第43話 いやもうみな怪しいの
「ヤークト教授を疑ってるのって、スミセン先輩がヤークト教授の研究室だったからだろ?
なら、他の交友関係も調べてみたらどうだ? 研究室の移籍とかさ」
なるほど。
研究室の移籍もよくあるとは言わぬが、特別珍しいことではないの。
「ふむ、お主にしてはまともな意見じゃの」
「はぁ? 俺だって研究者志望なんだが? 嬢ちゃんほどじゃねーが一応論文も出してるし」
実際、見た目に反して勤勉なのじゃろう。
わしの論文も読んでくれていたみたいじゃし、水魔法の練度からしても勤勉さが垣間見える。
「モイブ先輩はスミセン先輩と交流はなかったの?」
「あぁ。全くという程なかった。自分は魔法使い志望で、奴は研究者志望だったからな」
ミアルの問いに答えるモイブ。
ナナイとストイーヤは二年だし、交流はないじゃろう。
「生徒会長って三年生だよね? 他にも生徒会に三年生の人いるかもしれないし、聞いてみたら?」
「ふむ。聞いてみる価値はありそうじゃな」
生徒会は優秀な者を起用する傾向があり、魔法使い、研究者のどちらか、あるいは両方とも適正の高い者が多い。
であればスミセンと関わりがあった可能性もあるか。
「そういえば生徒会長も論文を出してたな……。どんな内容だったっけかな……。
あぁ、魔力による身体操作と不完全性についてって内容だったかな?」
「!? ストイーヤ。その話、詳しく聞かせてほしいのじゃ」
「あ、ワタシ達はその話をユッコちゃんが聞いている間に生徒会の人達に色々聞いてみてくるよ」
「すまんが食事の管理や調理を誰が行っていたのか、合わせて聞いて来てほしいのじゃ」
「は~い。了解~」
「で、生徒会長の論文の話だけどよ、正直読んだのは一年近く前だし、論文自体の出来が良くなくてあんま覚えてねーんだよな」
「生徒会長殿は優秀なのじゃろ? 出来が良くないとは予想外じゃな」
「まぁな。その時はまだ生徒会長じゃなかったはずだけど、生徒会に所属してたから期待してたんだ。
でも、読んでみれば検証が不足していたり、結論がやや飛躍してたりして期待外れだったぜ」
ふ~む、何か違和感があるの。
生徒会長殿は何度か計画がどうのと言っておった。
つまりは、綿密に思考するタイプなのじゃと思うが、そんな彼が検証不足や結論への飛躍を残したまま論文を発表するのじゃろうか?
発表できない何かがあった? それもと何かを隠そうとした?
「まぁ出来はともかく、身体強化魔法みたいに掛けられた人間が魔力による補助を受けて動くんじゃなくて、魔力というか魔法によって任意の動作を実行させるって奴だったはずだ。
結論は一定の動作はさせられるけど、掛けられた人間が抵抗を示せばうまくいかないとかだったはずだぜ」
「なるほどの。参考になったのじゃ」
なんだか妙にひっかかる内容だった。
……基本的な考え方が、死霊術に共通する所がある論文じゃと、そう感じたからじゃ。
「生徒会の人達から話し聞いてきたよ~」
「助かるのじゃ~。して、どうだったのじゃ?」
「自分は食事について聞いて回ったが、副会長が食材の管理から調理までを担っていたようだった。
調理後に街の人達に配給をまかせていたようだぞ」
「私はスミセン先輩と親交があった人を探してたんだけど、顔見知りくらいであまり深い接点はなかったみたい。役に立てなくてごめんね……」
「いや、それが確認できただけでも十分な成果じゃ。助かるのじゃ」
「ワタシは生徒会長について聞いてきました! そしてなんと! 生徒会長は会長になる以前、ヤークト教授の研究室を手伝っていたことがわかりました!」
「おぉ! お手柄なのじゃ!」
生徒会長殿については特に頼んでおらんかったと思うのじゃが、思わぬ所から思わぬ情報が手に入った。
最初に訓練場に来た時、ヤークト教授が生徒会長殿にリスト作成などを頼んでおったはずじゃが、過去に手伝いを行っていたからさも当然のように指示に従っていたのかもしれんな。
そして、ヤークト教授の研究室に出入りをしていたのなら、スミセンと関わりがあってもおかしくない。
その情報で、わしはヤークト教授の元へ行くことに決めた。
確認したいことができたからじゃ。
ヤークト教授の所へ行って、いくつか質問をしてからみなの所へ戻る。
今後わしらが確認しなければならないことは決まった。
後は、水面下で調査を続けつつ、エンジ教授が教授らを集めた話し合いの場を待つだけじゃ。
するとすぐにヒリア教授がエンジ教授の元から戻ってきた。
その表情はやや険しかった。
「ヒリア教授、どうしたのじゃ?」
「どうもこうもないわよ。エンジ教授、次の会議でヤークト教授を問答無用で拘束するつもりよ。
私達の話は周りの教授を納得させるためだけに使われるみたい。
根拠は私達の証言しかないっていうのに……」
「わしの伝え方が悪かった部分もあるとは思うのじゃが……。
しかし、なぜそんな強引な進め方をするのじゃろう?」
「単純に焦っているんでしょ。
まぁ、あれだけ人がいた訓練場が、今やこのありさまだからね。
人一倍責任感の強いエンジ教授からしたら、一刻も早くみんなの安全を確保したいのだと思うわ。
でもそれが、疑わしきは罰せよじゃ、いずれ崩壊しちゃうわよっ」
「なるほどの……。随分と急ぎ過ぎているように感じるの。まるで強引に結論を付けなければならないかのように……。
でじゃ、そのことで相談があるんじゃが良いかの?」
わしとヒリア教授の相談は、会議が始まるまで続いたのじゃった。
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