第44話 拘束のち、平穏

「ヤークト教授、あなたをゾンビ騒ぎを起こした犯人として告発し、拘束する」


「は? なっ!? 何を言っているんですかエンジ教授!!」


 ざわざわとその場にいた教授達が騒ぎ出す。


「言葉の通りだ。ここにいるヒリア教授らが、スミセンというヤークト教授の研究室に所属している生徒がこの騒動の一旦を拡大させたことを目撃している」


「なっ!? どういうことですかっ! 確かにスミセン君は私の研究室に所属している。だからといって私が犯人というのは話しが飛躍しすぎている!」


「あなたがヒリア教授達と行動を共にするようスミセンという生徒を合流させたと聞いていたが?」


「スミセン君の姿はしばらく見かけていなかったが……。そうか……そういう事だったのか……。

 私はそのことに関して一切の関与していない!」


「何をくだらん言い訳を。

 この件は生徒会長からそこの生徒に告げられたと聞いている。

 生徒会長、間違いないな?」


「はい。僕はスミセン本人から聞きましたが、その場にヤークト教授もいらっしゃり、了承されていました。

 なので、僕からユーレ君にそのことを告げています」


「フリット君……君は……」


「ヒリア教授。生徒会長からヤークト教授から推薦があったスミセンを、研究を進めるための一員として受け入れたことに間違いはないか?」


「えぇ。ここにいるユーレさんがフリット君からそう話を受けたと私も伝え聞きました。そしてスミセン君自身もそのように言っていたのを私が確認しています」


「ヒリア教授の言う通りで間違いないのじゃ」


「そしてそのスミセンという生徒が、校門を破壊し、街のゾンビを招き入れた。

 そして、研究棟にもゾンビを招き入れ、自分自身もゾンビと化した。

 これも間違いないかね?」


「はい。間違いありません」


「以上のことから、ヤークト教授がスミセンに指示を与え、この混乱をもたらしたと判断した。

 よって、あなたを拘束する。反対の方がいれば挙手を願おう」


 スミセンが今回の件に絡んでいるのは、疑いようがない。

 じゃが、それがヤークト教授の指示だと断ずるには、やはり根拠がないと言わざるを得ない。

 確かに誰かの指示だとすればヤークト教授が一番怪しいのじゃが、証拠などどこにもないのだ。


 にも関わらず、誰からも挙手がされることはなかった。

 忌々しいことじゃが、みな犯人を欲しておるのじゃろう。

 例えそれが、仮初の答えであったとしても。


 ただ、ここに無い情報としてスミセンが奴ら化する薬を持っていたことを告げれば、根拠の補強になるじゃろうが、わしはそれを告げるつもりはない。


「異議がないようであれば、ヤークト教授を拘束する。その後は人道的に尋問を行わさせてもらおう」


「私と接点を持つのは、エンジ教授。あなただけにしてもらいたい。その間に、何か新たな問題が起きれば、それは私とは無関係と証明できるのだから」


「いいでしょう。

 尋問内容については我々がこの後、内容を協議するとしよう」


 教授らのざわめきが収まらぬ中、ヤークト教授はエンジ教授に拘束された。

 ヤークト教授は最初に否定して以降、目立った抵抗は特にしなかった。



 会議が終わり、わしとヒリア教授はみなの所へと戻る。

 会議の結果を伝えると、ミアルが一人でわしの所へやってくる。


「ねぇねぇユッコちゃん。この後、また何か起こるのかな?」


「いや、起こらんじゃろうな。少なくとも、今日明日はの」


「ってことはやっぱりヤークト教授が黒幕だって考えているってこと?」


「可能性はあるの。じゃが、わしは別の者が今回の騒ぎを起こしたと思い直しておる」


「え? ならまた訓練場内でユーレ症候群者が発生してもおかしくないんじゃない?」


「もしそうなったとしたら、ヤークト教授が黒幕でない可能性を騒ぐ者が出るかもしれんじゃろう?

 じゃから、逆にしばらくは何もできんのじゃよ。

 せっかく擦り付けた罪を、早々に取り払ってしまうのは黒幕にとってはデメリットしかないからの」


「ははぁ~、なるほどね。それじゃ、その黒幕っていうのは一体何を企んでいるの?」


「さぁの。わしはそやつではないから何をしたいのかさっぱりわからん。

 じゃが、自分達だけは助かって、他の者は全員奴ら化させるという可能性が一番高いのではないかの」


「それってめっちゃヤバイじゃん! 今日明日は大丈夫だとしても食料の問題もあるし……」


「そうじゃな。じゃが、食料の問題があるのは黒幕もじゃな。

 じゃから、近い内に奴らが取る行動は……」



 結局、その日は訓練場で新たに奴ら化する者はおらんかった。

 皮肉にも、食料事情は訓練場にいた生徒や街の人が奴ら化したことで、大きく改善されていた。

 悪く見積もっても、あと五日は持つじゃろうし、節約すればもう少しだけ伸びるであろう。

 生鮮食品は日持ちせんじゃろうから、メニューや栄養バランスはアレかもしれんが。


 生徒らにも今回の騒ぎはとある教授が起こし、その者を拘束したことで悪化することはないと伝えられた。

 無論、状況が改善したわけではないが、これ以上被害が拡大しないということに生徒らは安堵していた。


 じゃが、根本的な問題は何一つ解決しておらん。

 新たに食料を調達する必要はあるし、外にいる奴ら全てを正気に戻すことなどできん。

 噛まれた者の症状を快復させるには、最低でも一人一本の魔力回復薬が必要となるからじゃ。


 翌日も訓練場内で奴ら化が発生することはなく、一日が何事もなく過ぎていった。

 そしてその夜、わしはみなに手伝ってもらって、ひっそりと訓練場の外へと出向いていた。


 外に出て、闇夜に震えながらも倒れた校門のそばでその時を待つ。

 クロネとクロカを呼んでおいたから、そうそう危険な目には合わぬじゃろうが、やはり闇夜は怖いの。


 そんなことを考えていると、ようやく足音を聞こえてきた。

 お目当ての人物がやってきたのじゃろう。

 わしはその者に声を掛ける。


「こんな夜更けに、一人でどこへ行こうと言うのじゃ?」

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