第17話 勝利(子作り)宣言
リオンが爆炎に包まれる。
真っ赤な炎の中に消えていくリオンを見送り、ミランダとティアは頷き合う。
「死んだな!」
「確実抹殺」
完全な不意打ち。公爵家の家臣としてはあるまじき攻撃である。
しかし……二人は悪びれる様子はない。
何故なら、この戦いを『決闘』だとは思っていないからだ。
彼女達にとって、この戦いはあくまでも彼女達の主人……アルフィラ・スノーウィンドに近づく邪悪な虫を焼き殺すための『駆除』なのである。
「この様子ならトドメは必要ないな! お嬢様に不埒な目的で近づくからこうなるのだ、愚か者め!」
「天罰覿面」
一人の人間を殺害しておいて少しも罪悪感を持っていない二人であったが……彼女達は別に、日常的にこうした人殺しをしているわけではない。
二人は主人であるアルフィラに対して深い忠誠心を抱いていた。
それ故に時として暴走をして、アルフィラに良からぬ目的で接近する男を叩きのめしている。
ミランダとティアによって排除された男の数は両手両足の指を合わせても足りない程だったが……それでも、殺人までしたことはなかった。
彼女達が普段とは異なり、焼き殺すまでに過剰な攻撃を仕掛けたのには理由がある。
一つ目の理由はリオンの口説き文句。
『子供を産んでくれ』などという直接的に性を押し出してくる言葉……公爵家の家臣である彼女達にとっては何よりも尊ぶべき『血』を汚すようなその口説き方は、アルフィラに忠誠を誓う二人にはとても看過できないものだった。
そして、もう一つの理由が……そんな口説かれ方をしたアルフィラの反応である。
『……彼はなかなか面白そうな青年ね。もっとロマンチックな言葉で誘われていたら靡いてしまったかもしれない』
リオンと別れてから、アルフィラはそんなふうに口にして微笑んでいた。
美貌の容姿と家柄、戦いの才能から多くの男性から秋波を寄せられていたアルフィラであったが、こんな反応をしたのは初めてである。
『それに……彼からは随分と強い力を感じた。剣士か魔法使いかはわからないが、相当な使い手だろう。手合わせを願いたいくらいだ』
本人が意識しているかは知らないが……アルフィラは間違いなく、リオンに対して興味を持っていた。
長い付き合いの従者二人だからこそわかる。
アルフィラをもうリオンに会わせてはいけない。
このままでは……これまで守り続けてきたお嬢様が、どこの馬の骨ともわからない男に惹かれてしまうかもしれない。
「気の毒だが……アルフィラ様の貞操を良からぬ男に渡すわけにはいかない!」
「同意。大いに肯定」
「アルフィラ様の夫となる御方は王侯貴族に連なる貴公子か……さもなければ、伝説に残るような英雄でなければならないのだ!」
「力不足」
「さて……人が集まってくる前に退散するぞ! いかに許可なく身体を触れられそうになったための正当防衛とはいえ、見咎められたら面倒なことに……」
「『流れよ剣』」
「退避!」
ティアがミランダに飛びつくようにして押し倒す。
次の瞬間、いまだ燃えさかっている爆炎の中心から透明色の刃が一閃する。
「流石に酷いな……俺じゃなかったら死んでいたぞ」
真っ赤な炎が切り裂かれ、中から人影が歩み出てくる。
右手に波打つ奇形の剣を手にして現れたのは、炎に包まれて焼き殺されたはずのリオン・ローランであった。
「なっ……貴様、生きていたのか!?」
「驚天動地……!」
折り重なるように地面を転がりながら、ミランダとティアが愕然と叫ぶ。
リオンの手には水で構成された魔法剣が握られていた。あの剣で爆炎を一閃して、引き裂いたのだろう。
ティアが直前で気がつき、咄嗟にミランダと地面を転がったから良いものを……回避が遅ければ、まとめて斬られていた可能性もある。
二人は地面から身体を起こし、身体についた煤を払っているリオンを睨みつけた。
「貴様……どうやら、あの程度では不十分だったようだな! これはアルフィラ様が気にかけるのも認めざるを得ない!」
「認識不十分」
「だが……だからといって、貴様を認めたわけではない! 焼き殺されるのが嫌ならば今度はこの剣で……」
「五月蠅いよ、静かにしてくれ」
「「…………!」」
リオンの身体から強烈な『圧』が放たれた。
二人は気圧されたようにその場を飛びのいて距離を取る。
「正直、適当に流して終わりにするつもりだったんだけど……気が変わったよ」
リオンは別段声を荒げるでもなく、淡々とした口調で告げる。
「そっちが殺す気でくるのなら、こっちも潰す気でいかせてもらう。命までは取らないから安心すると良いよ」
「貴様……何者だ?」
「……不可思議」
「誰でも良いだろう。別に」
リオンが右手を振ると、水の刃がムチのように長く伸びて地面を抉る。
「君達は言っていたね。俺が勝ったら、自分達の身体を好きにしても良いと……だったら、そうさせてもらうことにするよ」
リオンは真っすぐな目で二人を見据えて、堂々と宣言する。
「君達を倒して抱くことにする。嫌というほど、忘れられなくなるくらいに身体に俺の存在を刻みつけることにした。
「「…………!」」
リオンが放った言葉に二人は戦慄とも恐怖ともつかない薄ら寒い感情を覚えて、それぞれの武器を握りしめるのであった。
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