第23話 ポンコツ勧誘

 ミアルは長い長い懺悔を終えると、しばらくわしの胸で泣いておった。

 緊張状態が続いて疲れていたのじゃろう、やがてそのまま眠ってしまった。


 わしの膝の上に頭を乗せたミアルを見て、わしは思う。

 ミアルにゾンビが生きていると伝えたことは、正しかったのじゃろうか?

 こんな極限状況下で、わしはミアルに余計な負担と悩みを押し付けてしまったんじゃなかろうか?


「ねぇユッコちゃん。ひどい顔してるよ?」


「え?」


 リーリアはわしの頭を撫でながら続ける。


「私はね、ユッコちゃんとミアルが一緒に居てくれてよかったって思ってるよ。

 教室で助けてくれたことはもちろんなんだけどさ、ゾンビになっている人を助けようとしているから、だよ。

 だからさ、そんな顔しないで?

 私で良かったらなんでも協力するから、いつもの自信満々で少しうるさいくらいのユッコちゃんでいてよ」


「何を……。 いや、自身満々なのではない! わしが単に天才なだけじゃ!

 それに、う、うるさくなんかないんじゃ! 愛嬌がたっぷりなだけなのじゃ!」


「ふふふ。何それ。

 でも、うん。ユッコちゃんはそっちの方が可愛くて好きかな」


「な、何をこっぱずかしいこと言うのじゃ、こやつは……」


 リーリアはわしの頭に置いていた手をクルリと回し、わしを抱きしめる。

 なんじゃか少しだけ、肩の荷が降りた気がするの。


「……ミルナ……いかな……」


 三人でくっついていると、ミアルが寝言を呟く。

 ミルナ? 見るな? なんのことじゃろな?


 しかしあれじゃな、他の人から見たら滑稽な姿ではないかの?

 ミアルを膝枕したわしをリーリアが抱えておる。

 うむ、誰にも見られたくない状況じゃな。


「ミアル君、食料チームの分の食事が用意できたんだが……あ、すまない。邪魔したね……」


 空気読みすぎじゃろぉぉお!?

 見られたくないと思ったのはフラグではないのじゃが、こんな空気になるとはのぅ!?


「会長、ミアルが起きたら伝えておきますけど、どちらに行けばいいですか?」


 リーリアの心臓は鋼鉄製かっ!?


「見張り台に来てくれと伝えておいて。広い場所じゃないから少し階段で待ってもらうかもしれないけど、火を使った暖かい料理を出せるよ」


「わかりました。それならすぐに起こしたほうがいいですね。会長は先に行っていて下さい」


「わかった。よろしく頼むよ」


 生徒会長殿の姿が見えなくなってから、わしとリーリアはミアルを起こす。

 女子の泣き顔を見せるわけにはいかんからの。


「あれ、ワタシ寝ちゃってた?」


「うむ。疲れておったのじゃろう。少しは楽になったかの?」


「そう、だね……」


「会長が食事ができたから見張り台まで来てって言ってたよ」


「食事……、食事かぁ……。ワタシどんな顔して行けばいいの……」


「モイブ先輩のことだよね。それだったら、私のこと伝えてみてよ」


「リーリアの?」


「そう。私もモイブ先輩と同じような状況だからね。

 私達と一緒に研究棟に来て貰ったらどうかな?」


「あ、そっか……。そっかっ! ユッコちゃん!」


「うむ。良いのではないか。

 フヒヒ! サンプルは多い方が研究が捗るからのぅ!」


 片手を腰に当て、もう片方の手で髪をさらりと掻き上げる。


「ふふ。何それ、全然似合ってないよ」


「なんじゃとぅ!?」


「ま、いいや。行ってくるよ!」


「待つのじゃ。そんな顔で行くでない。

 わしがストイーヤに頼んでハンカチを濡らして貰ってくる。少し待っておれ」


 今のミアルは女子が男子に見せられる顔ではないからの。

 研究棟に一緒に行くメンバーが増えるかもしれんが、男子一人はそれはそれでやり辛いじゃろうな。

 一応ストイーヤにも声を掛けるとするかの。

 水魔法を使える人材は、この状況下では貴重だしの。


「ストイーヤよ、このハンカチを濡らしてもらえんかの?」


「いいけど、どした?」


「ちょっとミアルの目が腫れてしまっての。冷やしてやりたいのじゃ」


「おいおい、大丈夫か? って、もしかして泣いちゃった感じか? まぁあんなかわいい子がこの状況じゃしかたねーよなぁ」


 こやつミアルが食料チームでバリバリの肉体派って知らんのか?

 飲み水作れる人材は貴重じゃろうし、給水所にずっといたじゃろうから知らなくとも無理はないか。


 飲み水を魔法で作るなんて簡単そうに思えるんじゃが、少量ではあるが人体に悪影響があるような不純物が混ざった物を作ってしまう人が多い。

 これは魔法陣によって発現する効果は八割は決まるが、残り二割は術者の魔法への理解によって変化するから。

 というわけで、以外にもストイーヤは貴重な人材ではあるが……。


「しかしお主、デリカシーがポンコツよな?」


「んなことねーよ! つーか俺先輩だぞ? ちったぁ敬えよ」


「そのポンコツっぷりをなんとかしてから言うのじゃな」


「んだよ、可愛げがねーちびっこだな。<ウォーター> ほら、これでいいか?」


「うむ。助かるのじゃ。それともう一つお願いというか、誘いなんじゃが。

 わしらは今日中にここを出て行く。

 お主も一緒にこんか?」


「はぁ!? 何言ってんだお前。

 つーか、ここを出るって何するつもりなんだよ?」


「わしらはな、噛まれた人がゾンビにならんようにしてやりたいのじゃ。

 それに、できるならゾンビとなった人達もな。

 そのために、お主にも力を貸してほしい」


「そんなことができんなら、俺も力になりてーけどよ……。

 そもそもできるのか?」


「わからん。

 じゃが、わしは研究者じゃ。何も調べぬままに、放っておくことなどできんのじゃよ」


「入学してたった半年で新しい論文を仕上げるお前に期待して、協力してやりたいとは思う。

 けど、自分で言うのもなんだけどよ、飲み水を作れる魔法使いは貴重だぜ?

 教授達が許してくれるとは思えねーよ」


「ほほう。協力はしてくれるのじゃな? 言質はとったぞ。

 教授らや生徒会長殿にはわしから伝えるとしよう。

 しかし安全なここより、わしらに力を貸してくれるとはありがたいことじゃのぅ」


「あ、いや。なんつーか勢いつーか言葉の綾つーか……」


「それではの。教授らから許可を取ったらまたここに来るとしよう」


「いや、ちょ、待てっ! 待って下さいー!」


 わしは後ろは振り向かずに、ミアルの所へ戻るのじゃった。

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