第26話 自分の名前をつける奴の気が知れん

「わしはユーレ・イコーデル。天才美少女魔法使いじゃ!」


 わしらと新たに行動する生徒と合流し、お互いに自己紹介をした。


 モイブは三年生でいかにも体育会系ですといった風貌で身長も高く、頼りになりそうな男じゃ。

 性格は見た目通りといった感じで細かいことは気にしなさそう、に振る舞っておるが、その実周囲に気を配れる奴なんじゃとおもう。

 ゾンビもどきに噛まれたというのに悲壮感を感じさせないようにしておるが、その実ミアルを心配そうにチラチラと見ておる。

 責任を感じさせないようにしておるのじゃろう。

 学院へは魔法使い志望として入学しており、火魔法がメインで風魔法をサブで学んでおるようじゃ。


 ヤークト教授から推薦された生徒の名はスミセンと言い、細身の三年生男子である。

 糸目で終始微笑んでおって、どうにも感情の読めん奴じゃ。

 まぁヤークト教授が推薦するからには優秀な生徒なんじゃろう。

 学院へは研究者志望として入学しており、土魔法がメインで水魔法をサブで学んでおるようじゃ。


 忘れておったが改めてストイーヤが自己紹介をしておった。

 中肉中背の二年生で、顔は整っておるがちょっとチャラそうな男子である。

 デリカシーがなく、時々人の話を聞かないポンコツ。

 学院へは研究者志望として入学しており、魔法は水属性一本という珍しいタイプである。

 人間ウォーターサーバーとしての活躍が見込まれる。


「お前今、すっげー失礼なこと考えてね?」


 もしかしたらエスパーかもしれん。



 自己紹介が済んだわしらは、研究棟に向かう準備を始める。

 準備と言っても大した持ち物があるわけでもない。

 食料と、生徒会に断りを入れ訓練場にある物を少しばかり拝借する程度なので、すぐに終わる。


 準備が完了したのは陽が傾いてから少したった頃。

 しかし、今日はなかなかハードなスケジュールじゃなぁ。

 早朝から食料確保のために色々と動き、一日ぶりの食事や人間ウォーターサーバーを始めとした今までは交流を持っておらんかった生徒と合流。

 そして、これからまたゾンビもどきの群れの中を移動か……。

 陽が完全に沈んでからでは危険度が大きく上がるから、早めに出発せねばならん。


 いざ出発と思った所で、ヒリア教授がわしらの音頭を取る。


「みんな準備は出来たかしら?

 改めて私達の目的をはっきりと共有するわ。

 私達はゾンビとなってしまった人達の治療方法の発見及び、噛まれた人の発症予防よ。

 まぁ彼らは生きているみたいだし、ゾンビって名称は正しくないわね。

 生きていることを確認したのはユッコちゃんだから仮にユーレ症候群「なんじゃと!?」とするわ。


 管理監督は私がするけど、研究リーダーは調査を始めたユッコちゃん。

 本格的に開始するのは私の研究室に辿り着いてから。


 研究棟に行くにはユーレ症候群者「ストップじゃ!!」がうろつく学院内を突っ切らなければならないのだけど、基本的にユーレ症「教授!?」候群者は殺さないように。

 もちろん、自分や仲間の危険が迫っていてどうしようもない時はその限りではないわ。

 自分と仲間の安全を第一に考えて。


 ルート選択を慎重にしたいから、出発する前に一度全員が見張り台から状況を確認しましょう。

 そのうえで、ルート選択を検討します。


 補足情報として、食料チームから研究棟にゾンビはいないと聞いています。

 本館はミアル達の話から隔離したユーレ症候ぐ「嫌じゃぁ!!」ん者が徘徊しているそうよ。


 ここまでで質問はあるかしら?」


「仮称の変更を要求するのじゃ!」


「ユッコちゃん、発見した症状に発見者や患者の名前が付くのは割と普通なことよ? 仮称だし、諦めて頂戴。

 はい、次の質問」


「なら、リーリア症候群でも良いじゃろう……」


「え!? 嫌だよ!」


「わしもじゃ!」


「食料確保の時みたいに、ユ、ユーレ症候群者「ミアルまで!?」の陽動はして貰えるんでしょうか?」


「そうね。それはエンジ教授に相談してみましょう」


「モイブ先輩やリーリアちゃんは言葉悪いですけど研究対象として協力するんだと思いますけど、部外者の俺やスミセン先輩は何をすればいいっすか?」


 ストイーヤが疑問を口にするが、お主は決まっておるじゃろうが。


「そうね、研究で必要になった場合に協力をお願いしたいけど、二人には主に交代で見張りなんかをお願いしたいわね。もちろん、他の人にも見張りはしてもらうから二人だけに負担を掛けるつもりはないけど」


「了解っす」


「食料は二日分しかありませんが、その間に成果が出なかった場合はどうなるのでしょう?」


 スミセンが痛い所を突く。


「解決や原因の糸口も見つからないようなら、その時に考えるしかないわね。

 他の教授や生徒会の子達が街へ食料調達に行くなら協力するとか、研究はあきらめて訓練場全体の方針に従うか。

 訓練場の方針に従う場合は、ユーレ症候群者「……」の殲滅も考えられるから、あまり従いたくはないわね」


「少々行き当たりばったりですが、この状況では仕方ありませんね。わかりました」


「質問ではないが、ユーレ症候群者「くっ、みんなして……」と戦うようなことがあれば自分が先頭に立ちます。

 一度噛まれていますから、みんなが危険になるよりはいいでしょう」


「モイブ先輩! 何回も噛まれたら早期に発症するかもしれないんですよ!?」


「ミアル、それでも君達が噛まれるよりはよほど良い。

 それにな、女性を守るのは男として当然だ。この考えを曲げるつもりなんて自分にはないんだ」


「モイブ先輩……」


「そうならないようにこれからのことを考えるのよ。

 さ、他に質問がないようなら見張り台へ行きましょう」

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