を経たことで禁断の果実の味を知ったリオンは、これからも多くの女性と肌を重ねることだろう。

 そして、女神の狙い通りに多くの子供を作るはず。


 リオンは気がついていない。

 復活した自分の身体に、女神がとある細工をしていることに。

 勇者として女神の加護を生まれ持ったリオンの肉体には、新たな力が付与されていた。

 リオンに抱かれた女性は、リオンに対して強い感情を持つほどに妊娠する確率が高くなる。

 月経の周期や種族ごとの肉体の違い、『妊娠』という概念を持たないはずの存在にすら強制的に子を孕ませることができる能力。

 その名も……『子宝繁栄リビドーバースト』。女神がリオンに与えたもうた新たな加護である。


 百人の子供を作る。

 そんな使命を抱えたリオンの旅路、勇者のアフターストーリーはまだまだ始まったばかりなのだった。

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