第29話 要は酔っ払いということじゃ
結局、計画の立案と検証項目の洗い出しは深夜まで続いた。
あれだけ色々あった一日じゃというのに、時間が惜しく食事はパンのみじゃった。
ひとまず計画をまとめることはできたが、実験をするたび都度修正は必要じゃろう。
そんなわけで今日の午前は、ナナイ拉致作戦の実行である。
実行部隊はミアル隊長とモイブ、ヒリア教授、わしの四人である。
待機部隊はその間に他の研究室を回って使えそうな資材、特に魔力回復薬を集めてもらうことになっている。
大量にはないじゃろうが、研究室であれば多少の備えはあるじゃろう。
わしが死霊術で呼んだ黒猫のクロネとカラスのクロカにも何か手伝わせようかと思ったのじゃが、さすがにみなの前では不自然になってしまう。
なので、最低限の命令としてわしらの誰かがピンチになった時は助けるように指示をしておいた。
朝ご飯を食べたら出発である。
食事は食料を節約するために昼食は抜き。
昨日のよるはパンのみじゃったから、少しはまともな物が食べたいものである。
研究室には誰かが籠って研究をすることもよくあるので簡易キッチンが存在する。
分けて貰った野菜を入れたスープとパンが今日の朝食じゃった。
スープは塩コショウとヒリア教授や生徒が、料理の度にコツコツと買い集めた香辛料で味付けじゃ。
調理者はミアルである。
以外にも料理上手なのじゃよな。
わし? わしは食べる専門じゃが?
朝食を食べ終わり、実行部隊でどのように進むかを打ち合わせる。
ナナイは昨日訓練場に向かう際、グラウンドにいるのを確認しておるから向かう先はグラウンドじゃ。
が、研究棟からグラウンドの全体、特に訓練場側は確認できないので、ナナイの居場所は本館に行って確認する必要がある。
それと、昨日校門が引き倒されてしまったため、街にいた奴らがどれだけ学院に入り込んでいるかわからん。
そやつらがナナイと合流しておると、拉致の難易度が格段に上がってしまうのが懸念じゃ。
少なくとも校庭側には街の奴らが数人は新たに入り込んでいるのが確認できておる。
「奴らは階段を上り下りすることはなさそうじゃから、本館にいる奴らの数は変わっておらんじゃろう。
昨日と同じであればミアルが無力化すれば良いと思うが、問題はグラウンドのナナイじゃな。
無駄に戦闘を行うと周りの奴らも寄ってくるし、なんとかしてナナイだけを攫いたいのじゃが」
「自分の火魔法で陽動をするのはどうだろうか」
「そうね。それが一番確実性が高いと思うわ。だけど、あまり魔力を使いすぎると発症の恐れがあるから気を付けること」
「となると、砲撃と拉致で二手に分かれるのかの?」
「そう、なるわね。私とモイブ君、ミアルとユッコちゃんかしら」
「ワタシはいいけど、教授は大丈夫ですか?」
「え? 問題ないわよ?」
ヒリア教授の使える魔法は人を対象とした物になる。
具体的には、回復魔法、身体強化がメインであり、最近は停滞魔法も随分と習熟しておるようじゃ。
じゃが、ヒリア教授は得意体質なのか、魔法がかかると酔っぱらったかのように人が変わってしまう。
質が悪いのは、そのことに自覚がないことじゃな。
身体強化の魔法が掛かると、笑いながら人をぶん殴るチカライズパワーな性格になる……。
ミアルのような格闘技術の心得はないものの、一撃の威力がすこぶる高い。
全力の一撃は一撃粉砕という言葉通り、モイブの身長以上の岩をも容易く砕くほどだ。
そんな彼女がモイブの護衛について、奴らを大変えぐい状態にしないかをミアルは心配しとるんじゃが、本人があの調子だから困ったものじゃ。
モイブにそのことを伝えて、なるべく奴らに接近させんようにせんとならん。
大雑把な方針が決まった所で、本館へと向かう。
研究棟に奴らはおらず、二階にある本館との連絡通路まではスムーズに進む。
本館には昨日と変わらず、多数の奴らが存在するであろう。
ヒリア教授がわしとモイブに英雄の腕、金剛体という身体強化魔法をかける。
それぞれ、筋力の上昇と、皮膚を硬化させる魔法じゃ。
わしにだけ韋駄天という素早く動けるようになる魔法をかけ、最後は自分自身に魔法を掛ける。
「自分にはその韋駄天を掛けて頂けないのでしょうか?」
モイブの問いかけに対し、ニコニコと笑っているヒリア教授に代わりわしが答える。
「あ~普段より素早く動けるというのは、実はとても難しいんじゃよ。
初めてじゃと感覚が違いすぎていきなり壁にぶつかることもあるでな、やめておいた方が無難じゃ」
「そういうものなのか。わかった」
本館に突入したら、ミアルとモイブが先頭を行き、わし、ヒリア教授の順で続くことになった。
基本的にはミアルは気絶させて無力化し、モイブは力任せに吹き飛ばすことになる。
わしは停滞魔法でサポートじゃ。
「あはははっ! それじゃ、行くわよ~! 全員ぶっ飛ばしてやるんだから~!」
ヒリア教授が陽気に笑いながら物騒な事を言う。
はぁ、そんなんじゃから今だ一人身なんじゃなかろうか。
とても口に出しては言えんが。
一度、ミアルがわしらを見渡し、頷いてから本館へ続く扉を開ける。
さっそく、奴らが歓迎してくれた。
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