第2話さっそく逃走
外にいるゾンビもどきは生者である。
そう結論付けたは良いものの、これからどうすれば良いのか。
生者であればわしにできることはない、が……。
無論、実際に生者かどうか確かめてみるべきなんじゃろう。
どうやって確認するか、わし一人でそれができるのかは甚だ疑問じゃし、諦めるしかないかの。
そういえば、研究室の仲間やクラスメイトはどうなったのじゃろう?
こんな事態になっていれば大騒ぎになっていてもおかしくないと思うのじゃが……。
学院の中がどういう状況はわからんが、まずは情報収集をするべきかもしれん。
一人で動き回るのはちと怖いがのぅ。
ゾンビもどきがおらんといいんじゃが……。
ゾンビもどきが学院にいた場合、わし一人で複数のゾンビもどきと鉢合わせたら逃げ切れぬかもしれん。
わしが使える魔法は、死霊術以外には停滞魔法と回復魔法しかないのじゃから。
停滞魔法であれば、二、三人くらいなら咄嗟に動きを止めることも可能じゃが、それ以上いたら厳しいの。
正門は閉まっておったし、学院には入ってきていないことを祈るしかあるまいて。
そろーりそろーりと研究室の扉を開ける。
扉のノブを捻るカチャリという音ですら心臓に悪い。
数センチ開けても扉の向こう、廊下側から音は聞こえない。
意を決し、顔を出せる程度まで開けて、五秒待つ。
廊下側から何もアクションがないことを確認して、顔だけ出す。
右良し。
左良し。
周囲に誰もいないことを確認して、廊下へと出る。
ふぃ~、これだけでも随分と緊張するの。
こんな時にミアルが傍にいてくれたら安心なのじゃが。
ミアルはわしのクラスメイトで同じ研究室に所属し、助手も務めてくれている友達なのじゃ。
見た目は美少女なんじゃが、脳筋での。
身体強化の魔法を使い戦う様は、そこらの男よりよっぽど頼りになるのじゃ。
ミアルは無事じゃろうか……。
よし、まずはミアルから探してやるとしよう。
あやつはわしがおらんとすぐに暴走するからの。
決して、ボディーガードがほしいからではないからの!
大事な友達じゃからじゃぞ!
これから学院の中を移動するに当たって、構造の復習じゃ。
学院はいくつかの建物からなっておる。
一つ、通常の授業を行う本館。
二つ、屋内で魔法の訓練が行える訓練場。
三つ、今わしがおる各教授の元、様々な研究が行われる研究棟。
四つ、生徒のための学生寮である。
位置的には正門を背にして、中央に本館、建物ではないが奥にグラウンド、左に訓練場、右に研究棟となって、それぞれが連絡通路でつながっておる。
学生寮はそれらの建物と連絡通路では繋がっておらず、少し離れた右手側にある。
ちなみに、学生寮には食堂も存在しておる。
さて、ミアルがいるとしたらどこじゃろうか。
研究室にいない以上、研究棟にはおらんじゃろう。
ワンチャン食いしん坊じゃから、食堂のある学生寮という可能性もあるか?
んん、でもさすがに外に出るのはわし、怖いぞ。
まぁ普通に授業を受けている可能性が一番高いじゃろう。
授業は選択制で割と自由が効くが、確か今日の午前中は本館で授業だったはずじゃ。
目的地は決まったの。
ミアルを探しに、本館へ向かうとしよう。
さっそく移動を開始する。
わしがいる研究室は三階じゃが、本館へ続く連絡通路は二階にある。
一階に降りなくて済むのは、少しだけ気が楽じゃな。
さっきのゾンビもどきには理性が感じられんかったから、階段の上り下りなどしないと思うのじゃ。
そう考えて、少しだけ気を楽にして進む。
特に何もなく、誰の姿を見ることもなく、階段へ辿りつく。
二階もゾンビもどきはおらんと思うのじゃが、慎重に進むべきじゃな。
階段を物音を立てないようにして下りる。
そして、曲がり角からそーっと廊下覗くと。
「ひぎゃぁぁあ!?」
目の前におったわぁぁあ!!
こんな所にゾンビもどきがおるなんて聞いてないのじゃぁああ!
わしは急いでポケットに忍ばせていた金属板を取り出し、目の前の人物に押し付けて魔力を流す。
「<ディレイ>!」
金属板には咄嗟に魔法が使えるよう事前に魔法陣を刻んでおり、その金属板を媒介にして魔法を発動させる。
金属板が光り、密着していたためすぐにゾンビもどきを包み込む。
ディレイは対象を数分間、普段の五分の一程度まで動きを遅くさせる魔法なのじゃ。
相手が碌に動けぬ内に、一気に逃げるのじゃぁぁあ!!
「ぅぅぅあぁああ、まっ、ユッ……」
ひぃぃぃいいい!!
ゾンビもどきのうめき声が聞こえるぅぅう!!
わしは振り返ることもなく、一目散に三階へと逃げるのじゃった。
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」
階段を一段飛ばしで上り、研究室まで走って戻ってきた。
まさかいきなりゾンビもどきに遭遇するとは思わんかった……。
ここならきっと安全じゃろうから、息が整うまで待って今後のことを考えねば……。
心と体を落ち着かせるために、水を飲んでしばし休む。
すると。
カチャリと、ノブが捻られる音がした。
ゾゾゾゾッ、とわしの背中に悪寒が走った。
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