第31話 空き巣にご用心

 ナナイを拉致してヒリア教授とモイブに合流した後、研究室まで全員で無事に戻ることができた。

 ナナイは椅子に座らせ、一応縄で縛りつけておく。

 強引に引き抜かれてしまうかもしれんが、時間稼ぎさえできればミアルがなんとかする手筈じゃ。


 他の研究室を調べて周っているリーリア達はまだ帰ってきておらんようじゃ。

 研究室の数は多いから、調べるのに時間がかかるんじゃろうな。

 合流したら手伝ってやるとしよう。


「ユッコちゃん、ユーレ症候群者「やめるのじゃぁ……」の動き、ちょっと鈍くなかった?」


「わしはわからんかったがの。何せお主の背中に張り付いておるだけじゃったから。じゃが、声を聴いた感じ狂暴になっておった気がするがの」


「そっかぁ。モイブ先輩は踊り場から見てましたよね? どうでした?」


「正直はっきりとはわからない。確かに俺の魔法が着弾した地点まで移動するスピードは遅かったように思えなくもないが……」


「お腹が空いとったんじゃろ……。!? そうじゃ、奴らは生きておる! だとしたら食事所か水も飲まぬあ奴らは、早晩死んでしまうぞ!?」


 人間、食事も水分を口にせんと数日の内に死んでしまうと書物で呼んだ記憶がある。

 すでに奴らは丸二日は何も口にしていないはずじゃ……。

 まずはナナイの健康状態をチェックするしかあるまい。


「ミアル、ナナイの状態を見てみたいのじゃ。

 わ、わかっておると思うのじゃが、ちゃんとわしを守ってほしいのじゃ!

 それと、健康状態などわしは見たことがないでな、ヒリア教授も一緒に確認してほしいのじゃ」


「りょーかい」

「えぇ、わかったわ」


「ミアル、もう少し、もう少しだけ近くに来てくれんかの?」


「はいはい、仕方ないなぁ」


 ナナイの意識はまだないようじゃが、急に目を覚まして暴れだすかもしれんからの。

 椅子にちゃんと縛られていることを確認して、そーっと近づく。


 まずは唇じゃ。

 水分不足になると症状が現れやすいのは確か、唇や肌だったはずなのじゃ。


 ぱっと見、唇は渇いておるが、ひび割れている程でもない。

 次は恐る恐る触ってみる。

 瑞々しいとはとても言えんが、弾力はあり、急を要するほどの脱水症状は見られないように思う。

 肌も同様だった。


「ふ~む、危険な程の脱水症状はなさそうじゃし、すぐに命の危険がありそうとは思えんな……。不思議じゃ……。

 ヒリア教授はどう考えておるのじゃ?」


「そうね。私も大体同じ見解よ。通常の代謝が行われていない可能性は十分に考えられるわね。

 生体反応は見られるけど、最低限の活動しかしていないって感じかしら」


「なるほどなのじゃ。じゃが、そうすると歩いたり人を襲ったりできるのはなんでなのじゃろうか……」


「今は結論を出せるほど材料が出揃ってないわ。計画通り、実験を進めてから考察しましょう」


「そうじゃな。了解じゃ」


「リーリア達はどうするの? リーリアがいないと実験もモイブ先輩でしかできないし」


「自分は問題ない。先に少しでも進めるた方がいいのではないか?」


「そうね。それじゃ、ミアルはリーリアさんを探してきて。

 私とユッコちゃんで進めましょう」


「それでは、わしはナナイ担当をさせてもらってもいいじゃろうか。色々と気になることがあるでの」


「ユッコちゃん、ワタシいなくて大丈夫?」


「うっ……やっぱりモイブを担当させてほしいのじゃ……」


「それじゃ、ミアルが戻ってきたら交代しましょ。私もユーレ症候群者で確認したいこともあるし」


 わしらは実験を開始し、ミアルはリーリアを探しに研究室を出て行った。




「もう自分は腹がタプタプだぞ……」


 モイブには体調が悪くなるまで魔法を使ってもらい、魔力回復薬を飲むことで体調が元に戻るかを三度程試してもらった。

 魔力回復薬の容量は一五〇ミリリットル程じゃが、三本も短時間で飲めば辛かろう。

 結果は、発症することもなく回復したようなので予想通りといった所じゃった。


「そうじゃの、魔力回復薬も限りがあるし一旦休憩にするかの」


 研究室に常備してある五本とヒリア教授が持っていた一本の計六本の内、三本使ってしまったことになる。

 リーリア達が他の研究室から持ってこれるとは思うのじゃが、最悪手に入らん可能性もあるしここまでじゃろう。


「ただいまー!」


 少し休憩しておると、ミアル、リーリア、ストイーヤが戻ってきた。

 一〇本の魔力回復薬と共に。

 スミセンはまだ他の研究室を調べるというて別行動になったようじゃ。


「お疲れさまなのじゃ。魔力回復薬はもうちょっとあると思ったんじゃが残念なのじゃ」


「せっかく俺らが駆けずり回って持ってきたのに、そりゃねーだろー。

 そもそも他の研究室には鍵が掛かってるから入れない所ばっかだし。他の研究室なんて滅多に入ることねーから魔力回復薬がどこにあるかもわかんねーし」


「そうじゃったか、すまんかったの。何はともあれ、最低限はそろったからリーリアには実験に付き合ってもらうとするかの。

 ストイーヤはすまんが、もうちょっと探してきてくれぬか。予備は多い方が安心じゃからの」


「へいへい。人使いの荒いお嬢ちゃんだぜ」


「ミアルは残ってほしいのじゃ。わしがこれからナナイを調べたいでな」


「はーい」


 それぞれの役割を果たすため、わしらはさらに動くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る