第20話 防衛と埋葬
外でドォオンと爆発音が鳴り、訓練場の扉前に緊張が走る。
そして、およそ五分後。
「扉開放三秒前、二、一、突撃ー!」
食料確保作戦決行日、早朝。
食料確保のための作戦が開始された。
訓練場に集まった生徒や街の人は食料チーム、防衛チーム、砲撃チーム、埋葬チームに分けられて行動する。
作戦の内容はこうじゃ。
最初に見張り台から砲撃チームが火魔法でグラウンド側に大きな音を立ててゾンビもどきを誘導する。
グラウンドにゾンビもどきがある程度集まったら訓練場の扉を開け、防衛チームと食料チームが訓練場を出る。
食料チームはそのまま学生寮へと向かい、防衛チームは埋葬チームが安全に行動できるよう陣形を整える。
その後は埋葬チームは、土魔法によって大きな穴を作り、訓練場の扉の前で亡くなっている人達を埋葬し、食料の運搬がスムーズにできるようにする。
ミアルは勿論、食料チーム。
わしは埋葬チームとなり、リーリアは人の目に晒したくないので、待機とさせてもらった。
作戦は予定通り順調に進み、わしらの出番となる。
防衛チームは扉の正面とグラウンド側を主に防ぎ、校庭側は人員が薄い。
扉の開閉お呼び、物資の運び込みに邪魔にならないよう、校庭側に魔法で穴を作り、亡くなった人達をそこに埋葬することになっておる。
埋葬チームの構成は戦えない街から逃げてきた人が中心で、一部生徒も組み込まれての編成じゃ。
が、まぁもう当然士気は低く、想定以上に動きが悪い。
ドントリオ国は三年前まで戦争状態にあったから、従軍経験者は遺体の埋葬をしてくれているが、それ以外の者は碌に動けておらん。
とはいえ、街の人々は戦うことはできんのじゃから、やれることはやってもらわねば困るわけじゃが。
かくいうわしは死霊術師として育てられたからなんとか平常心は保っているが、如何せん非力で作業の進みは良くない。
「うっ……」
「なんで……、俺が……」
「こいつ……蝋燭職人のユリウスじゃねぇか……」
「手を止めるでない! このままではわしらまで奴らの仲間入りじゃぞ!」
わしらの作業が目に入ったのか、ゾンビもどきがこちらに向かってくるのが見えた。
「こんな小さなお嬢ちゃんが頑張ってんのに、あんた達は何をやってるんだい!
お嬢ちゃん、あんたは無理しなくていいんだよ」
恰幅の良いおばさまが声を掛けてくれた。
「わしの友人が食料を取りにいったのじゃ。わしだけ休んでることなどできはせんのじゃ」
「そうかい、大事な友達なんだね。
よしわかった! それじゃぁさっさと終わらせるとしようかい!
あんたたちっ、聞いたね! こんな小さな子だけに頑張らせるんじゃないよ!
それにほら! ゾンビがすぐそこまで来ているよ!」
おばさまの喝で、みんなに気合いが入ったようじゃ。
実際、ゾンビもどきが防衛チームの目前まで来ていた。
昨日遅くまで続いた会議で各課題をフェーズに分けて検討した結果、今回の作成となった。
その中の決定の一つで、ゾンビもどきが生きているということは皆には伝えていない。
自分達の身を守るのに、躊躇させないためじゃ。
訓練場に集められた後、ゾンビもどきはもちろん噛まれてまだ正常であった人ですら彼らはすぐに隔離したから、ゾンビもどきが生きているかを確認していない。
そこに、誰かが言った『ゾンビ』という言葉を信じて、アンデッドと考えておるのじゃ。
誰かの言うことを信じれば、何も考えずにおれば、心が楽じゃから疑うことをせんのじゃろう……。
だからわしは、一刻も早くこの作業を終わらせたい。
人が人をできるだけ殺さんで済むように。
もちろん、ミアルのことも本心ではあるがの。
「防衛チーム! こっちは終わったのじゃ!
お主らが中に入る時にまた、扉の前で倒れられては適わん!
なんとか距離を離してから中に入ってきてほしいのじゃ!」
埋葬が終わったわしらは、一度だけ穴の前で手を合わせ、防衛チームに声を掛ける。
「無茶言うな! こっちだってギリギリなんだ!」
「サポートはするのじゃ! ゾンビ共に停滞魔法を掛けるから、風か土の魔法で距離を作ってほしいのじゃ!」
「私がやるわ! 地面に魔法陣を書いて範囲を広げるから、みんな時間を稼いで!」
防衛チームの一人が後ろに下がり、他のメンバーは前に出てゾンビもどきを食い止める。
火魔法を使える者は砲撃チームに入っているから、一撃で致死に至るような魔法は少ない。
が、水の槍、風の刃、岩の弾。
数々の魔法がゾンビもどきに降り注ぐ。
くそっ! なんでこんなことになっておるのじゃ!
心でそう毒づきながら、わしはディレイの魔法を発動するため、金属版を取り出す。
六回ディレイの魔法を発動させ、一足先に訓練場へと戻る。
「効果は個体にもよるが五分は持つじゃろう! 後は頼むのじゃ!」
「発動準備オーケー! みんなも下がって!」
「「おう!」」
「<アースフォートレス>」
「よし、全員訓練場へ戻れ!!」
魔法が発動すると、ゾンビもどきと防衛チームを間に半円状の岩が隆起した。
ゾンビとの間に壁ができた隙に、全員噛まれることなく訓練場に帰還する。
じゃが。
魔法で手を、足を、腹を貫かれたゾンビもどき共は……。
あ奴らは生きている。
にもかかわらず、あ奴らに知恵はない。
出血を止めることもせず、いずれ……。
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