第52話 決着

「おじいさま、強化死霊術ブーストネクロマンスを使って、奴を一気に殺す。殺した後は、奴が吸収していた魔力がどうなるかわからんから、すぐに死霊術で操る。サポートを頼みたいのじゃ」


『ブーストした状態のゾンビを、今のわしでは操れん。ユーレが操れば呪いが進んでしまうのじゃぞ?』


「ここで力を使わずにミアルやリーリアが死んでしまったとしたら、その記憶の方がわしにとっては余程呪いになるというものじゃ」


『大切な人や物のために力を使うか。やはり、血は争えんというものじゃな。

 あいわかった。わしは魔法陣の改変をするとしよう』


「ありがとうなのじゃ。

 いくぞ、おじいさま!」


 クロネ、クロカを呼び出すために、メガネには透明な特殊インクで魔法陣が仕込んである。

 おじいさまは死霊術の呪いによって魂のみの存在となったが、その代わりに魔法陣を使用せずに死霊術が行使できる。

 魔法陣が呪いによって魂に刻まれてしまったと言うておった。

 そんなおじいさまに、メガネに刻まれている魔法陣を改変してもらってブーストネクロマンスを使う。


『準備は良いぞ』


「<ブーストネクロマンス>」


 メガネに魔力を流し、死霊術を発動させる。

 通常のネクロマンスよりかなり多くの魔力を消耗し、呪いの負荷を段違いに強く感じる。

 発動と同時にわしの体は白い光に包まれ、呪いによって髪の毛が一束、白く染まる。


 操るゾンビには困らない。

 生徒会長殿によって集められた奴らが、エンジ教授の拳銃や魔法によって幾人も倒れ伏している。

 彼らを、死霊術によって呼び起こし、魔力によって強化する。


 わしに死霊術を行使され、のそりと六体のゾンビが立ち上がる。


「<オーダー>縦列で奴に近づくのじゃ」


 スミセンは見境なく土魔法を連発してくる。

 その攻撃は広範囲に渡っているため、バラバラに行動していては被弾が増えてしまう。

 被害を最小限に止めるためには一体が盾になるしかない。

 そのために、縦一列で進ませる。


 すまぬ……。

 死してなお、お主らを傷つけてしまう……。

 それでも、わしには守りたいものがあるのじゃ……。


 六体のゾンビが強化された肉体を持ってスミセンへと襲い掛かる。

 スミセンは全方位に岩の散弾を魔法によって放つが、先頭の一人はその攻撃をかわすことなく進む。

 その体に穴を開けてなお、彼が止まることはない。

 魔力によって、動いているのだから。


「<オーダー>全力で奴の頭部を攻撃するのじゃ」


 ブーストを使ったとはいえ、ゾンビがミアルのような驚異的な戦闘力を得られるわけではない。

 ゾンビには複雑な命令が与えられないから、ミアルのような素早い攻撃を連続させることは難しい。

 もちろん、六体のゾンビが組織的なコンビネーションをみせることもない。


 じゃが、一撃の攻撃だけなら、ミアルにも引けを取らない。

 むしろ、それ以上といえるはずじゃ。


 人間は普段、自分の体を守るために無意識の内に力を制限しているという。

 ゾンビにはそれがなく、魔力によって動きも強化されている。

 じゃから、その一撃は驚異的な物になる。

 ミアルの攻撃でもひび一つ入らなかったスミセンの岩の装甲にもダメージを与えられることじゃろう。


 先頭を走っていたゾンビが体中を穴だらけにされて、ついに倒れ伏してしまう。

 しかし、その後ろを走っていた五体は無傷のまま、スミセンに接近することに成功した。

 そして、強烈な一撃がスミセンを襲う。


 ドゴッ! と鈍い音と共に一体目のゾンビがスミセンの頭部を殴りつける。

 ゾンビの腕は不自然な方向に曲がり、スミセンの魔法を至近で受けて倒れ伏す。

 一方、スミセンの頭部を覆う岩には、わずかに亀裂が走っていた。


 それを三度繰り返して大きな亀裂となる。

 そこに五体目のゾンビが跳び蹴りを入れて、ついにスミセンの走行を破壊することに成功する。


「いくのじゃぁあああ!!!!」


 最後のゾンビがスミセンの頭部に渾身の一撃を見舞い、スミセンの頭部はあらぬ方向へと曲がらせた。


『今じゃ、ユーレ!』


「<ネクロマンス>!!」


 わしはすかさず死霊術を発動し、スミセンを操ろうとするが手応えがなかった。


『あやつが内包している魔力が想像以上じゃ! 奴の魔力を上回らんと操ることはできんぞ!』


 死霊術は、魔力によって死者を操る魔法じゃ。

 じゃから、魔力を吸収しているスミセンには大量の魔力による上書きが必要なのかもしれん。


「うぁああああ!!」


 さらに魔力を込め、ネクロマンスを発動し続ける。

 白くなった髪がさらに広がるのを目の端でとらえた所で、ようやくネクロマンスが成功した。


「<オーダー>魔力が無くなるまで動くな、なのじゃ。

 あぁぁ……もうしんどいのじゃぁ」


 死者となれば、宿っていた魔力は霧散していく。

 このまま魔力が無くなれば、変に暴走することもないじゃろう。


『よくやった、ユーレや。さすがわしの孫じゃな』


 ペタンと尻餅をついて、わしは空を仰ぎ見る。

 しばらくその体制でいると、後ろの訓練場の方から騒々しい音が聞こえてきた。


 なんで、出てきてしまうのじゃ……。

 出てくるなといったであろう、ミアル。

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