第2話 父上降臨

 スノーレストに戻ってきて数日後。

 リオンはスノーウィンド公爵家から招待を受けて、屋敷に行くことになった。

 何度か通ってきた道を歩いて、公爵家に向かっていく。


 王都から戻ってきてから、アルフィラを含むスノーウィンド公爵家の人間とは顔を合わせていない。

 公爵家では、三女であるサフィナが快癒したことにより、連日のようにお祭り騒ぎになっているとのこと。

 家族の時間に水を差さないように、リオンも遠慮していたのである。


(このタイミングでの呼び出しということは、もしかして……)


 リオンの胸に緊張と期待が走る。

 スノーウィンド公爵家の次女であるアルフィラとは、サフィナを救い出したら子供を産んでもらう約束をしていた。


(今回の一件で屋敷も大金も手に入って、たくさんの女性とそういうことができるようになった。だけど……正直、アルフィラを超える女性はいなかったからな)


 決して、他の女性を侮辱するわけではない。

 だが……Aランク冒険者で卓越した剣士であるアルフィラ以上に、強い子供を産むことができる女性とは出会えていなかった。

 邪神を確実に倒すためにも、強い女性に母親になってもらいたい。


(ミランダとティアも強いけど、アルフィラと比べると見劣りするからな……うん、最低なことを言っているような気がしてきた)


「いけないな……初心に戻れ」


 リオンは首を振る。

 いったい、自分がいつから女性の優劣を決められる立場になったのだ。

 子供を産んでくれるだけでもありがたいのだ。

 リオンは気を取り直すように頬を叩いて、己の邪心を振り払う。


 ちょうどそのタイミングで、スノーウィンド公爵家の屋敷に到着した。

 顔見知りとなっている門番の兵士に挨拶をして、屋敷の敷地に入れてもらう。


「来たな、小童こわっぱ! 我が娘達を抱きたくば、かかってくるが良い!」


「…………は?」


 そして……リオンは目の当たりにした。

 公爵家の敷地内。庭園に大勢の兵士が待ち構えていることに。

 その先頭には鎧を着た中年男性が剣を振りかぶっており、リオンに向けて怒声を発する。


「我が名はベルハルト・スノーウィンド! スノーウィンド公爵家が当主である! 娘達に近づく不埒な輩を誅殺してくれるわ!」


「……ミランダ、ティア」


 リオンが庭園にいる見知った二人に視線で訊ねた。

 ミランダ・アイス、ティア・アックア……二人がリオンに近寄ってきて、小声で説明をしてくれる。


「あー……あの御方はアルフィラ様の父君で公爵家の当主にあたる御方だ」


「知られた、約束」


「貴様がアルフィラ様と交わした約束……子供を産むという話を知ってしまい、怒り狂って襲いかかってきたのだ」


「抹殺目的」


「何だ、それは……」


 リオンは呆れて肩を落とす。

 公爵家の当主が娘を溺愛しているという話は知っていたが、そのためにここまでするとは思わなかった。

 庭園にはスノーウィンド公爵を先頭に、百人ほどの鎧の騎士がいる。

 今にも飛びかかってきそうなほど瞳を血走らせており、殺気を放ってきていた。


「ちなみに、アルフィラお嬢様はギルドから急な呼び出しを受けていて留守だ。まったく……当主様にも困ったものだ」


「……お前らも似たようなことしてただろ。人のこと言えないよね?」


 ミランダとティアもまた、リオンのことを殺そうとしていた。

 肉体関係を交わしたためか、最近ではだいぶ態度が軟化しているが。


「お嬢様には使いを出している。すぐに屋敷に戻ってくるはずだ。それまで、当主様の相手をしてもらえると助かる」


「……そういう展開なのか」


「さあ、かかってくるが良い! 娘が欲しくば、我が屍を越えていけ!」


「……しょうがないな」


 リオンは溜息を吐いて、スノーウィンド公爵の前に進み出た。


 竜穴に入らざれば竜子を得ず。

 素晴らしい女性を手にするためならば、相応の危険を払わねばならないのだろう。


「戦おう……どうぞ、どこからでもかかってきてくれ」


 リオンはさほど気に負うこともなく言って、魔法で剣を生み出した。

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