第14話 萌咲、国都へ行く
“国都?”
“そう、この国は領主が自分の土地を治めているんだけど、年に数回集まって報告会や決め事を話し合うんだよ。国都には総領主がいて領主たちを統括しているんだ。今回は通常の報告会のほかに新しい天女たちの顔見せ、紹介もあるんだよ。ここ数か月ほどの間にモエも含めて九人の天女が降下したから。前回の顔見せからは半年以上たってるから、もっと集まるだろうしね”
ケーイチが説明してくれる。
“その時には父さんだけでなく候補者である僕たちも行くから心配はいらないよ。あと、護衛の中にフーガおじさんもいるからね”
その名前を聞いて安心する自分がいる。
“国都は結構遠いから観光もかねて三泊くらいするから楽しみにしててね”
とジュンはにっこり笑って付け加えた。
顔見せと聞いて少し不安になるが他の天女たちには興味がある。何しろここに来てからまだ一度も女性を見たことがないのだから。
萌咲が自室に戻った後、ジュンがケーイチに問う。
“でも、なんでフーガさんが護衛でついてくるわけ?今まで忙しいとかいろいろ言ってめったに来なかったのに”
“モエの事が心配なんだろ”
“えーやっぱりそういうことなのかあ。天女嫌いはどうなったのさ。しかもなんで護衛なの。仮にも領主の弟だよ?”
ソファーに転がっていたコーキが口をはさむ。
“照れ隠しだろ”
“えー”
“あとは単純に面倒なんだろ。領主の弟として行くと会議とかお茶会とかに出席しないといけないから”
‟フーガさん、モテるもんね。しかも本人は嫌なのに上手くあしらえない”
コーキがしたり顔で自分の言葉にうんうんと頷いた。
~~~~
整然と整備された道路と街並み。ゴミ一つなく、薄汚れた部分などどこにも見えない建物。並木も花壇もきれいに整えられており、萌咲はこの世界に来てから何度も抱いた感想をまたしても持ってしまう。
作り物みたいだ。縮小サイズの模型の街に入ってしまったような気分になる。
不快ではないが、違和感があるのは否めない。
だが、そんな感想は口に出さずきょろきょろと街並みを見ながら総領主邸に向かう。
新幹線に近い、だが更に快適なトレインに乗ること三時間、ボーヨウ一行は国都に着いた。駅に降り立つと途端に人が増えるが当然のごとく男性ばかりだ。中には女性的な格好をした人もちらほら見かけるがなんとなく男だとわかる。見かける人々はオーダライ領のシティで見かける人々と同じで洗練された装いだ。
萌咲は相変わらず白と淡いピンクのシンプルなデザインのワンピース、男性たちも白を基調にしたスーツを着ている。付き添いのサク、フーガと数人の護衛たちは濃いグレーのスーツを着ている。レールの上を移動する車の様な乗り物でさらに三十分ほど行くと大きな白い建物が見えてきた。総領主の住居であり会合も顔合わせも宿泊も全てここで間に合うらしい。
建物の敷地に入ると他の領地から来た人々が目に入る。ここに来てようやく女性の姿を認め萌咲は感慨深く見つめてしまった。
あー女の人だー。懐かしい。女の人を見てこんなに感動する日が来るなんて…
服装は萌咲と似たり寄ったりのシンプルなワンピースだが彼女たちは皆すらりとして背が高く、顎をつんと上げて女王様然と先頭を歩いている。同行者の男たちは付き従う騎士か護衛のようだ。
はーかっこよく歩くなぁ。モデルさんみたい。きょろきょろちまちま歩いてる私なんて田舎者丸出しだよね。
ついつい見とれてしまう。
“ここに来るのは久しぶりだけど、天女たちは相変わらずだね”
“うん、前来た時はあこがれの天女たちに会えると思って興奮してたけど、こうして冷静になってみるとなんだか滑稽に見えてくるね”
ケーイチとコーキがひそひそ話始める。
萌咲が首をかしげていると、
“ちょっと、余計な情報入れないでよ。僕はは初めてなんだから”
リョウがクレームをつける。
“そうだよ、リョウの夢を壊さないでやってよ”
とジュンも片目をつぶってコーキ達に注意した。
そんな男たちの顔をきょとんと見上げた萌咲を見てケーイチがにこりと微笑んでそっと手を背中に添えて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます