第24話 融通が利く人利かない人

 ミアルはストイーヤに濡らしてもらったハンカチを受け取り、目の周りを冷やしてから見張り台へ向かった。

 食料チームではなかったわしらは待機じゃ。

 その間に、ストイーヤをわしらと共に研究棟へ連れていく交渉をせねばならん。

 まずはわしらと一緒に来てくれていると言っていたヒリア教授に話を持ち掛けるとするかの。


「ヒリア教授、今大丈夫かの?」


「あら、ユッコちゃん。えぇ大丈夫よ」


「わしらは今日中に研究棟に戻ろうかと思っておる。

 そこで相談なんじゃが……。食料チームで噛まれてしまったモイブという者と、給水を担当しておるストイーヤという者も連れていきたいのじゃが、なんとかならんじゃろうか」


「モイブ君ね。彼なら教授達に言えば連れていくことは問題ないでしょうけど、危険じゃないの?」


「リーリアも噛まれておるし、まぁ今更じゃと思うておる。

 それに、魔力さえ使わなければ大丈夫なんじゃないかと思っておるし、サンプルも増える。

 最悪、ミアルに意識を刈り取ってもらうつもりなのじゃ。

 今のミアルにそれを頼むのは酷じゃとわかってはおるがの……」


「そう。ならいいのだけど。

 後、給水を担当しているストイーヤ君だったわね。

 彼以外にも飲料用のウォーターを使える子が見つかればいいんじゃないかしら。

 給水担当はゾンビと戦わずに済んだから、今なら給水を喜んで引き受けるんじゃないかしら。

 引き受けてくれる子を見つけてきたら、私から他の教授達に掛け合って上げるわ」


「助かるのじゃ。

 他にも賛同者が居れば連れていきたいと思っているのじゃが、いいかの?」


「んん~。食料を考えると賛成はできないかな。

 食料のリストを見ても、私達がもらえるのは五人で二日分程度だと思うわよ?

 今でさえ、私、ユッコちゃん、ミアル、リーリアさん、モイブ君、ストイーヤ君の六人でしょ?

 これにさらに人が加わったら、食料なんてすぐに無くなっちゃうわ」


「交渉は、できんのかの?」


「ん~どうかしらね。エンジ教授は全体の存続を第一に考えているみたいだから……。

 一〇人以上の規模になれば交渉の余地は十分あるだろうけど、そんなに人を連れていっても研究の足しにはならないでしょ?」


「そうじゃのぅ。むしろ噛まれたリーリアやモイブの事を知れば不和の元になりそうなくらいじゃな」


「でしょう? だから、連れていくにしても後一人くらいが限界じゃないかしら」


「なるほどの。それならこれ以上は諦めるしかないかの。

 ヒリア教授、助かったのじゃ。わしはウォーターを使える生徒を探してくるのじゃ」


「力になれたのなら良かったわ。今日中に研究棟に向かうのなら、なるべく早く探してね」


 わしは一礼してヒリア教授の元を去り、ウォーターが使える生徒を探すため情報収集を始める。



「のう、ウォーターを使える生徒に心当たりはないかの?」


「すぐ戻ってきたと思ったら、なんだよ。俺が教えるわけねーだろ」


「まぁそうじゃな。

 ところでお主、ミアルに気があるのか?」


「はぁ!? いやばっおま、そんなんじゃねーよ」


「面白い反応をするのぅ。それでは、なんだと言うのじゃ?」


「……」


「ミアルは色々あって落ち込んで居る。今なら弱みに付け込んで……」


 絶対そんなことはさせんが、嘘もついてないしこれくらい鎌掛けてもよいじゃろ?


「お前本当に十二歳かよ? 俺よりよっぽどゲスいじゃねーか。

 つか、そんなんじゃねぇーんだよ」


「ならなんじゃというんじゃ? 気にはなっとるんじゃろう?」


「なんつーか、最初に会った時の姿勢がさ、ピシッと芯が通ってる子だなって感じたんだよ。カッコいいなってさ」


「なんじゃお主、ドMなのか? あの時のミアルはお主を殴り飛ばそうとしておったのじゃぞ?」


「えぇ!? 何それこわっ!!」


「知らん男が急に近づいてきたら、そりゃこっちも怖いんじゃよ」


 リーリアに誰も近づけたくなかったからなんじゃがな。


「そりゃ悪かったな。んじゃま、罪滅ぼしだ。あっちにいる緑色の髪した奴いるだろ? あいつに聞いてみな」


「うむ。助かるのじゃ。また来るでな」


「へーへー」


 教えてくれた生徒の元へ行き、給水係をストイーヤと交代できないか尋ねた所、快く了承してくれた。

 ヒアル教授に伝え、ストイーヤをわしらと一緒に研究棟に行けるように交渉をお願いした。

 教授陣が食後に集まるそうなので、結論はその時になるそうじゃ。


 少ししてミアルが返ってきた。

 モイブとやらはわしらと一緒に研究棟に行くのを了承してくれたようじゃ。


 食料チームの食事が終わり、今度は訓練場全体の食事になる。

 食料チームは見張り台まで行って暖かい食事をすぐに食べたようじゃが、さすがに六〇人近い人が上に行くわけにはいかぬ。

 なので、見張り台で料理をした物を訓練場の真ん中まで運び、そこで配給となるようじゃ。


 問題はリーリアの分じゃな。

 リーリアは暗幕で仕切られた舞台にずっとおって、他の生徒には姿を見せられん。

 食料には皆かなり敏感になっておるじゃろう。

 そんな中、二人分を持ち運んだり、二回並んだりすれば騒ぎになってもおかしくないかもしれぬ……。


 まぁ行ってみるしかあるまい。

 で、行ってみた結果、配給で配る際に名前をリストでチェックされるらしい。

 わしとミアルの名前はリストの最後尾に追記され、もう一人Rとだけ記載された名前があった。

 これがリーリアじゃろうな。


 ミアルは既に見張り台で食べているからチェックされておった。

 配給を担当しているのは、街から来た女性だった。

 わしはRと二人分を頼んだのじゃが。


「ごめんね、本人以外受け取れない決まりになっているの」


「いや、本人は舞台から出てこれんくてな……」


「ルールだから、破るわけには行かないわ。悪いけど、本人に来てもらってちょうだい」


 ぬぅわーっ! どうしたらええんじゃーー!!

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