第10話 オーガ討伐


「危ないな……」


 リオンが背筋をヒヤリとさせながら、つぶやく。


「グギャッ!?」


 酒瓶を振り抜いたオーガであったが、その攻撃はリオンが手に呼び出した剣によって受け止められている。


砕けよ剣テール・エペ


 石の魔法剣が酒瓶を受け止め、反対に粉々に砕いていた。


「フッ!」


「ギイッ!」


 リオンが返す刀でオーガを斬り裂く。

 剣で斬られた傷口が石化して、そのまま粉々に砕け散った。


「グルルルル……!」


「グガアッ!」


 騒ぎのせいで、他の四体のオーガも目を覚ましてしまった。

 手近な武器を手にとって、リオンに烈火のような怒りの目を向けてくる。


「おいおい……結局、こうなるんだな」


 リオンは溜息を吐きつつ、剣を構えた。

 ティアがリオンの後方に下がる。ミランダも騒ぐ女性を宥めるのを一旦、諦めて剣を抜いた。


「だが……もう彼らを盾にされる心配はない。敵を倒すだけだ」


 すでに三人は捕まった女性や子供の傍にいて、オーガとの間に立ちふさがっている。

 人質に取られるという最大の懸念事項はなくなっていた。


「俺が一人で三体倒すから、そっちは二人で一体を倒してくれ。くれぐれも気をつけて」


「舐めるな……! 私達だってできることを見せてやる!」


「絶対勝利……!」


 リオンがオーガに向かって斬りかかる。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 オーガが絶叫を上げながら、攻撃を繰り出してくる。

 リオンは軽々とした動きで回避して、土の魔法剣で足を斬りつけた。


「『砕けよ剣テール・エペ』」


 大地の力が込められた剣には、斬った敵を石化させる効果がある。

 石くれになった足はオーガの巨体を支えることができず、そのまま崩れ落ちて地面に倒れた。


「グギャッ……!」


「…………」


 リオンが倒れたオーガの頭部に踵を踏み下ろし、固い頭蓋を容赦なく砕いた。


「残り、ノルマは二体。さっさとかかってきなよ」


「「グゲアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」


 挑発を受けて、オーガが襲いかかってくる。

 リオンは魔法剣を振りかざし、向かってくるオーガへと立ち向かう。


「ティナ、援護を」


「りょ」


 一方で、ミランダとティアも一体のオーガを相手取って戦っていた。

 ティナが補助魔法によってミランダの身体能力を強化する。


「グオオッ!」


「ン……ッ!」


 肉体を強化されたミランダが、オーガの振り下ろした棍棒を剣で受け止める。

 丸太のような手から繰り出された打撃は人間の腕で受け止められるようなものではないが、身体強化のおかげでどうにか耐えることができた。


「ハアッ!」


 そして、一瞬の隙をついて刺突を放つ。

 肩の関節部分。筋肉の鎧に覆われていない部位をミランダの剣が斬りつける。


「ググググググウウウウウウウウッ……!」


 痛みに呻くオーガであったが……ダメージは軽い。

 元々の生命力が強いため、この程度の一撃では絶命するに程遠い。


「『蛇毒スネークポイズン』」


 しかし、ティアが続いて魔法を発動。

 ミランダが付けた傷口に紫色の液弾が命中する。


「グギャアッ!?」


 オーガが短い悲鳴を上げた。

 ティアが使った魔法により、毒薬がオーガの体内に撃ち込まれる。

 オーガが激しい痛みに肩をかきむしるが、その程度で体内の毒は振り払えない。


「奴は身体が大きい。毒が回るまで五分というところだな」


「決着。時間稼ぎ、する」


「ああ……任せろ!」


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 苦悶の叫びを上げるオーガへと、ミランダが斬りかかる。

 剣によって傷ができるたびにティアが追加で毒を打ち込んでいき、そのたびにオーガの動きが鈍くなった。


 五体のオーガが沈黙したのは、それから二分後のこと。


 リオンとミランダ、ティア。

 即席の冒険者パーティーは誰一人犠牲者を出すことなく、Aランク任務を達成させたのである。

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