第4話相性がいいのじゃ!
「それで、ユッコちゃんはこの後どうするつもりなの?」
「う~む」
ミアルは体力と行動力は抜群ではあるが、考えるのがあまり好きではない。
授業課題でフィールドワークがあった時や研究室での課題に取り組む際は、ミアルが助手として二人で組み、わしが考え、ミアルが採取をするなど役割分担をすることが多い。
そんないつもの流れで、ミアルがわしに問いかけてきた。
「訓練場での騒ぎの時、浄化魔法を使っている奴はいたかの?
他にも、おらんとは思うのじゃがゾンビを傷つけた者がおったなら、結果どうなったかを知りたいのじゃが」
「ごめん、わかんないや。ワタシはユッコちゃんが心配で騒ぎが収まりかけの時に訓練場を出ちゃったし」
「そうか……。あ、ゾンビに噛まれた者には回復魔法は使った治療はしたのかの?」
「ごめん、それもわかんないや」
「ふ~む、情報が足りんの。
一度、訓練場に行って情報収集をしたいのじゃ。
隠れるか、街か街の外へ逃げるのか、行動方針を決めるのはそれからでも遅くあるまい。
もちろん、安全に生き延びるというのが大前提だがの」
「オッケー!
それじゃ、訓練場までレッツゴー!!」
「まてまてまてい!
研究棟や本館にはゾンビはおらぬのか?
わし、ゾンビの群れの中を走るの嫌じゃぞ?」
「え? 普通にいたよ? 身体強化魔法でぶっちぎってきたけど」
「やっぱりここで助けが来るまで待ってるかの……」
「だ、大丈夫だよ! ちょっとしかいなかったし!
それにここで待ってても助けが来るかなんてわからないよ!?」
「確かにここで待っておっても状況がわからんままなのは怖いしのぅ。
そういえば感染した生徒は保健室に隔離したんじゃったか?」
「最初の数人の生徒だけ、ね。
人数が多かったから、各教室に隔離したって聞いたけど」
「逃げ出したり、せんのじゃろうか」
「ん~ここまで来る時にそう言えばいくつか教室の扉が倒れてたかも。
ワタシが見たのは教室から出てきた生徒だったのかな?」
研究棟から訓練場までは本館を通る必要があるんじゃが、連絡通路は研究棟から本館へは二階に、本館から訓練場には一階にある。
本館でどこの教室からゾンビもどきが出てくるのかわからない中、廊下を突っ切らねばならんのか……。
つまり、めちゃくちゃリスク高くないかの!?
校庭は校庭でゾンビもどきが入ってきたら恐ろしいし……。
「ま、まぁ仕方あるまい。研究棟の二階から本館へ移動して、中央階段から一階に降りて訓練場へ行くとするかの」
「オッケー! それじゃ、準備しよーか」
わしとミアルがフィールドワークでコンビを組むのは、使用する魔法の相性が良いからじゃ。
ミアルの制服の裏地には魔法陣が複数刻んである。
その魔法陣に手を当て、ミアルは三回魔法を発動させる。
「<英雄の
<金剛体>
<韋駄天>」
「<ディレイ>」
ミアルが身体強化の魔法を使ったのを確認し、わしはその場所にディレイの魔法を発動させる。
身体強化の魔法には効果時間があり、強化の度合いを高めれば高める程、効果時間は短くなる。
そこをわしのディレイで効果を停滞させ、効果時間を引き延ばすのである。
生物に使えば数分しか持たない効果も、魔法にならば長時間効果を発動することもできるのじゃ。
これが、わしとミアルが一緒に行動する理由。
一番は、と、友達じゃから、じゃがの……。
「武器はなくて良いのか? 素手でも強いのはわかっとるが、噛みつかれたらミアルもああなってしまうかもしれんぞ?」
「ん~そうだねぇ。よっと!」
バキッ、と研究室にある長机をいとも簡単に破壊し、細長い木材を抜き取る。
机の上に乗っていた書類は多くはなかったが、床に散らばる。
昨日の夕方から今までわししか研究室を使ってなかったから、わしが教授から怒られたり、弁償させられたりせんだろうか……。
何かあったらミアルの名前を出すしかあるまいて……。
「ん! オッケー! さぁ行こう、ユッコちゃん!」
ミアルは木材をクルクルと回し、軽くぴょんぴょんと跳ねて、調子を確かめるような仕草を見せる。
「何があるかわからんのじゃ、慎重に、慎重に進むんじゃぞ。
も、もし、何かあったらその時は頼むぞ! 絶対、絶対じゃからな!」
「はいはい。ユッコちゃんは怖がりだねぇ~」
「そ、そんなことないわい!!」
ミアルを先頭に、わしらは研究棟を進み始める。
そもそも研究棟に午前中からいる生徒は少ないし、隔離された生徒は本館にいるはずなので、恐らく安心じゃろう。
とはいえ、何が起こるかわからぬと慎重に進む。
じゃが、あっけなく二階の研究棟と本館を繋ぐ連絡通路まで辿り着いた。
「本館からは本当に何が起こるかわからん。慎重に行くんじゃぞ、ミアル」
「ユッコちゃん、研究棟でも同じこと言ってたけど、何もなかったじゃない。本当に怖がりなんだから」
「何おぉ!? 本館は本当に何があるかわからんのじゃぞ! 隔離されていた生徒が逃げ出してるかもしれんし!」
「はいはい。その時はワタシが守って上げるからね?」
ミアルは子供にそうするように、わしの頭を優しく撫でる。
「ぐぬぬぬ」
「ほらほら、手ぇ繋いであげるから行こっ!」
そう言って、ミアルはわしの手を取って歩き出した。
こ、怖くなんかないやい!
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