第7話動けない状態で不審者といる恐怖

 ミアルへと近づく二人の様子は明らかに正気ではない。

 ゾンビもどき確定で良いじゃろう。


「無駄じゃ! 意識を奪うしかないぞ!」


「ユッコちゃん、あんまりこっちに近寄っちゃダメ、だからねっ!」


 言い終わる前に、ミアルはしゃがみ込みながら足払いをする。

 ゾンビもどきとなった二人に戦闘の駆け引きなどないのじゃろう。

 女生徒の方に繰り出された足払いは綺麗に決まり、全身が真横になって浮いてそのまま地面へと落下する。


 その隙にミアルはもう一人の男子生徒に体を向け、棒を構える。

 およ? と疑問が生じる。

 ミアルであれば、先ほどの勢いでもう一人も制圧できそうなのじゃが。


「うぁあぁあ」


 ゾンビもどきが何事かうめくと、手に付けていた指輪が光だし、小さな旋風つむじかぜがミアルへと襲い掛かっていった。

 ホワールウィンドウの魔法じゃ!

 あのゾンビもどきは意識があるの……、いやあきらかにないじゃろ!?

 ゾンビもどきのくせに魔法が使えるというのかっ!?


 何それ、めっちゃ怖いんじゃが!?


 放たれた魔法の狙いは定まっていなかった。

 ミアルであれば避けるのにさほど苦労しないと思っておったが、逆に読みづらく縛られている女生徒に当たることを危惧しているのじゃな。。

 倒れた女生徒は倒れたままもがいているようじゃが、いつ襲ってくるからわからん。


 ふふふふふ、どれわしの出番じゃろう?


「<ディレイ> 女生徒の方から意識を奪うんじゃ!」


 わしは魔法を使った方のゾンビもどきに魔法を発動する。


「サンキューユッコちゃん!」


 魔法を使うゾンビもどきの動きが遅くなるや否や、倒れている女生徒の後ろに回って意識を奪う。

 一対一になり、動きも遅くなったゾンビもどきなどミアルの相手ではなかった。

 魔法を使わせることもなく、棒で殴打した後に意識を奪った。


「ふぅ。ナイスサポート!」


 ミアルがわしに向かって親指を立ててきたので、わしも親指を立てて返す。


 死霊術を使って保険を掛けはしたが、不要じゃったようじゃな。

 まぁそれならそれで良かろう。


 ゾンビもどきが動かないことを確認して、縛られていた生徒に目を向ける。

 その生徒は、クラスメイトで友人のリーリアだった。


「ミアル、ユッコちゃん! 助けてくれてありがとう! 死ぬかと思ってたっ」


「リーリアじゃったか。無事で何よりじゃの」


「無事とは言い難いけど……」


 リーリアは何と言うか普通な奴じゃ。

 飛びぬけて容姿がいいわけでも、頭がいいわけでもない。

 魔力量は多いようじゃが、それ以外は普通の普通に良い奴。

 それがリーリアである。


「それで、何があったのじゃ?」


「もーわけがわかんないんだよ? 授業中にいきなり隣の席の人に噛みつかれてさ!

 めっちゃ怖かったし、手がジンジン痛いし……。

 やっと昼休みになったと思ったら、急にこの教室に入れられて縛られるし……」


「そこじゃ、そこが知りたいのじゃ。ここで何があったのじゃ?」


「えっと、私を入れて三人がここに閉じ込められたの。最初はそこに倒れている二人も普通だったんだけど。

 この教室に入れられてから一時間は立ったくらいかな?

 風魔法で縄を切ろうとずっと試したみたいなんだけど、急にね、その人がおかしくなっちゃったの。

 それでね、その人は縄を強引に引きちぎってもう一人に噛みつきだしたの!


 教室で私が噛みつかれた時はすぐにみんなが引き剥がしてくれたじゃない?

 でもこの教室には三人しかいなかったし、私も噛まれた人も縄で縛られてたからずっと噛みつかれたままで……。

 

 そのままずっと噛みついてたと思ったら、もう一人も急に痙攣しだしたの!

 そしたら、今度は二人して私の方に来るから、怖くて怖くて……。

 私、ファイヤーボールを使っちゃんだ……。

 それで、教室の扉に当たってすぐ、ミアルが来てくれたの」


「そうか、リーリアも怖かったじゃろ。

 じゃが、今の話を聞いて、お主の縄を解いてやることはできんくなった」


「え!? なんで!?」


「薄々わかっておるんじゃろう? こいつらに噛まれたら、自分もおかしくなってしまうかもしれないことに」


「うっ……、それは……」


「いや何、だからと言ってお主を一人ここに置いていくつもりはない。

 お主の友人として、わしらにできることをすると約束しよう。

 他の生徒達と一緒にいることはできんじゃろうが、わしらと一緒に行動するか、どこか安全に一人になれる所に連れていってやるくらいならできるじゃろ」


「……そっか。でも、私はさ、いつまで、こうしてなくちゃ、いけないのかな……?」


「すまぬな、それはわしにもわからぬ。

 だが、わしは色々と調べてみるつもりじゃ。

 原因がわかれば、お主も日常に戻れるかもしれん。

 じゃから、わしに色々と調べさせてほしいのじゃ」


「私には、それ以上いい選択肢なんて、ないんだよね……。

 うん、わかった。ユッコちゃんに協力するよ。

 私にできることなら何でも言って」


「すまんな、協力感謝するぞ。

 あ、あとな、すまんが少しでもおかしくなりそうだったら、ミアルが気絶させるからの。それは許すのじゃ」


「あ、あはは……。痛く、しないでね? ミアル」


「え? ワタシ!?」


「安全にバイオレンスなことなど、ミアルの他に誰ができるというのじゃ?」

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