第31話 フーガ、回復する
この村に来て十日、目を覚ましてはすぐ眠りに落ちていたフーガがようやく会話ができるようになるくらいまで回復した。
‟ここは…?”
‟三区にある秘密の村です。崖から落ちた後気を失ったフーガさんをここまで運んで手当をしてくれたんです”
萌咲はフーガの体を起こすのを手伝いながらここにいたるまでの経過を説明した。
‟まさか、そんな場所が本当にあるなんて”
フーガには信じられなかった。
そういう村が存在するということは聞いたことがあった。主に国の方針に反対する人間や犯罪者が隠れ住む村。ただ本当に三区に人間が住めるのか実際に行ったことのある人間に会ったことがなかったのでフーガは都市伝説の様なものだと思っていたし周りの人間たちも同様だった。そして仮に存在したとしてもそこは無法地帯で犯罪や暴力が蔓延る恐ろしい場所に違いないと。
そんな村の人間がケガ人を助けて世話をするだと?
まだ自分が安全な場所にいるのか半信半疑だったが、今自分は何もできない。少しでも回復して何とか一区に連絡を取らなければ。
だが、ここの生活にすっかりなじんでいる様子の萌咲を見ると不安にさせるようなことは言えなかった。
フーガが目を覚ましたと聞いてファンとタオが部屋にやってきた。
‟助けてもらって本当に感謝している”
フーガが頭を下げる。
“なに、困ったときはお互い様よ”
ニヤリと笑って片目をつぶるタオはかなり胡散臭い。
‟あんたたちはここにずっと住んでいるのか?”
“まあな、いつからだったか正確には覚えてないが長いと言えば長いな”
タオははぐらかすように言う。
‟誤解しないでくれ。この村の事を向こうに戻っても口外するつもりはない。助けてもらった恩もあるし、モエにはあんたらはにはずいぶん親切にしてもらっていると聞いた。ただ、そのこんな村が存在すると話には聞いていたがまさか本当にあるとは思わなかったから驚いてはいる”
‟ああ、俺らは一区のお偉いさんが言うところの犯罪者だ。一区の奴らの決めた法とやらに納得がいかないからその支配から逃れた無法者の集まりだ。だが俺たちの様な人間は結構いるんだぞ。どこの国にもこんな村はいくつも存在する”
“どうやって物資を調達しているんだ?”
“なんだ?取り調べか?”
‟いや、そういうわけじゃない。ただ興味がある”
‟蛇の道は蛇。抜け道はいくらでもあるもんさ。情報のやり取りや物資の配達“
“天女の誘拐もか?”
“しないと言ったら信じるか?”
‟…”
“ま、否定はしねえよ”
タオが口をひん曲げて笑う。
‟今度はこっちが質問する番だ。だいたいの話は嬢ちゃんから聞いてるが、本当のところあの子は何者なんだ?自分の事を「ハズレ」の天女だと言ってたが、そのせいでつらい思いをしてたんじゃねえのか”
フーガは慌てて否定する。
“そんなことはない!いや、そうだな。あいつは、確かに辛い思いをしただろう。何もかもが自分の常識と違う世界に来て天女であることを強要されて。あいつは、たぶん別の世界から紛れ込んでしまったんじゃないかと思う。はじめは俺たちもどう扱っていいのかわからなかった。だが出来る限りあいつを大切にしようとした。現に俺の甥たちもみんなモエの事が好きで本当にかわいがってた”
“あんたは配偶者候補じゃねえんだろ?だが、あんたたちの間にはなにか特別なものがある感じがするがな”
フーガは下を向く。
‟…俺は、護衛だ。俺はただ他の一区の人間よりも抵抗力があるからモエを二区に連れてったりしてたんだ。今回もモエや他の天女が攫われたからそれを追いかけてきてこんなことになってしまった”
‟ふん、護衛ねぇ”
ファンが鼻を鳴らした。
黙ってしまったフーガを見て、ま、いいか、と二人は部屋を出て行った。
‟護衛のために自分の身を投げ出してまで助けようとするかね”
‟あの嬢ちゃんならやりかねないが、あの時の必死さはそれだけじゃないよな”
‟だからと言って恋人同士にも見えねぇ”
‟どっちにしても契約を知った時のあの男の顔が見ものだな”
フーガの部屋を出てからタオとファンはそんな会話をしながら珍しく他人の事情を詮索してる自分たちに気づいて笑いあった。
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