第36話 捜索


‟フーガさんの通信機が見つかった!”


 ケーイチが興奮して居間に飛び込んできた。


“ほんと?”


 居間にはコーキ、ジュン、リョウがいて三人は一斉に振り向いた。


‟フーガさん達が落ちた辺りから三区との境界の辺りで発見されたそうだ。おそらく落下の途中で落ちたんだろう。だがそこからの痕跡は辿れなかったみたいだ。今、その辺りを中心に大掛かりな捜索の準備をしている”


“そうか。そこで何も見つからなかったってことはその時点で二人はまだ生きて、どこかに移動した可能性があるってことだよね”


 リョウが希望を持つように言って他の三人を見る。誘拐犯達からは何の手掛かりも聞き出せなかったし、二人が行方不明になってからもう一か月経つ。決して楽観的にはなれないがどんな小さな手掛かりにでも縋りたかった。


‟無事だとして、二人はどこでどうしているんだろう”


 リョウがぽつりとつぶやく。


‟どうだろうね”


 ジュンがそれにそっけなく答えた。


 ~~~



‟近いうちにあんたらを一区に送っていく”


 タオが少し緊張した顔で風芽と萌咲に伝える。


‟ファンがあんたらを見つけた辺りに最近一区からの捜索隊がうろついてるらしい。これ以上奥まで入ってこられるとこっちも困るんだ。今、準備をしてるが二、三日中の内だと思っていてくれ”


 風芽と萌咲は顔を見合わせる。


“それは、迷惑をかけてすまない”


 タオの話を聞いて二人は一瞬複雑な思いが胸をよぎった。ここには風芽の怪我が良くなるまで、という期間限定の滞在だ。わかっていたことだがなぜか妙に居心地がよく、一区に戻ると言われて違和感を感じてしまったのだ。捜索してくれているオーダライ家の人達の事を思うと申し訳ないのだが。


‟こうやってのんびりイチャイチャしてられるのも今だけだ。心残りの無いようにな”


 意味深な言葉を残してタオは去って行った。



 二人は部屋に残された。しばらくして萌咲が口を開く。


‟一区に帰っても私は風芽さんの事を好きでいていいのでしょうか”


 萌咲が眉を八の字に下げてつぶやく。風芽は萌咲の頬に手を当て自分の方を向かせる。


“何度も言ったように一区での俺の立場は微妙だ。お前の配偶者になる条件からは外れているし、前が俺を選ぶと言ってくれたとしても許されはしないだろう”


‟じゃあ私たちはどうなるの?”


 萌咲が泣きそうになる。

 その頭をそっと抱き寄せて考え込んでいた風芽が低い声で萌咲に問う。


‟萌咲、俺のものになるか”


 萌咲がはっと風芽を見上げる。


 ‟このやり方は間違っているかもしれない。だが、お前が俺を選ぶと言った途端に物理的に引き離される可能性も大きい。俺はもう覚悟を決めた。お前が他の男のものになるのは耐えられない。もし引き離されたとしてもお前との誓いがあれば俺はいつまででも待てるしどんなことも乗り越えて見せる”


 萌咲は風芽の顔を見つめながらぽろぽろと涙をこぼした。だが同時に微笑んでいた。


‟私はあなたを愛しています。風芽さんの子供が生みたいんです”


 風芽はふうっと息を吐く。


 この娘には初めて会った時から振り回されてばかりだ。このくるくる変わる表情にも予想外の言動にも心がざわついた。そしてその何もかもが好ましかったのだと思う。


“俺は、正直言って自分の気持ちに戸惑っている。二十年前に自分の出生を知ってから自分の家族を持つことなどないと思っていた。だから恋愛についても真剣に考えたことはなかった。何もかもお前が初めてだからこの気持ちがどう扱っていいのか”


 萌咲はにっこりする。


“私だってわかりません。こんなに人を好きになったのは初めてです。最初はあなたといると安心できるし頼りがいがあるから惹かれたのかおしれない。でもお父さんとは違う、絶対に”


 お父さん、と言う言葉に風雅は苦笑した。それに、と萌咲は続ける。


‟風芽さんが覚悟を決めたと言ってくれました。私だっていつまでも待つし、頑張れます”


 あったばかりの頃はおどおどして謝ってばかりの娘だったのに、この強さは何だろう。変わったのではない。きっとこれがこの娘の本質なのだ。


“お前は強いな”


 風芽はそう言って萌咲の顔を引き寄せた。

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