第18話 勇者の初体験
「フウ……」
十分に酔いを醒ましたリオンは孤児院の一室で横になっていた。
安物の固いベッドの感触に背中が痛くなるが、気にすることなくぼんやりとした眼差しで天井を見上げている。
「…………」
声を発することなく、リオンはただ虚空を見つめる。
明日には村を出ると決めたはずなのに……不思議とそのまま眠りにつく気にはなれなかった。
百年ぶりの帰郷を果たし、両親の弔いを済ませ、幼馴染の子孫らしき二人の女性の手助けをした……新たな旅立ちを止める理由は何も無いはずなのに、何故かやり残したことがあるような気がしてならない。
(いけないな……これは未練だ。久しぶりの故郷、幼馴染とよく似たメイナとアルティと過ごす時間の心地良さのせいで、後ろ髪を引かれてしまっているみたいだ)
この村で過ごしたのは二日に満たない時間だったが、驚くほど安心する
特別な何かがあったわけではない。それなのに充実した時間を過ごせたのは、やはりここが生まれた故郷だからなのだろう。
(できることなら、もう何日か滞在をしたいところだけど……それは許されない。私情のために世界の命運を揺らがせるわけにはいかないな)
リオンは大きな町に出て、そこで子供を作らなくてはいけない。
勇者の子孫を残すことこそが女神から与えられた使命であり、リオンが復活した理由なのだから。
リオンが私情を優先させて使命を放り出してしまえば、甦った邪神によって世界が滅亡に追いやられてしまう。
自分と仲間が命を捨てて守った世界が邪悪に滅ぼされるなど、絶対にあってはならないことである。
リオンがそんなふうに自分に言い聞かせていると……ふと、ギシリと床が軋む音がした。
「……誰だ!?」
素早くベッドから身体を起こして音がした方向を確認すると……廊下に繋がっている扉がゆっくりと開いた。
「…………は?」
「こ、こんばんは。失礼いたします……リオン様」
そこに立っていた人間の姿を目にして、リオンは目を見開いた。
扉を薄く開いて申し訳なさそうにこちらを窺っていたのは、この村で出会った姉妹の片割れ……メイナである。
「少し、お話できませんか? その……お邪魔でなければ」
「……あ、え、ああ。それは別に、ええっと……いいんだけど……?」
思わずどもってしまったのは、夜半に思わぬ訪問を受けたからではない。
現れたメイナの姿形……身にまとっている服装が理由である。
(な、何でこんなエッチな格好をしているんだよ!?)
リオンは心の中で叫んだ。
部屋に入ってきたメイナは紫色の絹のネグリジェを着ており、開いたボタンからは胸の谷間がしっかりと見えていた。
どうやら、メイナは着やせするタイプらしい。服の上から見たよりもサイズの大きな乳房がハッキリと自己主張しており、誘うようにフルフルと揺れている。
田舎の村、貧しい孤児院には似合わない隠微な下着であったが……それはかつて、孤児院の院長であるレジーナが行商人から買い、姉妹に与えた勝負服である。
『いくら貧乏だからって、最初の夜くらいは着飾らないとねえ。その時が来たら、しっかりとやるんだよ!』
そう力強く力説したレジーナの言葉を当時のメイナは理解できなかった。
しかし、今ならばはっきりとわかる。
女には後先考えずに、本気にならなければならない時がある。今こそがメイナにとって、最初で最後のその瞬間なのだ。
「リオン様は……私のことをどう思っていますか?」
「ど、どうって……」
「私はリオン様のことをお慕いしております。貴方に命を救われて、貴方が剣と魔法を振るっているところを見て、胸がドキドキしてお腹の奥が熱くなって……もう苦しくて、耐えられないんです……」
「へ、へえ……それはいったい……」
メイナがジリジリと近寄ってきて、とうとうベッドの上にまで侵入してくる。
リオンは人生で一度として味わったことのない事態に直面して、激しく混乱しながら端に追い詰められてしまう。
明らかに一歩引いた様子のリオンを見て、メイナが悲しそうに瞳を濡らす。
「……やはりご迷惑でしたよね。私のような平凡な村娘がリオン様に触れるなんて、そんなことは許されませんよね」
「い、いやいやいやっ! そういうことではなくて、その……急なことでわけがわからないというか……」
「妻にしてくれなどと言うつもりはありません。ただ……私はリオン様が旅立つ前に、ほんの一晩だけで良いので情けを与えて欲しいのです」
「ッ……!?」
メイナがリオンの手を取り、自分の胸元へと誘導する。
薄い下着越しに感じるたわわな感触。人間の身体にこんなにも柔らかい部位があるだなんて、リオンは人生で知らなかった。
「リオン様……どうか、私を哀れと思うのであれば抱いてください。卑しいこの身を、どうか一夜だけでも……」
「ちょっと待ったあああああああああああああっ!」
「うわあっ!?」
突然の怒鳴り声に、リオンが一番驚かされてしまった。
心臓を跳ねさせて声の方向に目を向けると……開け放たれた扉の前にアルティが仁王立ちをしている。
「お姉ちゃん! どうしてリオンお兄さんに迫ってるのよ!」
「ブッ!」
そこにいた少女の姿を見て……リオンは思わず吹き出した。
メイナよりも一回りは小柄なアルティであったが、彼女もまた下着姿だったのである。
アルティが着ているのはメイナとは色違いでピンク色をした半透明のネグリジェ。胸の膨らみは小さめなものの、健康的な太腿がよく締まった腹筋がどうだとばかりに自己主張をしている。
「お、お前もか……」
「抜け駆けはズルいよ! 私だって、リオンお兄さんに抱いてもらいたいんだからね!?」
「フフッ……それじゃあ、姉妹で一緒にご奉仕をいたしましょうか。私達を救ってくれた恩人に身体で御礼をしましょう?」
メイナに続いて、アルティもまたベッドに乗ってきた。
顔を朱に染めた二人の女性。かつて恋した幼馴染によく似た容姿の姉妹がエッチな格好をして、リオンに迫ってくる。
「リオン様……」
「リオンお兄さん!」
「う……」
そんな状況にリオンは脳みそが茹で上がりそうになりながらも、どうにか覚悟を決めて姉妹を両手で抱き寄せる。
「お……
リオンの腕の中で、美しい姉妹が嬉しそうに嬌声を上げたのであった。
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