第28話 良心の呵責などない
「みなさん、ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした」
スミセンが深々と頭を下げる。
「過ぎてしまったことは仕方ないけど、なんであんなことをしたの?」
「実は……校門に集まっていたユーレ症候群者「ごほん」の中に、僕の恋人がいたのです……」
「え? 街の人と付き合ってたの?」
急にテンションが上がりおるな、ミアルめ。
「はい……。彼女はパン屋の娘なんですが……」
「そっか、それはスミセン先輩もつらいよね……」
「……」
「もうこの話は止めにしましょう。
とりあえず、三階の私の研究室に移動よ」
「「はいっ」」
三階へ移動している間に思考する。
さっきの奴らの行動と結果はおかしい。
倒れる直前まで、校門は引き倒されるような力のかかり方はしていなかった。
そもそも校門の門扉は引き戸式で、下の部分ががっしりとして移動させるための車輪が沢山付いておる。
つまり、街側から押す力には大変に強い。
半面、学院側から押す、または街側から引かれれば倒れることもあるやもしれん。
が、それをするには塀が邪魔をするはずじゃ。
ひっぱっても塀が邪魔して倒れないはずなんじゃな。
校門は引き倒されたということは、塀の一部が崩れてしまっておる可能性が高いのじゃが……。
何を言いたいかというと、奴らは校門に向かって殺到しており、結果的に押している状態になっていて、確実に引っ張ってはいなかった。
それにも関わらず、門が引き倒されるというのはかなり奇妙な話じゃろ?
さらにさらにスミセンの言葉に引っかかる所がある。
年の差があっても好きあっておるのなら問題はないとは個人的に思うが……。
エントランスからさほど時間はかからずに研究室に着く。
奴らが現れ、研究室から出て一日しかたってないんじゃが、なんだか随分と前のことのようじゃ。
扉を開けると見慣れた研究室が……。
「机がっ!?」
ヒリア教授の悲鳴に似た叫びで昨日のことを思い出す。
訓練場に向かう際に、武器になる物を探しておった時に破壊したんじゃった。
「ミアルじゃ」
「ユッコちゃん!?」
わしの良心は売り払われた。
「ミーアールー!?」
般若じゃ。
般若がそこにおった。
「ち、ち、違うんです教授! ほら、武器もなく訓練場に行くなんて危ないから武器が必要でっ! 緊急時ですから! ね? ね?」
結局、ミーティング用の机だったため、ミアルの机を移動させることでヒリア教授の怒りを沈静化した。
「さて、さっきヒリア教授が言っておったが、わしらの大きな目的は症候群の治療および予防じゃ。
ひとまず期間は食料が確保できている明日から二日間とするのじゃ。
限られた時間じゃから、今回の調査研究では被験者の魔力が症候群に影響を及ぼすかの実験のみを行う。
無茶は絶対にせんが、リーリアとモイブを被験者として色々と調べさせてもらうことになる。
まずは計画からじゃが……」
思いつくまましゃべった内容をまとめると。
すでに夕方となっておるが、今日中に実験すべき項目の洗い出しと、計画を立てる。
翌日は実験の準備をし、準備出来次第二日間にかけて実験、結果の検証・考察を行う。
ここで良い結果が得られない、その見込みが立たない場合は訓練場にまた合流することも検討せねばならん。
成果が得られれば続行じゃが、食料が問題になるの。
まぁ、ひとまずはこんな感じで進めることになったのじゃ。
「発症予防の被験者は私とモイブ先輩でいいんだけど、治療は実際にユーレ症候群者がいないとダメだよね?
実際にユーレ症候群者を連れてくるの?」
「それがまた問題なんじゃよなぁ。縄程度では奴ら強引に外してしまうしのぅ。被験者をどうするかは課題じゃ。
みな、何かいい案はないかの?」
「前提条件は魔法を使わない人ね。魔力量が少ない人が使ったケースはまだないわけだし。問題はそれをどうやって判断するかだけど。
縄で縛るのは確かに意味ないかもだけど、外そうとした隙にワタシが無力化すればいいだけじゃないかな?」
「うむ、実にミアルらしい解決法じゃな。じゃが、お主が寝ている時はどうするのじゃ?」
「えっと、ストイーヤ先輩が?」
「いやいや!? 普通、ミアルちゃんみたいに人を気絶させる技術なんてないけど!?」
「自分もそんな技術はないぞ」
あ、やっぱり首筋トンで意識奪うのは普通じゃないんじゃな。
「ん~ワタシが寝ている間は放流するとか?」
「言い方っ!!」
リーリアが突っ込む。
「実際、それしか方法がない気がするのぅ。それで、被験者なんじゃがわしはナナイを連れてきたい。
魔力量が少ないのはわかっておるし、同じ研究室の先輩なんじゃ。全く知らん人を被験者にするのも気が引けるでの」
個人的な感情が大分含んでおったが、みな了承をしてくれた。
ナナイ拉致作戦は明日実行となった。
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