第53話 相棒

「……え? ちょ……これ、何? どういうこと……?」


 四つん這いのまま頭部のみが露出し、首があらぬ方向に曲がっているスミセン。

 その周囲にはスミセンの魔法によってズタボロにされたゾンビが横たわり、血だまりを作っていた。


 それを目の当たりにしたミアルの表情は青ざめている。


「スミセン先輩……死んで……る……? これ、ユッコちゃんが……? それに、その髪……」


 まさに死屍累々という状況で、のんびりと座りこんでいるわしのことを無関係だとは思わなかったじゃろう。

 もはや、言い逃れなどできはしまい。


「なんで、戻って来てしまったのじゃ……。黙って去るつもりじゃったのに……」


 死霊術は忌み嫌われる。

 こうなった以上、わしの正体はバレ、学院を去らねばならんじゃろう。


「どういう、ことなの……? ユッコちゃん……何があったか、知ってるんでしょ!?」


「わしが、やったんじゃよ」


 奴らが暴走して争っていたなどと言って誤魔化しても、疑念は晴れずに段々と心を曇らせていくじゃろう。

 そんなことはわしの本意ではない。


「へんな冗談、やめてよ……。ユッコちゃんにそんなことできるわけ……」


 理解ができないといった表情でわしを見つめるミアル。


「ずっと黙っていてすまなかったのじゃ。わしはの、死霊術士なんじゃよ」


「何、何よ、それ……? 死霊術士だから、スミセン先輩を倒せたっていうの……?」


 ミアルは顔を歪めていく。


 そうか、そうじゃったんじゃな。

 死霊術が忌み嫌われているなどと言って学院を去ろうとしたのは、表面的な言い訳にすぎぬ。

 ミアルから、みんなから拒絶されるのが怖かっただけなのじゃな……。


「そうじゃ。わしが死者を操り、スミセンを殺した。

 それと、生徒会長殿から言伝があっての。魔力回復薬を自室に溜めこんでおるようじゃ。教授らに伝えて、取りに行くとよいじゃろう。

 まぁまだ奴らはうようよしておるが、お主らなら治療法もわかっておるしもう大丈夫じゃろう」


「……全然、わけわかんないよ」


「できれば知られたくなかったのじゃ」


「そんなんじゃない!!」


 ミアルがこれほど大きな声を出すなど初めてで、わしはビクリと体をすくませる。


「そんなんじゃ、ないよ……」


「ど、ど、どうしたのじゃ……?」


「何で! 何で他人事なの!? ユッコちゃんだってこれから学院を立て直さなきゃいけないでしょ!!」


「わしは、正体がバレてしまった以上学院にはおれんよ……」


「何でよ!! この数日、一番頑張ったのユッコちゃんじゃない!!

 学院中動き回って、リーリアにモイブ先輩にナナイ先輩を助けて!! 治療法まで発見して!!

 暴走したスミセン先輩まで倒したの、ユッコちゃんじゃない!!」


「ミアル……」


「この髪だって、無理したからなんでしょ……?

 それなのに……ユッコちゃんがどっかいっちゃうなんて……そんなの……おかしいよ……」


 わしの白くなった髪を手に取り、そしてわしを抱きしめる。


「もっと……ユッコちゃんやリーリア達と一緒に、いたいよ……」


「っ、わしも……じゃ……」


 ミアルの暖かさが、染み込んでくるようじゃった。

 わしもミアルも涙ぐんでしまう。

 しばらくそのままでいた後、ミアルが口を開く。


「……ユッコちゃんが死霊術士だってことは、ワタシしか知らない……」


「?」


「……スミセン先輩は、ワタシが倒した」


「何を、言うておるのじゃ?」


「手柄を取っちゃうようで悪いけど、スミセン先輩はワタシが倒したことにしてほしい。

 ボロボロになったユーレ症候群者を何人か動かしちゃえば、なんとか誤魔化せると思う」


「お主は……死霊術士が、わしが怖くないのか……?」


「? 怖がりなのはユッコちゃんでしょ?」


「は、はは。なんじゃ、心配して損したのじゃ。

 じゃが、お主は良くとも皆はそうもいかんじゃろう。髪の毛もこんなになってしもうたしな」


「どう、だろうね。でも、たぶんだけどリーリアにだけは正直に言っても大丈夫だと思う」


「確かにのぅ。じゃが、あやつあんな性格じゃったかの?」


「そりゃぁお互い知らないことばかりだもん。

 ワタシだって、ユッコちゃんが死霊術士だなんて知らなかったし?」


「ぐぬぅ、痛い所を突くの……。ま、これからお互いの知らぬ所を知ってゆきたいものじゃな」


「そうだね。そのためにも!

 後片付け、がんばろっか!」


「うむ! よろしく頼むぞ、相棒!」


「まかせてよ! 相棒!」


 お互いに気合いを入れて、わしが死霊術士であることの隠蔽工作を始める。

 とはいっても、大したことはない。


 今の状況で一番不自然なのは、スミセンを五体で殴らせたために石弾によってズタボロにされたゾンビ達が一か所に固まっていることじゃ。

 それを各所に散らばらせることくらいしかできはせん。


 行動を開始しようとした所で、またしても後ろの訓練場から音が聞こえてきた。


「ユッコちゃん! ミアル!」


「噂をすれば、じゃな」


「ふふふ。そうだね」


 後ろを振り向けば、すぐそこまでリーリアが走ってきていた。

 その後ろの訓練場は、しっかりと締められている。

 開いていたら色々企みがパーになる所じゃったから、一安心じゃな。


「二人とも、無事だったんだね! 私いきなり気を失っちゃったみたいで……起きたら訓練場だし、すっごい心配したんだからっ!!

 って、ユッコちゃん! その髪、どうしたの!?」


 リーリアに何が起こったか気づかせずに気を失わせるとは、さすがクロネとクロカじゃな。


「リーリア、すまんが今はわしらを手伝ってくれんかの。詳しいことは後で話すゆえ」


「えぇ? いやいや、先に教えてよ!」


「まぁまぁそう言わずに、頼むよ相棒!」


「そうじゃそうじゃ、頼むのじゃ、相棒!」


「ちょっと何よそれ~! 二人してなんなのよ~!?」

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