最終話 わしらの戦いはこれからなのじゃ!
「生徒会長殿めっ。魔力回復薬だけでなく、食料もこれほどため込んでおるとはの……」
スミセンを倒した翌日、わしらは学生寮に物資調達に来ておる。
それまでにとてもとても色々なことがあったのじゃが。
そうそう、おじいさまはミアルと合流した時にいつのまにかどこかへ行ってしまったようじゃ。
魂のみの存在であるおじいさまは、割と気まぐれである。
それで色々の内、半分はお説教じゃったな……。
まず最初はリーリア。
三人で隠蔽工作を行った後にわしがスミセンを倒したことと死霊術士であることを告げた。
最初こそ驚いていたものの、ミアルの言う通りリーリアはわしを受けいれてくれた。
が、なんでそんな無茶をしたのかと凄まじいまでの勢いで怒られた。
その中で告げられた、「ユッコちゃんが何者であっても私はずっと友達だから」その言葉には涙がでそうになったものじゃ。
次はヒリア教授。
訓練場へ戻ると、エンジ教授とヤークト教授を看病しておったようじゃが、わしを見つけると一目散に駆けてきて、正座をさせられた。
なんで単独で行動したのか、危険だのなんだの。
正論すぎて謝ることしかできんかった。
エンジ教授とヤークト教授も目が覚めるとわしを呼び、生徒会長殿ことこからスミセンを倒したことまで事細かに説明を求められた。
スミセンにやられて(ヤークト教授はそう思っている)ミアルとわしが戦った(ことになっている)ことに関しては謝罪を受けたが、生徒会長殿が怪しいことを告げなかったこと、一人で出向いた結果逃げられたことは咎められた。
まぁ、これに関しては言えない事情もあった。
生徒会長殿は訓練場にも自分の息のかかった生徒会メンバーを残しておったし、自身の部屋には食料も大量に保管していた。
これは、昨日の段階では逃げないプランもあったということであろう。
エンジ教授やミアルなど武力に優れた者が外にいたとしたら、恐らく生徒会長殿は逃げなかったはずじゃ。
わしでは止められんと考えたからか、それとも単純に話がしたかったのか、それはわからんがまぁわしだけじゃったから行動を起こしたのであろう。
ま、結局逃げられてしまったから何も言い返せなかったのじゃが。
一通りお説教が終わった所でわしが生徒会長殿の言葉を伝えて、学生寮に物資確保に来ることになったわけじゃ。
学生寮で個人所有の物を漁るのはプライバシーもあって躊躇してしまう気持ちと反発する声もあったが、こんな状況ではそんなことも言っておられぬ。
何より生徒会長殿が隠していた魔力回復薬だけは必ず手に入れなければならないのじゃから。
ユ、ユーレ症候群の治療。
治療には魔力回復薬が一本もしくは二本必要になる。
その治療方法は脳への魔力を遮断し、その間に魔力を回復させることじゃ。
治療法のきっかけは、研究室でミアルの首トン実験とナナイの体調を調べていた時のこと。
ナナイの体を調べておる時、奴らの行動が魔力を求め、魔力によって動いているという死霊術に近い性質を持っていると気付いた。
そして、ミアルの首トンは奴らを一発で倒すことはできたが、ストイーヤやモイブには効かなかった。
その二つの結果から、わしは一つの推論を立てた。
奴らは薬品によって、魔力を変質させられているのではないかと。
魔力回復薬は飲んだ者の魔力を増幅させて魔力を回復させる薬じゃから、変質させることもあり得ぬことではないかもしれぬと思ったのじゃ。
変質させられた魔力は、脳へ到達することで一定の行動を取らせる。
つまり、魔力を求めて吸収し、その魔力で行動することじゃ。
これが、他の無事な生徒を噛みつこうとしていた原因なのじゃと思う。
これだけでは実験や治療に貴重な魔力回復薬を使用するというのは合理的ではない。
ではなぜそう思ったかというと、奴らが発症する時の条件を考慮したからじゃ。
最初期に発症した生徒らは、魔力量が少ない者じゃった。
次に発症した生徒は、奴らに長く噛まれて魔力を多く吸収されてしまった者か、魔法を使ってしまった者じゃ。
訓練場ではそれまで発症しておらんかった者も発症してしまったが、スミセンが薬を一気飲みして発症した所から薬の量も相関関係があるのは間違いあるまい。
ここから推察できることは、自身の魔力そのものが薬に対する抵抗力を持っているということ。
そして、魔力が一定値を下回ると薬に侵され、意識を奪われてしまうこと。
であれば、首トンによって薬の制御から逃れた者が魔力を回復させたら抵抗力が戻るのではないか?
そう考えて、実際にナナイをミアルの首トンで気絶させ、綿に染み込ませた魔力回復薬を少しずつ飲ませることでナナイは快復した。
全て実験結果からの推論でしかないから、実際は全く別の要因であるかもしれんがの。
生徒会長殿自身も発症後に快復させる方法は知らんかったようじゃから、詳細は闇の中じゃろう。
いや、生徒会長殿がさらに研究を重ねる可能性もあるか……。
「これで使えそうな物は全部かしら?」
生徒会長殿の部屋を部屋を調べている最中にいつのまにやら思考に耽っていたわしは、ヒリア教授の一言で我に返る。
「今回の薬の研究資料などはなかったのかの?」
魔力回復薬と食料が手に入ったことで、学院の状況はかなり良くなるじゃろう。
じゃが、街の方はそうもいかぬ。
生徒会長殿の言葉を信じるならば、街の方は彼の仕業ではないことになる。
つまり、今回の薬とは別の原因があるかもしれぬ。
そうであればまた一から調べなおさなければならないが、何かしらの手がかりがあれば随分と楽になる。
全くの無関係というわけでもないようじゃったから、何か出てくれば良いと思ったのじゃが。
「書類には簡単に目を通していたけど、ほとんどが生徒会関係の物しかなかったわよ」
「当てが外れてしまったの……ヒリア教授、ありがとうなのじゃ」
「私達みんなのためだからね、お礼なんていらないわ」
その後も軽く調べたが有用な物は出てこず、わしらは魔力回復薬と食料を持って訓練場へと戻る。
校庭やグラウンドには、もう奴らの姿はない。
ここ数日で学院の生徒や職員たちは大きく姿を消してしまった。
今や無事なのは三〇人を下回り、発症した生徒らも数は随分と少なくなった。
わしらが来る前に訓練場内では、大規模な発症やそれに伴う殺し合いが起こってしまった。
そして、昨日の生徒会長殿が放った魔法だか魔力によって、多くの奴らが一か所に集まった。
発症してしまった学院にいた生徒や職員がほぼ全員である。
その数は膨大で、一〇〇人に届くのではないかと思うほどに。
数は力で、訓練場から出ることもできない状況になったのだ。
教授らはここで一つの決断を下した。
奴らを、殺してしまうことを。
身近な者を失った経験をし、戦争を見てきたわしは治療方法も見つかったのだからと当然反対した。
じゃが、それで今いる人達を危険な目に合わせることができないこと、その時手元に魔力回復薬がなく治療が施せないことを理由に、決定が覆ることはなかった。
結果、校庭に集まった奴らの大半は殺されてしまった。
魔法使いや魔法を研究する生徒を育て、指導する教授らが覚悟さえ決めてしまえば、容易いことだった……。
無論、誰もがつらそうな顔をしておった。
それでも、自分達が生き残るためにそうするしかなかったのじゃ。
止められなかったわしも同罪じゃな。
じゃが、その中で生き残った者も数名はおる。
せめて、彼らを治療することが残ったわしらの使命であろう。
不謹慎ではあるが、幸いなことに生徒会長殿が蓄えていた食料と人数が減ったことによって、一週間以上は優に生きていけるだけの食料は手に入った。
生き残った奴らを治療し、次の行動に移すには十分な時間が稼げたと言えよう。
訓練場へと戻り、魔力回復薬の他に食料を持って帰ってきたのを確認すると、みんな喜びを表した。
じゃが、教授らの顔だけは未だ厳しい。
あくまで当面の食料問題が解決しただけで、これから先はどうなるかわからないのじゃから。
その日の夜、生き残った教授らと数名を生徒を加えて会議が行われた。
生徒の中で呼ばれたのはわしと、生徒会のセーカ、名を知らぬ上級生もおった。
「ヤークト教授、ヒリア教授の研究室メンバーが学生寮から持ち帰った物資によって、学院はしばらくの間平穏が訪れるだろう。
だが、ご理解されている通り、街全体で起こっているこの異変がいつ沈静化されるか見通しは立っていない。
食料も無限にあるわけではない。よって、街への探索を提案する」
「さ、みんな準備はいい? 水と食料は持ってるかしら?」
「大丈夫じゃ」
「はい!」
「おっけーっす」
「それじゃ、今回の目的は街の無事な人達との接触。学院外のゾンビもどきの調査もしたいけど、それは余裕があれば、ね。私達の無事が一番だから各自周囲の警戒を怠らないように!」
「わかっておるのじゃ。
それではみな、行くぞ!
新生ヒリア研究室、行動開始じゃ!」
スミセンによって倒された校門は再び補修され、街と学院とを明確に区切っている。
そして、わしらは校門を越えて街へと足を踏み出す。
わしは、街の平和を取り戻したい。
街は学院とは比べ物にならないくらい広く、人も多く、危険に溢れているじゃろう。
それでも、わしらは諦めずに進む。
ミアルやリーリアとこれからも一緒に平和な時間を過ごすために。
わしらの戦いは、これからなのじゃ!
死霊術師なんじゃが、ゾンビパンデミックが発生して困惑しておる ひなまる @hinamaru01
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