第25話 足がガクガクなのじゃぁ!

 配給のおばちゃんにはまた後で来ると言い残し、自分の分も貰わずにリーリアのいる所へ戻る。


「……ということがあったのじゃ」


「そっかぁ。仕方ないね。いいよ、私ダイエット中だし」


「阿呆なことを言うでない。わしらは丸一日何も食べてないんじゃぞ?

 それに、食事を食べないことで発症するようなことがあったらどうするのじゃ!」


「でも、どうしようもないじゃん……」


 リーリアを生徒の目に晒すことで、噛まれた生徒がいるとバレて騒ぎになることはとてもめんどうじゃが……。


 あ、そうじゃ。

 そもそも訓練場から出る時にバレるのでは?

 来た時と違って、見張り台経由で飛び降りるのはめちゃ怖いのじゃ。

 ならば、普通に訓練場の扉から出るしかあるまい。


「それなら、もう明かしてしまおう! リーリアとモイブが噛まれたことも。わしらが研究棟に戻ることも!

 その上で、協力者を募るよう呼びかけて、事を大きくしてしまえばいい!」


「ちょっとユッコちゃん!? 私は大丈夫だから!」


「そんなわけあるまい。まぁ聞くのじゃ……」


 ヒリア教授も呼んで、わしの考えを伝える

 協力者が本当に出てきた場合はちと面倒じゃが、安全な訓練場を出たがる者などおらんじゃろう。

 なお、ストイーヤを連れ出す許可は得られたようじゃ。



 さて、ちと緊張するが、言い出しっぺのわしがやるしかあるまい。

 わしは舞台に掛かっている暗幕を潜って、舞台上から訓練場を見渡す。

 高い所から見下ろす訓練場には多くの人が集まっておる。


 数人がわしに気付いて好奇の視線を向ける。

 少し震える足を、大きく深呼吸して止める。


「皆の者、聞いてほしいのじゃ!!

 わしはユーレ・イコーデル!


 わしは今回の騒ぎの原因を突き止めたいと思うておる!

 そしてできるなら、噛まれた人達を元に戻してやりたいとも!


 そのために、わしに協力してくれる者がおったら名乗り出てほしいのじゃ。

 すでに、何人かの生徒が名乗り出てくれておる。


 その中には既に噛まれた生徒もおる。

 じゃが、安心してほしい。

 まだその者らはゾンビになっておらんし、今はまだ完治できずとも発症せんようにはできておる。


 わしらは今日中に研究棟へ行く。

 移動も伴うし、ここよりは明らかに危険じゃ。

 それでも、わしに力を貸してくれる者がおったら力を貸してほしい!


 騒がせて申し訳ないのじゃ。

 わしは舞台の中におる故、もし力を貸して貰えるなら舞台袖におる生徒会に声をかけてほしいのじゃ」


 わしは深々と礼をして、ゆっくりと暗幕を潜り、わしらのスペースに戻る。


「心臓バクバクなのじゃ!」


「ちょっとやりすぎな気もするけど、恰好良かったよ、ユッコちゃん」


「うんうん。私、なんだか涙が出そう」


「はぁ。私の研究室は問題児ばかりなんだから……」


 女三人寄れば姦しいなどとは言うが、四人寄ったわしらの口は、誰も塞ぐことなどできんのじゃ。

 っと、そんな場合ではないな。

 すでに騒ぎにはなっとるかもしれんが、もっと大きくなる前に食事にありつかなければ。

 さすがに丸一日食べずにおったら、そろそろ頭も働かなくなる。


「リーリア! すぐに配給を貰いに行かねば!」


「あ、そうだね! 行こう!」


 訓練場は俄かにざわめき始めていた。

 まだ騒ぎという程ではないので、その隙にわしとリーリアは目立たぬよう別々に配給所へ向かった。

 その間、舞台上にいた時よりさらに強い好奇の視線にさらされるが、そんなことより今は食事じゃ。

 お腹がきゅ~きゅ~言うておるでな。


 無事に食事にありつくことができ、完食したところで生徒会長殿が現れた。


「ユーレ君、やってくれたね」


 四人寄らば口は塞がれないなどとさっきは嘯いたのじゃが、いきなり塞がれそうじゃ!?


「せ、生徒会長殿……」


「正直、思っていた程の騒ぎにはならなかったよ。

 けど、教授や生徒会がようやくまとめた集団の輪を勝手な真似で乱さないでもらいたい。

 僕は計画を崩されるのは嫌いでね」


「す、すまんかったのじゃ」


「まぁ、リーリア君やモイブのことがあったから思い切ったことをしたのだろう?

 二人のことをずっと隠しておくことはできなかっただろうし、気持ちはわからなくもない。

 それで、今日中に移動するんだね? それなら食料について話しておこう」


 恐らく、訓練場にいる生徒や街の人からわざわざ危険な場所へ行くことに賛同する者はおらんじゃろう。

 その前提で、わしらは今後六人で行動をすることになる。

 ヒリア教授、ミアル、リーリア、モイブ、ストイーヤ、わしじゃな。

 ヒリア教授の見立てでは、五人の二日分の食料は貰えそうとのことじゃったが……。


「まず、君達と行動を共にする生徒が一人増える」


「え? まじじゃ?」


「あぁ。ヤークト教授からの推薦でね。生徒も快く受けてくれたようだよ」


「物好きな奴もおったものじゃのぅ」


「君がそれを言うのかい? まぁいい。続けるよ。

 ヒリア教授から聞いたストイーヤ君と合わせると、研究棟に行くのは全部で七人だね。

 そこで、二日分の食料を七人分用意することになったよ」


「思ったより太っ腹じゃな?」


「人数の割合で七人なら約一〇パーセントになるからね。食料も約一〇パーセントを渡す。

 君が原因を調査してくれることは、こちらにとっても大きなメリットになる。

 ただ、申し訳ないけど肉や生鮮は少なめにさせてもらうことは了承してほしい」


「あぁ、ワタシの肉……」


「ちょっとミアルは黙っておれ」


「研究の成果を共有しろと?」


「もちろんだよ。犠牲者を助け、減らすのが君の目的だろう?」


「成果があれば、食料を追加でもらうことはできるのかの?」


「約束はできない。

 食堂の食料はほとんど取ってしまったから、ここも食料に余裕はない。無い袖は振れないさ。

 国がこの事態に気付いているとも思えないし、今後は危険を冒して街まで行く必要が出てくる。

 その時、食料を調達できれば、成果に見合った物は出したいと思ってる」


「ふむ。まぁそれはそうじゃな。

 して、成果が上がった場合はどのように共有すれば良いかの?」


「悪いがまたここまで来てもらえるかい?」


「う~む、食料がなくてただ働きになるのは嫌なんじゃが、目的を考えれば致し方あるまい。

 わしらがゾンビに囲まれて動けない場合もあるかもしれん。

 その時はSOSの魔法を使うでな」


「了解だ。今まで見張り台まで気が回ってなかったけど、君達みたいな例もある。

 今日から見張り台に人を配置しておくよ」

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