第27話 フーガ、萌咲を見つける

 

 少し前、フーガたちの車はGPSを追っていた。


“GPSが止まりました!”


 フーガの部下の一人がスクリーンを見ながら声を上げる。


‟何?”


‟何かあったのか、それとも”


‟この場所は三区に近い。もしかしたら、三区に入る準備をしているのかも”


‟今のうちに追い付くことができればいいのですが”


‟とにかく急げ”


 フーガの声も心なしか上ずっている。

 逃亡者が止まってくれたのはいいが、三区に入られては追跡がさらに難しくなる。

 コーキもリョウも祈るような思いで小さなスクリーンの赤い点滅を見つめた。


 ほどなくして逃亡車らしきトラックが肉眼でも見えてきた。予想以上に長くとどまっていたの追い付けたのだが、何かトラブルでもあったのか。萌咲たちが無事だといいのだが。

 フーガたちの車に気づいた見張りらしい男がこちらに向かって銃を向けてきたが、一瞬早くフーガの部下がそれを衝撃銃で撃ち落とした。

 フーガも車から飛び降り男を取り押さえる。GPSを確認してトラックの荷台を開けると、そこにはおびえて身を縮こまらせた天女たち五人が荷台の隅にかたまっていた。


 しかし…


 フーガは一瞬で、そこにモエの姿がない事に気づく。


“フーガさん!”


 サラがフーガに飛びついてきた。


‟モエは⁉モエはどうした?”


 サラを引きはがしフーガは叫ぶ。


‟モエちゃんは、おとりになって…逃げてるんです。男たちが彼女を追いかけて…そうすれば彼らを足どめできるからって”


 フーガの剣幕におびえながらもサラは説明した。

 次の瞬間フーガは駆け出していた。

後ろから”隊長!”、“フーガさん!”と、フーガを呼ぶ部下やコーキの声が聞こえてくるがフーガは返事をせずに藪の中へ入って行った。


 怒りが湧き上がってくる。元凶である男たちにはもちろんのこと、危険な真似をした萌咲に、みすみすそれを許したサラに、そして萌咲を守れず藪の中をさまよっている自分に。


 その時、男たちがモエを探す声が聞こえてきてハッと意識をそちらに向ける。声のした方向へ木の枝を押しのけて進んでいくと


‟あんまりてこずらせると天女だって承知しないぞ”


 そして


“いたぞ!”


 同時に小さな悲鳴。

 焦燥感がせり上がってくる。


‟モエ!”


 三人の男の姿とその一人に後ろから拘束されている萌咲の姿が目に入った。両目は恐怖で見開かれているがフーガを認めて微かに揺らいだ。

 カッと頭に血が上った。一番近くにいる男にとびかかり殴り倒す。男たちの戦闘能力はそれほど高くないのか、あっさりと倒れる。萌咲を拘束していた男も萌咲を放してフーガに向かってくるが、造作もなくその男を警棒で殴りたおし、手加減せずにわき腹に蹴りを入れる。

 努めて呼吸を整えながら視線を巡らせると数メートル先の藪の中の隙間に蹲っている塊が見える。木の枝や草を押し分けて覗き込むと、涙をいっぱい目にためた萌咲がこちらを見上げている。


 その目を見た途端フーガは安堵と愛しさで体が満たされるのを感じた。大きなけがなどはしていないようで、ほっと息をつき手を伸ばすと萌咲もフーガの手を掴んだ。

 その瞬間、腕が大きく引っ張られた。


 落ちる!?


 体が宙に浮くのを感じ、なんとか萌咲の体を抱え込む。

 二人はそのまま落下していった。


 背中に大きな衝撃を感じたが、状況を確認する前に意識が遠のいた。

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