第7話 初仕事
冒険者として登録して、リオンが最初の仕事に選んだのは薬草採取だった。
登録したばかりの新人冒険者のための簡単な仕事。リオンが生まれ育った村では、冒険者ですらない子供だってやっていたことである。
「お、見つけた見つけた」
リオンはスノーブルクの都から出て、少し離れた場所にある森に赴いた。
幸い、故郷にいた頃に薬草採取はやったことがある。
そこまで苦労することなく、治療薬の材料になる薬草十株を採取することに成功した。
(これにて初仕事達成。一時間くらいはかかったかな?)
集めた薬草の束を見やり、リオンは肩をすくめた。
これで仕事は終了になるが……この依頼による報酬は銀貨一枚。夕食代くらいにしかならない金額だった。
(食事なし、素泊まりの相部屋の宿屋だったらギリギリ泊まれるだろうけど……さすがに厳しいね)
下級の冒険者はその日暮らしで厳しい生活をしていると聞いたが、この報酬額ではその通りなのだろう。
(こうやってまともに冒険者をやって、一人の女性を身請けするのにどれくらいかかるんだ?)
仮に一人の女性を身請けするのに必要な金額を金貨百枚とする。
今回の報酬は銀貨一枚。金貨の十分の一の金額だ。
金貨百枚を集めるために同じ依頼を一千件受けなければならず……一件あたり一時間がかかるとして、必要な時間は一千時間。
つまり……休まず眠らず仕事をして、四十日以上もかかる計算になる。
(ダメだな……やっぱり、まともに働いてはいられない)
こんなペースでは、金策だけで一年間という短い寿命を使い果たしてしまう。
ルール違反かもしれないが……別のやり方で金を集める必要がある。
(それじゃあ……そろそろ、始めるか)
「よし、行こう!」
表向きの仕事である薬草採取を終えたが、リオンは町に帰ることなく駆けだした。
足を向けたのは森のさらに奥の奥。
魔物の巣窟になっているであろう場所である。
(まともに下積みから冒険者をしていても、必要な金をかかるのにとんでもなく時間を消費してしまう。だったら、掟破りでもランクに見合わない魔物を倒して、一気に大量の金を稼ぐ!)
リオンの金策とはそれである。
冒険者になったばかりのFランクでは高額報酬の依頼は手に入らない。
ならば……依頼を受けることなく魔物を倒して必要な素材などを入手し、なし崩し的に依頼を達成させてしまう。
成功条件が揃っているのであれば、ランクはもはや関係ない。
素材と引き換えにして報酬が手に入るはず。
(魔窟があれば稼ぎたい放題だったんだけど……この近くにはなかったはず)
ならば……数で稼ぐしかない。
リオンは精神を研ぎすませて、魔力の感覚を広げていく。
勇者であるリオンは体内に保有している魔力量が常人よりも遥かに大きい。
その莫大な魔力を体外に放出することにより、レーダーのように感覚を強化していった。
(……東の方角にゴブリンが五体。南にコボルトが二体。北西に狼と思われる四足獣が七体)
「東からだな」
リオンは地面を蹴り、木々の合間を縫うようにして駆け抜けていく。
敵を補足してから三十秒とかかることなく目的の場所まで踏破して、ターゲットを発見する。
「ギイッ!?」
「見つけた」
魔力が教えてくれた情報の通り。
五体のゴブリンがいて、獣の死骸を貪っていた。
ゴブリンは繁殖力の高い雑食の魔物。農村の作物を荒らしたり、家畜を攫ったり、時には人間の子供を食べたりもする。
(一匹あたりが弱いから勘違いしそうになるが、数が多いだけに被害は国中で生じている。見つけ次第、駆除しなければいけない人間の敵)
「急に現れて悪いとは思うけど……死んでくれ」
「ギギッ……!」
リオンは右手に魔法の剣を生み出した。
手に現れた風の剣が閃くや、獣を喰らっていたゴブリンの首が飛ぶ。
逃げる暇も抵抗する暇も与えることなく、五体のゴブリンが物言わぬ死体となった。
「『納品依頼。ゴブリンの魔石を五つ。報酬は銀貨三枚』……今晩の宿代くらいにはなるかな?」
リオンは壁に張られていた依頼書の内容を思い出し、口に出した。
ランクの等級はEランクと書かれていたが……これで依頼達成である。
「まだまだ、足りない……どんどん行こう」
リオンは再び、魔力による感知を広げる。
そのまま魔物を狩り続け、日が沈んで町の門が閉ざされるギリギリの時刻まで山の中を駆けまわるのであった。
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