第6話良く言えば集中力の鬼

 ――……ゃん! ……ね……てば!


 ユサユサと体を揺さぶられ、思考の海から引き上げられる。


「ん? なんじゃ、ミアル」


「ユッコちゃん、悪い癖が出てたよ。さすがにワタシでも動けない人を守るのはムリだよ?」


 いかんいかん、考え事に没頭するあまり、周りが見えなくなっておった。

 研究をしているとたまにミアルに注意されるのじゃ。

 今は何が起こるかわからんから、自重せんといかんの。


「すまんかったの。いつも守ってくれてありがとの、ミアル」


「ん、んふふ。いいのいいの。こうやってたまにデレるのがまた可愛いんだから」


「な、なんじゃ! 感謝して損したわ!」


「それで、この子はどうするの?」


「擦過傷があったから、中途半端に縄で縛っても無駄じゃろう。どちらにしろ縄なんぞもっとらんしの。

 ここに放置しておく他あるまいて。

 それと、奥にいる他の生徒も確認したいの。また気絶させることはできるかの?」


「お安い御用!」


 恐ろしいことを笑顔で言いおる。

 わしが頼んどるんじゃが。


 廊下にはパッと見、四人のゾンビもどきがいる。

 いくつか教室の扉が空いているのが気になるが、ゾンビもどき達の距離はそれなりに離れている。

 一人一人相手にすれば、ミアルなら余裕じゃろう。


 そう思っていると身体強化の効果にまかせて、あっという間に一人を気絶させて連絡通路の扉前まで一人を連れてきた。

 恐るべし、ミアル。


 新しく連れてきた生徒も同じように確認したが、やはり生者じゃった。


 よく確認にもせずゾンビだーなどと叫んでパニックを助長した奴が許せんの。

 ただでさえ良く思われていない死霊術士の評判をさらに下げおってからに。


 これはあれじゃな、風評被害を払拭せねばならんの!

 よし、まずは訓練場で現状を正しく伝えるやることにしよう!


 死霊術士は悪い魔法使いではないんじゃと!

 いや、それはさすがに無理じゃな。


 バァン!


 風評被害について考えていたら、どこかの教室から破裂音が鳴り響いた。


 破裂音を聞いたわしとミアルは、すぐに廊下の様子を伺う。

 どこの教室から音が鳴ったのかはすぐに判明した。


 とある教室の扉が吹き飛ばされてチリチリと焦げ付いており、通路にいたゾンビもどき達が一つの教室にゆっくりと向かっていたからだ。


「誰かいるの!?」


「た、助けてー!!」


 どうやら無事な生徒がいて、危険を感じたのか魔法を使ったようじゃ。

 教室がどんな状況になっているかわかんのじゃが、ミアルはすぐに動き出していた。


「状況がわからんのじゃぞ!? 複数おったらどうするのじゃ!?」


 一対一なら余裕のミアルも、囲まれれば危ないのではないか。

 そう思い問いかけるが。


「そうも言ってられないでしょ! とりあえずワタシが突っ込むから、ユッコちゃんは魔法でサポートして」


「うぅ……。わし、怖いんじゃが、が、頑張ってみる」


「うん。それでこそ、ワタシのユッコちゃん。注意はこっちで引くから遠距離からサポートヨロシク!」


 そういうや否や、ミアルはすぐに教室の前へと飛び出していった。

 扉付近にいたゾンビもどきの襟をつかんで引っ張り、廊下側へ引きずり出す。

 そして、奥にいた二人のゾンビもろともに計三人を棒による強烈な突きで奥へと吹き飛ばした。


 それを確認すると、ミアルは躊躇せずに教室へと飛び込んでいく。

 わしにできることは、後続を教室へと入れないこと。


 ディレイを発動するため、金属板を前に掲げる。

 直接相手に触れていなくても、魔法自体は発動できる。

 ただ、距離が離れれば離れる程、使用する魔力が増えてしまうというデメリットがあるが。


 デメリットより、わしはゾンビもどきに近づきたくないので廊下の端から魔法を発動する。

 金属板から光が放たれ、狙い通りに三人のゾンビもどきに命中した。


 上手くいったことに胸をなでおろしていると、教室から争う音が聞こえてくる。

 ミアルとゾンビもどきが戦っておるのじゃろう。

 ミアルなら大丈夫じゃとも思うが、もしもが怖くてわしはとある死霊術を発動させる。

 遠距離のディレイより余程魔力を消費するが、ミアルの無事が最優先じゃ。


 死霊術を発動して、わしもおっかなびっくりで教室へ入る。

 教室には、縄で椅子に縛られたままの女生徒が一人と、ふらふらとした足取りでミアルに襲い掛かろうとしている男子生徒と女子生徒が一人ずつ。


 ふらふらしている生徒達は正気を失っているように見える。

 ミアルはすでにその二人に何かしらの攻撃を仕掛けていたのだろう。

 椅子に縛られている女生徒からは離れていて、ミアルがその生徒の前に立っていた。


「あなた達! それ以上近寄ったらさっきよりももっとひどい目に合ってもらうからね!」


 ふらふらしてはいるが、意識がある可能性を考えてかミアルが警告を発する。

 それでも二人の歩みは止まらなかった。


 もっとひどい目って、どんな目に合うのじゃろうか……。

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