第4話 勇者と偽メイド(×2)


「アレ? 兄貴じゃないっすか、何やってんすか?」


「ジェイルか、偶然だな」


 スノーレストの町を歩いていると、顔見知りと遭遇した。

 自称・リオンの舎弟であるジェイルだった。


「何か、決闘騒ぎがあったって聞きましたけど、大丈夫っすか? 見たところ、怪我はないっすけど……」


「ああ……問題ないよ。見ての通りだ」


「へ?」


 ジェイルがリオンの後ろを覗き込む。

 そこにいる人物を見て……大きく目を見開いた。


「その二人って……いや、『北風の調べ』のメンバーじゃねっすか! 何でメイド服を着てんすか!?」


「「…………」」


 町を歩くリオンであったが、その後ろには従者としてミランダとティナが付き従っている。

 二人は何故かメイド服を着ており、屈辱を絵に描いたような表情をしていた。


「まあ、色々あってな。説明すると長くなるんだが……」


「よくわかんねすけど、流石はアニキっす。マジパネエっす」


 ジェイルが尊敬と畏怖を込めた目でリオンを見やる。


「Aランクパーティーの二人をやりこめちまうって、尊敬するっすよ」


「それは良いとして……ちょっと聞きたいんだが、この時間に娼館に行っても開いているだろうか?」


「はあ、また姉ちゃんに会いに行くんすか? 女連れで娼館いくとかマジパネエすね」


「別に買うわけじゃない。ちょっと話を聞きたいだけだよ」


「話? ピロートークっすか?」


「…………違う」


 首を傾げるジェイルに、リオンが嫌そうな顔をした。


「聞きたいのは彼女がかけられた呪いについてだよ。いつ、どこで、どんな経緯で呪いをかけられたのか知りたいんだ」


「…………!」


 リオンの言葉に、ジェイルが言葉を失った様子でパクパクと口を開閉させた。



     〇     〇     〇



「……まさか、男とこんなところに来るとは思わなかった」


「……鬱展開」


 娼館の前に到着すると、ミランダとティナがそろって陰鬱な溜息を吐いた。


「決闘に負けた以上、抱かれることに異存はない」


「不承不承」


「だが……お嬢様以外に仕えるのは不本意だ。それもお嬢様を汚そうとした悪漢に……!」


「鬼畜撲滅」


「いいか! 私達のことは好きにして構わん! だが……お嬢様に手を出したのであれば、刺し違えてでも仕留める!」


「絶対抹殺」


「……何というか、本当に君達にだったら何をしても許される気がしてきたよ」


 ある意味ではやりやすいと思うべきなのかもしれない。

 決闘で倒した相手を抱くという行為に抵抗があったのだが、アルフィラの許可がなかったとしても、彼女達ならば遠慮はいらないようだ。


「別に中までついてこなくていいぞ。話を聞くだけで変なことをするつもりはないけど……やっぱり、女性には入りづらい場所だろう?」


「……それでは、お言葉に甘えて外で待たせてもらおう」


「同意」


「お嬢様から金を預かっている。私達が迷惑をかけた賠償金らしい。謹んで受け取れ」


「感謝求む」


「……賠償金よりも、君達の心からの謝罪が欲しいよ。本気でね」


 とはいえ、活動資金は普通に有り難い。

 リオンはずっしりと金貨の詰まった袋を受けとった。


「あれ、また来たのかよ」


 娼館に入ると、もはや顔なじみとなった受付の男が出迎える。

 この男と会うのは、今日で三日連続。

 常連客というか、風俗という沼にハマった廃人のような状態である。


「まだ昼間だってのに、お盛んなことだな……御指名はフェリエラかい?」


「ああ、いるかな?」


「彼女は滅多なことがなければ出かけないよ。あの顔だからな」


「…………」


「おっと……怖い顔するなよ。いつもの部屋だ。先に待ってな」


「…………どうも」


 鍵を受けとって、リオンは三日連続で同じ部屋へと入室する。

 ベッドに座って待っていると、すぐに彼女が現れた。


「また来たんですか……本当に物好きな御方」


 こんな時間に、客なんて来るはずがないと寛いでいたのだろう。

 露出の大きいドレスではなく、普段使いのワンピースを着たフェリエラが呆れた顔をして現れた。

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