第22話 ミアルの懺悔
砲撃チームが魔法でゾンビを誘導してくれたおかげで、学生寮まではあっけなく辿り着くことができたんだ。
でも、ユッコちゃんが予想してた通りゾンビがいたの。
みんな制服じゃなくて、パジャマだったり私服っぽかったから、体調が悪くて授業を休んだんだと思う。
教室でおかしくなる前も、みんな体調悪そうだったし。
エントランスと談話用のラウンジに三、四人ずつゾンビがいるのが見えた。
だから、食料チームは慎重に進もうってことになった。
どうやって中に入るか話していた時、エンジ教授が武器や魔法陣を刻んである道具が研究室にあるから取りに行こうって言い出したの。
入り口から見ただけでもゾンビがいたんだから、奥に行けばもっといるだろうからって。
元々、食料を運ぶための荷車も研究棟から持ち出す予定だったから、先に取りに行くことになった。
食料チームは、エンジ教授とヤークト教授を始めとして全部で四人の教授がいた。
もちろんみんな自分の研究室を持ってるから、順番に行こうってなった。
ワタシ達が訓練場に行く時、研究棟にはゾンビはいなかったって言ったんだけど、何があるかわからないからチーム全員で動いたんだ。
結果的に、研究棟にゾンビはいなかったけどね。
それぞれの研究室には何事もなく辿り着けて、武器とか魔法陣を刻んだ道具とか薬をどんどん持ち出したの。
教授達が使える物があったら持ち出していいって言ってくれたから、みんなも使えそうな物を持ち出した。
所詮、研究室だから刃物が付いた武器はほとんどなかったけどね。
ワタシは誰かがおふざけで買ったのか、トンファーがあったからそれを貸してもらったんだ。
準備を整えたワタシ達は研究棟の用具室から荷車を出して、また学生寮に戻った。
食料チームは八人で、教授が四人と生徒が四人。
だから、教授と生徒でツーマンセルになって行動することにした。
ワタシは食料を貰う約束があるから一人で良いって言ったんだけど、エンジ教授がね、「全体の利益を考える立場ではあるが、一人の生徒を守ることも私達教授の役目だ」って言ってくれたんだよ。
怖い教授だと思ってたけど、この人は立派な大人なんだなって思った。
そんなわけで、生徒会長に宣言した通りにワタシが先頭になって、エンジ教授が続く形で学生寮に突入した。
エントランスとラウンジでは突入する直前に音を立てて貰って、ゾンビの注意を引いて貰ってからワタシがゾンビ達を殺さずに意識だけを刈り取っていったんだ。
通路にも何人かゾンビはいたけど、特に問題なく進めた。
ここまでは。
食堂の前まで無事に辿り着いて中を見るとさ、一五人くらいゾンビがいたんだ。
体調悪かった人が飲み物を取りに来たのか、お腹が空いてご飯を食べに来たのかはわかんないけど。
そんなことを考えてたら、生徒会長が言うんだ。
訓練場で噛まれた生徒が三人いるって。
しかも、その中の二人は魔力が中以上だったって。
その人達は、こんなゾンビがいる所に何で来たんだろうって思ったよ。
自暴自棄になったのか、最後の晩餐にしようとしたのかな?
ワタシにはわからないけど、厄介なことになったってみんなが思った。
ユッコちゃんの推論が正しければ、魔法を使ってくるかもしれないんだから。
食堂は数十人は入れる広さだけどさ、魔法を使った戦闘だと狭く感じるものだね。
突入はみんなの魔法の後。
そこかしこの物が吹き飛んで、ゾンビも四肢を千切られながら吹っ飛んでた。
ひどい、ひどい光景だったよ……。
ワタシはそれを見て、うずくまって吐いちゃったんだ。
やっぱり、覚悟が足りなかったのかな……。
教授達はすごかった。
魔法もそうだけど、覚悟がね。
ゾンビを、人を殺すことに躊躇がなかったんだ。
途中までワタシが上手くやれてたから、きっと殺さなくてもなんとなかるって思ってたのが甘かった。
魔法で諸々吹き飛ばした後、突っ込むはずだったワタシ全く動けなかったからかな。
ヤークト教授、生徒会長、モイブ先輩の三人が突入したんだ。
魔法を使うゾンビは教授陣が真っ先に倒した、はずだった。
だけどもう一人、魔法を使うゾンビが残ってたんだ。
放たれた魔法は、石を散弾のように飛ばすストーンスプラッシュ。
最初の一射は一番近くにいたヤークト教授が避けた。
完全に不意打ちだったはずなのに、かすりもしなかったんだ。
でも、ゾンビは魔法が当たっとか、残りの魔力を気にするとかなかったみたいで、何度も何度も連続して魔法を撃ってきた。
その中の一発が、ワタシの方に来てさ。
モイブ先輩はワタシを庇ってもろに食らっちゃったんだ。
運が悪いことに、モイブ先輩の頭にも当たったみたいで、意識が飛んじゃってた。
そこにね、他のゾンビがやってきてモイブ先輩を噛んだの。
ワタシが……、ワタシが突入していれば……もっとしっかりしていれば……。
頭に血が上ったワタシは、ようやく突入した。
正直よく覚えていないけど、いつのまにか食堂に動くゾンビはいなくなってた。
ワタシはすぐにモイブさんに謝った。
そしたら、モイブ先輩はね、モイブ先輩は、「君のせいじゃない。君が無事で良かった」そう、言ったんだ。
ワタシの、ワタシのせいなのに!!
そこから先もはっきりとは覚えてないけど、食料を持って調理場と荷車を往復したと思う。
でも一つだけはっきり覚えていることがあるの。
モイブ先輩の「最後の晩餐は旨い物を食べたい」って言葉が、頭から離れないんだ……。
ねぇユッコちゃん。
ワタシは、モイブ先輩に何かして上げられることはないのかな?
何か、できることは、ないのかな?
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