第15話 王宮へ


 翌日、リオンとアルフィラはシュエットの案内を受けて、セントラル王国の王宮へと向かうことになった。

 前日は王都にある宿屋に泊まっている。

 もちろん、リオンとアルフィラの部屋は別々だったが、宿泊費用は彼女が持ってくれた。

 同行していたミランダとティアはアルフィラと一緒に泊まっている。

 最近はリオンと同じ部屋に寝泊まりしており、毎晩のように身体を重ねていたのだが……昨晩は二人ともアルフィラの部屋についていった。


 久しぶりの一人の夜。

 やや人恋しさはあったものの、ゆっくりと眠ることができた。


「それでは、皆様。今日はよろしくお願いいたします」


 朝になり、リオン達は聖堂へ訪れた。

 シュエットはすでに準備を終えており、どこか緊張したような硬い笑顔で迎えてくれる。

 昨日は修道服を着ていたシュエットであったが、王宮にいくということもあって、白のドレスに着替えていた。

 飾り気はないが清楚可憐なドレスはシュエットによく似合っており、彼女の透明感のある美貌を引き立てている。


「すでにお兄様にアポイントメントは取っています。かなり時間はかかりましたが……ようやく、お兄様がしていることについて問い詰めることができそうです」


「万一、王太子殿下が呪いをかけているという確証が得られたら、どうするつもりだ?」


 アルフィラが確認すると、シュエットは胸の前で右手を握りしめる。


「兄を説得して止めます。もしも、説得に応じてくれないようなら……神聖魔法を使用します」


「神聖魔法……」


 神聖魔法とは、神の力を借りて行使する魔法である。

 実際に女神の加護を得ているわけではないのだろうが、信仰を力に変えて魔法を発動させるというものだった。

 神聖魔法は主に怪我の治癒に使われるものだったが……高位の神官のみが使える『天罰覿面ジャッジメント』という魔法には罪人を裁くという能力がある。

 もしも王太子が多くの令嬢達に呪いをかけているというのなら、その魔法の対象としては十分だろう。


 とはいえ……兄であり、王太子という国王を除けば最高の権力者である人物に、その魔法を使うのはさぞや覚悟がいることだろうが。


「公爵令嬢であるアルフィラ様の身分であれば、王宮への立ち入り許可はすぐに下ります。他の皆さまは私とアルフィラ様の従者ということにさせてください」


「問題ありません。元々、私はお嬢様の従者です」


「ノープロブレム」


 ミランダとティアがすぐに応じて、リオンも頷く。


「問題ないよ。そういうことにしておいてくれ」


「ありがとうございます。それでは……参りましょう」


 一行は馬車に乗り込み、王城へと向かった。

 城を囲んでいる城壁、その門扉の前で兵士には止められてしまったが、馬車の主がシュエットであることを確認すると、ノータイムで通してくれる。


「これはこれは、シュエット王女殿下……お久しぶりでございます」


 城に入った一行を出迎えたのは、老年の執事だった。

 シワのある顔つきに柔和な笑みを浮かべて、シュエットに懐かしそうに話しかける。


「殿下が王宮を出て、神殿に入ってから三年……王宮はすっかり、寂しいものになってしまいました」


「父上はどうしていますか?」


「寝込んでおり、目を覚ます様子はありません。相変わらずでございます。政務は王太子殿下が代行しておられます」


「そうですか……」


 シュエットが表情を曇らせるが、すぐに気を取り直したように首を振る。


「それでは、兄上にお会いすることはできますか?」


「はい、庭園でお待ちになっております。案内いたしますのでついてきてください」


「はい、お願いします」


 執事が先導して、やってきたのは王宮の中庭にある庭園である。

 丁寧に手入れをされた植木が等間隔に並んでおり、季節の花々が咲き乱れていた。


「懐かしいな……ここは変わらない」


「アルフィラ?」


「五年前、王都に滞在していた際にこの庭園によく訪れていたものだ。サフィナとレオバード王太子殿下が交流していたのも、この場所だったな」


 アルフィラにとってそれは良い思い出なのだろうが……その王太子が妹に呪いをかけたのかもしれない。

 美しい記憶が土足で踏みにじられようとしている。さぞや複雑な心境に違いない。


「……まだ王太子がやったと決まったわけではないんだろう?」


「そうだな……まあ、気休めではあるが。気を遣わせてしまってすまないな」


 アルフィラはすぐに毅然とした表情に戻って、前方に目を向けた。


 そのまま庭園を歩いていくと、開けたスペースに出た。

 そこでは円形のテーブルとイスが置かれており、周囲の花々を眺めながらお茶が飲めるようになっていた。


「やあ、久しぶりだね……我が妹よ。また会うことができて嬉しいよ」


 先にそこにいた男が椅子に座ったまま、話しかけてくる。

 優雅に脚を組み、出迎えてくれたのはリオンよりもやや年下の男性だった。

 幼さが残る顔立ちではあるものの、意思の強そうな切れ長の瞳、皮肉そうに歪められた唇が酷く印象的である。


 レオバード・セントラル。

 アルフィラの妹やフェリエラに呪いをかけている可能性が高い、最重要参考人。

 大国セントラル王国において、国王に次ぐ地位になる人物がリオン達を待ち構えていた。






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