第30話 拉致作戦、実行!

「こいつ、殴っても動きがとまらないぞ」


「だから、首筋をトンッです、トンッ」


 実際に意識を奪って見せるミアルじゃが、それ無理じゃって。

 そもそもモイブには韋駄天を掛けていないので、ミアル程素早く奴らの後ろに回り込むことができん。

 なんとか後ろに回っても、やはりうまくいかない。

 殴られた奴らはその衝撃でよろめくものの、体制を立て直して襲い掛かっていくるく。

 なので、止めの一撃は全てミアルが行う。


 あぁ~、この意識を奪うことも実験項目に加える必要があるかの?

 被験者はモイブじゃな。


 本館二階の通路は、昨日に比べて奴らが増えていた。

 教室の扉がいくつか倒れておるから、隔離されていた生徒が発症して廊下までに出てきたんじゃろう。

 やっかいな事に、魔法を使う奴らの数がその分増しておる。


 魔法の狙いは適当なので、直撃するようなことがなかったのは幸いじゃ。

 わしは魔法を使った奴らに狙い定め、ディレイの魔法を掛ける。


 時折、ロックの魔法で一瞬だけ奴らの動きを止める。

 それだけで、ミアルとモイブが戦うには十分なサポートになった。


 計一五人程の奴らの意識を奪い、教室に放り込んでいく。

 途中、意識のある生徒がいるんじゃないかとと思ったが、正常な生徒は一人もおらんかった。

 教室に放り込んだ後は倒れていたドアを元に戻しておく。

 気休めかもしれんが、これで研究室に戻るまでの時間稼ぎができれば良いのじゃが。


 中央階段の先にも奴らがおるが、そやつらに気づかれぬようそっと中央階段の踊り場まで進んだ。

 そこで一息つき、踊り場に設けられている窓からグラウンドの様子を探る。


 やべぇのじゃ。

 奴らの数が増えて、グラウンドにまばらに散らばっておる。


 三〇人はいないじゃろうが、昨日は一〇人程度じゃったから倍以上になっておるの。

 街の人が増えたと思ったのじゃが、制服姿の者も増えておる……。

 まさかまた訓練場で発症した者がおるのか? それとも一階にいた奴らが外に出た?


 疑問が新たに発生しながらもナナイを探し発見する。

 ナナイは訓練場近く、周囲には一〇人を超す集団の中におった。


「やっかいね。あそこに行くまでにユーレ症候群者に見つかるだろうし、ナナイだけを連れ出すにも乱戦になりそうよ……」


 およ、いつの間にかヒリア教授の酔い? がさめておるようじゃの。


「陽動はここから自分が行うとして、ユーレ症候群者がどう動くかですね」


「一階にいるユーレ症候群者も動くかもしれないですよね」


「そこはわしとミアルで何とかするほかあるまい。一応、策というほどではないが案は浮かんでおる」


「そう。なら予定通りに二手に別れて行動しましょう。ひとまず一階の確認だけは四人でしましょうか」


 四人で一階まで移動し、グラウンドに繋がるエントランスにいた奴らを全て無力化した。

 ヒリア教授とモイブは一階と二階の間にある踊り場へと戻り、火魔法による陽動を開始する。


 モイブはグラウンドの奥、わしらがいる本館と真反対の場所に火魔法を打ち込んでいく。

 すると、ヨロヨロとグラウンドにいた奴らが移動を開始する。


 奴らはモイブの陽動につられて長く列を作る。

 ナナイの位置はというと、最後尾ではないが列の後方に位置しておった。


「あ、ナナイも移動しておる……」


「あはは……デスヨネー。どうするの、ユッコちゃん?」


「うぅむ、行くしかあるまい……。

 じゃが、正面から行っては囲まれてしまうやもしれん。

 奴らの後ろから強襲をかけるとしようかの」


「でも、ここからじゃ回り込む前に見つかっちゃうんじゃない?」


「そうじゃな……。いっそ校庭側から回り込むとするかの。

 校庭側の奴らに見つかってしまうじゃろうが、ミアルの速さで振り切ればよい」


「オッケー! ちゃんと捕まっててよ!」


 ミアルは走りだし、わしはミアルの背中にしがみつく。

 わしの案とはミアルにおんぶしてもらい、近づく奴らとナナイの周囲に片っ端からディレイの魔法を掛けることである。

 じゃが、予定外のことが一つ。


「ぎょえぇぇええええ!? メガネが落ちるぅぅぅうう!!」


 身体強化魔法のかかったミアルのスピードは、思った以上に早かったのじゃ!!

 わし自身とメガネが落ちぬよう、おでこをミアルの首に押し付けてしがみつく。


 わしらは本館のエントランスを反対の校庭側へ抜け、訓練場の前を通ってグラウンドへと出る。

 途中、素早く移動するミアルに奴らが反応するも、圧倒的なスピードで突き放していった。


「このまま突っ込むよ! ナナイ先輩を無力化して抱えなくちゃだから、ユッコちゃんを支えられないからね。しっかり捕まってて!」


「りょ、了解じゃ!」


 言葉の通り、わしをおんぶしていた手を離し奴らの列へと突っ込んでいくミアル。

 これやべぇぇえのじゃぁぁあああ!?

 落ちるぅぅぅうぅううう!


 わしは必至に先程よりも強くミアルにしがみつく。

 これじゃあサポートもできんのじゃ!

 わしお荷物! まさにお荷物!!


 列をなした奴らに直前まで気づかれることなくミアルは近づき、ターゲットであるナナイだけを無力化して地面に伏せさせる。


 さすがに安全に無力化するには一度止まる必要があったためか、囲まれてしまうが。


「ううぁぁああううう」

「がぁああああああ」


 なんじゃ、昨日より狂暴になっておらんか!?


「ユッコちゃん、ディレイをお願い!」


「わしを支えてほしいのじゃー! <ディレイ>」


 しがみついていた右手を離し、ポケットから金属板を取り出す。

 おちそうになるのを体を両足でミアルにしがみつくことでなんとか保ち、周囲に魔法を放つ。


 それとほぼ同時にミアルはわしを片手で支え、身をかがめてクルリとその場で回転して蹴りを放つ。

 すると、周囲にいる奴らが一斉にすっころんだ。


 その隙にミアルはナナイを回収すると、さっきとは違ってグラウンド側を突っ切って本館エントランスに駆け込むのであった。

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