第11話 理論より実践派?
「ワタシはさっきまで中にいたんだから、すぐに入れてくれるでしょ!」
「ミアルがさっきまで訓練場にいたことも、身体強化の魔法でそうそうゾンビに引けを取らないことを知っている者もいよう。
が、全員が知っているわけではない。
ミアルだけならまだしも、わしがゾンビに噛まれていないかは疑われるはずじゃ」
「じゃ、じゃあ服を脱いで訓練場へ行く?」
「アホかっ! わし、絶対嫌じゃわい!
それにの、噛み跡は回復魔法でごまかすことも可能なんじゃよ。
中にいる連中がそれに気づいているかはわからんがの。
もし気づいているのなら、服を脱いで確認してもらった所で、噛まれていないと保証することはできんのじゃ。
それに、リーリアは実際に噛まれていて、知っている人もおろう」
「あ……」
「私が噛まれていること、見てた人も中にいると思うよ……。
怖いけど、私、ここにいるしかないのかな……」
「心配するでない、リーリア。
約束したであろう? 友人として、わしらにできることをすると」
「ユッコちゃん……」
「でも、具体的にどうするの?」
「そうじゃな。
まずはミアル一人で訓練場へ行ってもらいたいのじゃ。
正面から入るには、ゾンビが多すぎるでな。
ミアルには見張り台から入ってもらう」
「ユッコちゃん、いい?
人には、できることとできないことがあるんだよ?
頭の良いユッコちゃんがわからないわけないよね?」
「残念な子を見るような顔をするでない!
無論、考えはあるから、最後まで聞くのじゃ!
で、どうやって屋上へ行くかじゃが、リーリアに手伝ってもらい、魔法で足場を作る。
ミアルにはその足場を使って屋上まで行ってもらいたいのじゃ」
訓練場はその名の通り、屋内で訓練ができるよう広く、天井が高い。
その高さは、七、八メートルを超える程じゃ。
さらに、訓練場には見張り台が付いており、その高さは一〇メートルに及ぶ。
今回はそこから侵入しようということである。
いくら身体強化を施したミアルであっても、当然その高さをジャンプすることなどできはなしない。
そこでわしが考えたことは、リーリアの魔法を固定する、というアプローチである。
停滞魔法は、生物と魔法に対して効果を発揮することができる。
この特性を利用し、魔法を固定して足場にしようというものじゃ。
概要を説明すると、二人の顔にはクエスチョンマークが浮かんでおった。
「魔法を固定して足場にするっていうのが全然理解できないんだけど?」
「そうじゃの。理論的には、停滞魔法は魔力という生物が持ち、体内・体外に放出で……、いやこの話はいずれ機会があればするとしよう」
二人が興味なさそうな顔になったので、話を中断する。
研究成果を共有できないというのは、悲しいのじゃが。
「実際にやってみるのが一番早いじゃろう。リーリアよ、土魔法と風魔法は何が使えるのじゃ?」
人によって、使える魔法は限られる。
一般的には適正に合わせて、メインとサブで二種類を学ぶ者が多い。
リーリアは火メイン、土・風サブの三種類とやや珍しいタイプじゃな。
魔法の発動には魔法陣が必要じゃから、装飾品などに魔法陣を刻んで持ち歩くが、それにも限度がある。
わしであれば、金属板と身に着ける物の一部に魔法陣を刻んで持ち歩いているし、ミアルであれば制服などに仕込んである。
「風と土は一種類ずつしか使えないんだけど、風魔法ならウィンドブロウで、土魔法ならウォールかな」
ウィンドブロウは風を吹かせる魔法で、ウォールは石の壁を作る魔法である。
魔法の大きさや強度などは魔法陣によるが、今は詳細は省くとしよう。
「ふむ。ウォールの発動距離はどれくらいなんじゃ? 距離によって大きさは変わるのかの?」
「発動距離は私を中心に半径五〇センチくらいまでかな。大きさも直径が五〇センチくらいだよ」
「思ったより、発動距離が短いの……」
「魔法適正とブレスレットに組み込める魔法陣はそれが限界で……」
「いや、責めているわけではないのじゃ。気を悪くしたらすまんの。
ならば、難しいかもしれんがウィンドブロウをその場に固定して足場にできるか試してみたいのじゃが。
ウィンドブロウなら発動距離は長くできるかの?」
「うん、それなら三メートルくらいは大丈夫」
「ユッコちゃん! 風に乗るとか、カッコイイけどさすがに無理だよ!」
「今はゾンビが学院内にあふれている無茶苦茶な状況じゃ。
そんな中、なんとかしようと思ったらわしらも無理無謀をせんとどうにもならんよ。
難しいのはわかっとるが、まずはやってみるしかあるまい」
渋い顔をしたままのミアルは一旦放置して、リーリアと相談し、実験を開始する。
実験を始めるにあたって、色々とやり辛いのでリーリアの縄は解いてしまった。
やはり、仮説を確かなものにする実験は良いの。
まぁ、今回の場合は仮設というより思いつきじゃし、はっきりと失敗したが。
今回の実験は魔法が発動した直後に、発動した場所と効果を固定するというものじゃった。
固定化することで、魔法というエネルギーの足場ができるのではないかと考えたのじゃが……。
結果から言うと、風をその場に固定することはできた。
じゃが、当然ながら風は空気の流れでしかない。
つまり、それを足場にすることなどできはしなかった。
「ユッコちゃんて、時々すっごくアホだよね」
「うっ、うっ、うっさいわい! それならミアルが何か考えるとええんじゃ!」
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