第19話 課題は山積み

 魔法は生活において、今や欠かせないものじゃ。

 安全な飲み水を作るのは少々難しいが、生活に使う分は魔法で簡単に貯水できる。

 夜であれば明かりをつけるのも簡単で、火魔法を使えば魔力が続く限り蝋燭いらずであるから、火魔法専用のランプが学院だけでなく街のあちこちにある。

 他にも最近では魔法蒸気機関などの動力としての活用も始まった。


 そんな明かりに、ゾンビもどきが反応するかはまだわかっておらん。

 なので、訓練場の方では最低限の明かりを灯すだけにとどまっているようじゃ。


 暗幕で訓練場と仕切られた舞台では外に光が漏れることもない。

 明かりをガンガンつけて明日の作戦会議が行われている。

 作戦への参加を断ったわしとリーリアじゃが、会議には参加させてもらっている。

 ミアルが参加することになったことと、リーリアを暗幕の向こうには行けないので、こっちにいるくらいなら何か知恵を出せないかと思ってじゃ。


 会議で最初に思ったことは、エンジ教授は相変わらず尊大じゃが、生徒達の安全をしっかりと考えている人じゃということ。

 人の印象はファーストインプレッションが大事というが、彼は中々損していそうじゃな。

 そんなこと気にするタイプにも思えんが。


 具体的な作戦について、話はなかなかまとまらない。

 まず食堂の位置が問題である。

 食堂は学生寮の一階に存在する。

 訓練場、本館、研究棟は連絡通路で繋がっているが、学生寮は繋がっておらん。

 同じ敷地内に存在するが、開けた校庭を移動しなければならないということじゃ。


 学院には約二〇〇人の生徒がおり、教授や職員は合わせると二〇以上いる。

 教授や職員は全員が毎日学院で働いているわけではないが、街にもゾンビもどきが現れた結果、街の人も学院の敷地に入ってきている。

 諸々考慮すると、どれくらいの人間が学院にいたのか把握しようがない。

 そんなわけで、どれくらいゾンビもどきがいるかわからない校庭を進むのが第一関門。


 第二関門は学生寮に入った後のこと。

 リストを見てて思ったのじゃが、休みの生徒が予想以上に多かった。

 これは、授業開始前にすでに発症していた生徒が多数いるということではなかろうか?

 無論、わしのように研究室に籠っている生徒や、体調が悪く休んだ生徒もおるじゃろう。

 しかし、それにしては休みの生徒が多すぎるのじゃ。

 というわけで、学生寮に入ることができても、それなりのゾンビもどきと対峙する可能性が高いこと。


 第三関門は食料の持ち運び方法。

 どれくらいの量が確保できるかわからんが、持ち帰る難易度が高いと思われるのじゃ。

 人が目一杯持ったのでは、帰りにゾンビもどきに襲われたら一溜りもない。

 荷車を使い所じゃが、用務室での確保と荷車を使用する際の音でゾンビもどきを引き寄せてしまう懸念もある。


 第四関門は訓練場の入口が半封鎖状態であること。

 わしらは外から見てよくわかっているが、訓練場の入り口はひと悶着あったせいで扉の前に死体が重なってしまっている。

 これをどかさないかぎり、食料を持った状態で安全に中に入ることは難しい。


 今の所、以上が食料確保における課題となっている。

 これだけでも頭が痛いのじゃが、わしは教授らに伝えていないことがある。


「すまぬが、発言良いかの」


「構わん」


「これは、確信が持てなかったのでさっきは伝えなかったのじゃが……。

 魔力が多い者がゾンビ化すると、魔法を使う可能性があるのじゃ」


「っ!」


 教授らに緊張が走った。

 それもそうじゃろう。

 ゾンビは意思を持たず、大した脅威ではない、そんな認識であったろうから。


「静かにしろ。お前がそう考えている根拠を聞こう」


「わしらはリーリアを助け出す時に、ゾンビが魔法を使っていることを見ておる。

 魔法使ったゾンビをリストで確認した所、魔力量は『中』とされておった。

 その生徒についてはリーリアにも確認してもらっておる」


 同じクラスではないが、隔離されている間に自己紹介やら愚痴やらを話しておったようじゃの。



「その生徒以外、何人ものゾンビと対峙したのじゃが、一度も魔法を使われたことはない。

 ほとんどのゾンビはリストを確認すると、魔力量が『少』になっておる。

 この二つから、魔力量が多い者がゾンビ化を発症すると魔法を使うゾンビとなる可能性があると思う。

 勿論サンプルが少なく、飛躍気味な思考という自覚はあるがの」


「生徒会長、魔力量が『中』または『多』とリストされた者のゾンビ化を確認できるケースはどれくらいある?」


「今の所、明確にゾンビ化した生徒は確認できていません。

 噛まれた段階で隔離しており、その後はわかりません」


「ふむ。君は確か魔力量が『多』で噛まれたのだったな。

 何か気づいたことはないか?」


 エンジ教授はわしの後ろで参加していたリーリアに問いかける。


「えと、あ、私と一緒に教室に隔離されていた生徒が魔法を使うゾンビになったんですけど、その人は隔離されてから縄を解くためにずっと魔法を使っていたんです。

 最初はホワールウィンドウを使ったんですけど、手を切ってしまったみたいでその後は弱い魔法を使っていたみたいです。

 でも、急に不調を訴えた後おかしくなってしまって……」


「そうか。君自身が何か不調を感じたことはあるかね?」


「あり、ます……。見張り台に登る際、準備の段階からウォールの魔法を二〇回程連続で使ったんですが、その直後に頭痛と胸が苦しくなりました。

 普段ならそれくらいで調子悪くなることはないんですが……」


「今はどうなのだ?」


「体調ですか? 魔力回復薬を飲んだらすぐに良くなりました」


「そうか……。ひとまず君は無理をしないように。

 ヤークト教授、学院で作っている魔力回復薬の備蓄はどうなっているかね?」


「急な納品依頼がありまして、昨日備蓄も含めて全て納品してしまいました……。

 個人的に所有しているものが数本はありますが……」


「保管場所は?」


「私の研究室です」


「研究棟か……。ゾンビ化を抑えられるなら取りに行くべきだが、食料確保が優先だな」


 新たな課題を加え、夜は更けっていく。

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