第9話 姉妹攻略からの爆弾投下

 こうして、長い夜が明けた。

 暴走状態のベルハルトと戦闘することになったリオンであったが……それなりの苦戦を強いられた。

 ベルハルトはアルフィラに負けず劣らず、かなりの使い手であり、リオンであっても殺さずに仕留めるのが至難の相手である。

 殺さない程度にダメージを与えていったのだが、第二、第三形態へと変わっていき、二時間以上もかけてようやく地に沈めた。


 そして、その後はアルフィラとサフィナと戦うことになった。

 場を改めて、寝室のベッドに移動して。


 アルフィラは最初こそ緊張してしおらしくしていたものの、徐々に感覚を掴んで後半は積極的にリオンを責めてきた。

 サフィナは終始、リオンのされるがままにされていたのだが……姉に負けじと意地を見せて、日が昇るまで気を失うことなく耐えていた。


 子を孕むかどうかは神のみぞ知ることであるが、一晩で公爵家の三姉妹全員に子種を注ぐことに成功したのである。



     〇     〇     〇



「順調と言いたいところなんだけど……何だこれ?」


 リオンは大きな包みを前にして、首を傾げる。


「さあ……王都のシュエット殿下から送られてきた物だ。宛名は貴様のものになっているな」


 リオンの問いに答えたのは、アルフィラの護衛役であるミランダだった。

 すでに時間は昼に近い時刻となっている。

 リオンはすでに目を覚ましていたが、スノーウィンド公爵家の面々はいまだに寝室から起きてこない。


 アルフィラ、サフィナはリオンと何度となく身体を重ねて、体力を使い果たして眠っている。

 マリアステラは浴室でリオンと重ねた後に、夫と一緒に寝室に消えていった。その後、夫婦の間に何が起こったのかは不明である。

 屋敷の主人であるベルハルト・スノーウィンドは嵐の後のように滅茶苦茶になったリビングで、膝をついて廃人となっていた。

 自分の娘を守るために戦い、力及ばずに敗れた父親の姿がそこにはあった。


 そんな中、王都にいるはずのシュエット・セントラル王女からリオン宛てに荷物が届けられたのだ。

 荷物は人間の身長を超えるほどの大きさがある。

 いったい、シュエットは何を送りつけてきたというのだろう。


「とりあえず……開けてみようか」


 リオンは意を決して、荷物を縛ってあるヒモを切断した。

 包み紙を剥がすと、大きな木箱が現れる。


「これは……?」


 釘で打ちつけられた箱を開けると、中から出てきたのはマネキンのような人形である。

 裸で服を着ていないが、女性を象ったもののようだ。

 関節部分は球体となっていて一目で人工物であるとわかるが、それ以外の場所は驚くほどに精巧。

 整った相貌。青色の髪は滑らかで絹のよう。

 乳房や陰部に至るまで、生きた女性そのものの形状をしていた。


「これが王女殿下から……貴様、おかしな趣味を殿下に話したのではないだろうな?」


「ギルティ」


 ミランダが、その背中からひょっこりと顔を出したティアまでもが、あらぬ疑いをリオンにかけてくる。


「そんなわけないだろうが! まったく……シュエットもどうして人形なんかを……?」


 布くらい被せないと、目のやり場に困る。

 リオンは怪訝に思いながらも、人形に手を伸ばして触れようとした。


「起動します」


「わっ!」


 急に人形がしゃべりだした。

 両目をパッチリと開いて、緑色の瞳でリオンを捉える。


「お久しぶりです。勇者リオン・ローラン。お会いすることができて嬉しく思います」


「に、人形がしゃべっただと!?」


「怪奇現象!」


 ミランダとティアも驚きの声を上げる。

 人形少女は二人のことなどいも介さず、箱から進み出た。


「君は……いったい……?」


「私のことをお忘れですか、リオン・ローラン。私です……ギガント・ソルジャー3です」


「ぎ、ギガントって……」


 誰だよと口にしそうになるが、リオンはその名前に聞き覚えがあった。


「まさか……ミーサの作ったゴーレムか!?」


 リオンは思わず、声を上げた。


 ミーサというのはかつての仲間の一人。邪神討伐メンバーの中心人物。


『悪魔の智慧』ミーサ・サンダーカノン

 百年前の大戦期において、最高の錬金術師。

 数十体ものゴーレムを使役して前線で戦わせ、多くの兵士の命を救った英雄。


「はい。その通りです。私はサンダーカノン博士によって生み出された戦闘用ゴーレム。その生き残りです」


 その人形の女性……GS3《ギガント・ソルジャー3》は機械的な口調で、ハッキリと宣言した。


「このたびは博士の最後の命令を受けて、リオン・ローランに仕えるためにこちらに参りました。どうぞ、私を好きなようにお使いくださいませ」


「好きなようにって……」


「盾とするのも良し、荷物持ちなどでこき使うのも良し。夜伽もこなして見せましょう」


「…………」


 全裸の女性型ゴーレムが言い放った言葉に、リオンは顔を引きつらせて一歩二歩と後ずさるのであった。

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