第10話黒猫は踊る

「ミアルよ、騒がずに聞くのじゃ。

 グラウンドに、ナナイがおる。無論、感染しておるはずじゃ」


「ナナイ先輩が!? 助けに行かなくちゃ!」


「やめるのじゃ! 言ったじゃろう、感染しておるはずじゃと」


「そんなのわかんないじゃん!」


「聞き分けのないことを言うでない! ゾンビの群れにいて、無事な者が襲われないはずがないじゃろうが」


「っ! で、でも!!」


「だから、わしらは情報を集めて、何が起こっているのかを確認し、これからどうするのかを決めるのじゃ。

 それが、今わしらがしなければならんことじゃろう」


「……。わかっ、た。訓練場に急ごう」


 ギリッと歯をきしませ、苦しそうにそう言う。

 わしも、大事な世話焼きの先輩をあのままにはしておけぬよ。

 きっと、助けてみせようぞ。

 そう、決意を新たにする。


 廊下の反対側、外にいるゾンビに見つからぬよう移動を開始する。

 奴らが音以外に何に反応するかわからぬ。

 視覚や嗅覚、得た五感情報をどのように処理するかも。


 匂いは正直どうにもならんな。

 そもそも乙女たるわしらが臭いなどそんなことはあるはずないじゃろうし。


 視覚が一番気を付けなければならんと思うのじゃが、中央階段の角から除いた時にゾンビもどきの反応はなかった。

 そもそも見えていないのか、見えているが、噛む対象だと認識していないのか。

 そういえば、人間以外の動物には反応するのじゃろうか?

 ちょっと心配じゃが、クロネやクロカに試してみてもらう必要があるかもしれんな。


「奴らは動くものに反応するのかの? ゆっくり歩いた時と走った時は反応が違うのじゃろうか?」


 近くにいるだろうクロネとクロカに聞こえるように、少し大きな声で話す。


「ユッコちゃん、声大きいよ! さっきはミアルに騒ぐなっていってたのに!」


 リーリアに怒られてしまった。


「ご、ごめんなのじゃ。

 っと、あれを見るんじゃ。猫がゾンビに近づいて行くぞ!?」


 あぁクロネ。

 わしは心配じゃ。

 もし危険になりそうだったら、死霊術で強制的に帰還させてやるからのぅ。


 訓練場側にゾンビもどきは集まっているが、中央にも二人おる。

 クロネはグラウンドの中央に向かってテトテトとかなりゆっくり歩いて行く。


 ゆ~っくりと歩くクロネに顔を向けているが、追いかける、襲うなどの明確な反応は示さない。

 動物には反応しないのじゃろうか。


 そんなわしの考えを察したかのように、ゾンビもどきから十分に距離を取った上で、クロネは素早く走りながら、数回華麗なジャンプを見せた。

 すると、中央にいたゾンビもどき二人がクロネに対し反応を見せ、追いかけ始めたのだ!

 が、ゾンビもどきの動きはそれほど早くないため、すぐに物陰に身を潜めることができたようだ。


「早く動く生き物に反応するようじゃの」


「なるほどね~。じゃぁ大きな音を立てずに、ゆっくり進めばいいんだね」


「でも、私は授業中に動いてたわけでもなかったのに、噛まれたよ?」


「距離が関係するのかもしれんの。ゆっくり動けば遠いゾンビからは追いかけられることはないのではないかの」


「ゾンビに近づかなきゃいけない時と、ばったり出くわしちゃった時だけ注意だね」


「そうじゃの。その時はミアルとリーリアにまかせるとしよう。

 わし、戦えるような技術も魔法もないからの」




 ゆっくりゆっくりと訓練場へ続く廊下を進む。

 廊下にはゾンビもどきと思われる数人が倒れ伏せって、動く気配はない。

 所々教室からはうめき声が聞こえる。

 二階を進んだ時と同じ状況だ。


 本館から訓練場へ連絡通路まで、何事もなく進むことができた。


 クロネとクロカのおかげじゃな。

 二匹とも食事の必要ないが、食べることはできるから落ち着いたら生前の好物を上げてやりたいの。


 廊下を進み、突き当たりを曲がった所に訓練場へ通ずる連絡通路の扉がある。

 先ほどの研究棟から入ったように、廊下からは死角になっている場所じゃ。

 ゾンビもどきから見られる心配もなかろうから、ここでまた一休みである。


 目の前にある扉を開ければ、訓練場までは一〇メートル程で辿り着くことができる。

 が、問題は二つ。


「さて、ここまで来たのは良いんじゃが、すんなり入れるとは思えん」


「どういうこと?」


「訓練場への連絡通路は、正門のある校庭とグランドに面しておる。

 つまり、ゾンビどもがそこらに徘徊しておるのじゃ。

 訓練場で何か騒動があったのか、周囲のゾンビが集まっているようじゃしの」


「そういえば、正門にゾンビが集まってたり、グラウンドのゾンビが訓練場の方に行ってたね」


「そうじゃ。第一関門はそのゾンビの群れを振り切って、どうやって安全に訓練場に入るか、じゃ」


「う~ん、ワタシが囮になるか、リーリアの魔法で大きな音を立てるか、かな?」


「そうじゃの。他にも何か考えるが、二人のどちらかに頼むことになるやもしれん。

 ま、実際どうするかはさておき、もう一つの問題の方が対処が難しい」


「えぇ? それより難しい問題って、ヤバそう!」


「訓練場の連中が、わしらを中にいれてくれない可能性じゃ」

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