第42話 新生ヒリア研究室
「なんだか中は落ち着いているみたいね。って、随分と人が少なくなっているようだけど……」
見張り台から合図を送り、無事にヒリア教授達を訓練場へと向かい入れる。
SOSの魔法を確認していたから、すぐにでも戦闘できるように構えていたようじゃが、肩透かしを食らった様子じゃ。
まぁ実際にミアルは中で鎮圧のために戦って、少し前までは大変だったようなのじゃが。
一先ず騒ぎが収まっていることに安心はしたようじゃが、研究室に移動してから数日しかたっておらんにも拘わらず、人の少なさに大分戸惑っているようじゃ。
わしは生徒会から聞いた話をヒリア教授達に伝える。
「そう……。ユーレ症候群を発症させる薬があったんだから、訓練場内で人為的に発症させられてもおかしくないものね」
「や、ヒリア教授よ。さすがにみなにその呼び名を広めるのは止めてもらえんじゃろうか……」
「嬢ちゃん、まだ諦めてねーのかよ。往生際が悪いぞ」
「諦めきれるわけなかろう!? ストイーヤ症候群とかお主も嫌じゃろう!?」
「確かにな~。でも、今回の件は俺が発見したわけじゃねーし?」
「ぐぬぬぬ」
「正式な呼称じゃないのだから、しばらく我慢してね。状況が落ち着いたら正式な名前をユッコちゃんが考えればいいわ」
「約束じゃからなっ!?」
「はいはい。それで? これからどうするかを教えてくれるかしら?」
「エンジ教授が生き残っておる教授らを集めて話し合いをするようじゃの。
その場でヤークト教授を問い詰めることになると思うのじゃ。
わしらは、スミセンについての証言をする約束になっておる」
「なら私は先にエンジ教授と認識を合わせに行くわね。他のみんなは周囲の動きに気を付けて。
ここにいた人達は食事に薬が混ぜられていたかもしれないから、いつ、誰が発症してもおかしくないわ。
できるだけ、研究室にいたメンバーだけで行動するのが一番安全よ。ミアル、何かあったら頼むわね」
「はい。わかりました」
「あと一つ、スミセンが飲んだ薬のことについてはエンジ教授にも生徒会長殿にも伝えておらぬ。
ヤークト教授が黒幕だと言う確証が得られてないからの。もしかしたら二人のどちらかもしれぬし。
ただ、食事に何かを混ぜられたかもしれんことだけ匂わせておいたのじゃ」
「そう……。ユッコちゃんがそう判断したなら私も合わせるわ。
だけど、私達だけじゃできることに限界はある。
どちらかに協力をしてもらう必要は必ず出てくるはずよ。私はエンジ教授に探りを入れてみるから、あなた達はフリット君に探りを入れてみて。
それじゃ私は行ってくるわ」
ヒリア教授がエンジ教授の元に行っている間に、生徒会長殿に食事について確認をすることにした。
エンジ教授は生徒会が食事を管理していると思っていたようじゃから、事実を確かめたいのじゃ。
「生徒会長殿、度々すまんの。今大丈夫かの?」
「あぁ、今は落ち着いているからね。どうしたんだい?」
「食事は誰が管理、配給しておるのかの?
すまんが、わしらは食料が少なくてお腹が空いていての……。何か残り物であればほしいのじゃが……」
「ははは。君は育ち盛りだったね。君を見ているとついつい随分と年下だということを忘れてしまうよ。
食料は我々生徒会が管理していて、簡単に調理をした後は街の人達に配給して貰っていたんだ。
だけど、彼らはもうここにはいないからね……。今後のことに頭を悩ませていた所だよ。
で、肝心のあまりものは残念だけどないんだ。君が成果を出してくれていたとしても、食料に限りがあるのは変わらないからね。ごめんね」
「そうじゃな……。残念だが仕方あるまい。配給に関してはわしらも手伝えることはあるじゃろう。何かあれば言ってほしいのじゃ」
「ありがとう。ただ、君達には研究を続けてほしいからね。本当に困った時にだけお願いするよ」
「わかったのじゃ。それじゃ、忙しい所邪魔したの」
「何か合ったら何時でも聞いてくれて構わないよ」
生徒会長殿の元を後にして、わしは思案する。
食料は生徒会が管理していた。
ただし、配給は街の人達が行っていたとすると、薬を入れるタイミングはいつでもあるように思える。
街の人に協力者がいた可能性も否定できないし、街の人を言いくるめることも簡単じゃろう。
ヤークト教授が怪しいのはもちろんじゃが、生徒会も食事の事に関しては白とも断言できぬ。
疑い出せばキリがないが、かといって何もせずにいつの間にか奴らの仲間入りでは話にならぬ……。
「ユッコちゃん。また悪い癖が出てるよ?」
ふいに、ミアルがわしの顔を覗き込んできて、そんなことを言う。
「ミアル……。そうか、そうじゃな。わし一人でどうにかできることなどたかが知れておるのじゃな。
すまんが、力を貸してもらえるか」
「もちろんだよ! みんなにも相談しよう? 新生ヒリア研究室の結束を見せるよ!」
「なんなんじゃそれ。ま、そうじゃの。わしらは研究チームじゃ。みなの知恵を借りるとするかの!」
ミアルに手を引かれ、みなのいる所へと向かった。
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