第45話 シュタイン家

「……やぁユーレ君。こんな時間に一人で外に出るなんて感心しないな」


「それは生徒会長殿も一緒じゃろう? まぁお主は生徒会のメンバーを連れてくると思っていたのだがの」


「ちょっとした見回りさ。人を連れてくるまでもないと思ってね。これでも腕には自信があるんだ」


「魔法で奴らをある程度操れるのなら、安全ということかの?」


「……何のことを言っているのか、さっぱりわからないね」


「協力者も証拠も始末したと、そう思っているのであろう?

 残念じゃったな。街の者でたった二人の兄妹が残っておるのは知っておろう?

 その兄妹がとあるビンを持っておったのじゃよ。母親が持っていたのをねだってもらったらしいのじゃがの。 そのビンは生徒会のメンバーから渡されたようじゃな」


「へぇ。それは珍しいビンなのかい?」


「そうじゃな。わしが同じものを見たことがあるのは一度だけ、スミセンが薬を飲んだ時だけじゃ。

 お主や教授らには言っておらんかったが、スミセンが奴らと化したのは感染させられたからではない。

 自ら薬を飲んだ結果じゃ。時間をかけてビンに残った薬を研究すれば、それが奴らを発症させる薬じゃといずれ証明できるじゃろう」


「あれは、君達に飲ませるように言っておいたんだけどね。

 それで? 君の言う通りだったとして、君一人で何ができるって言うんだい?

 それとも一人ではなくてミアル君でもいるのかな?」


「ミアルは訓練場におるよ。お主が何故、発症しかかった生徒を隔離しようとしておったのか気になっておったんじゃ。

 奴らを操る術があるのであろう? お主は訓練場内に手駒を確保しておったというわけじゃな。

 であれば、無力化できるミアルを連れてくることなどできまいよ」


「ははははっ! 君は本当に優秀な生徒だね! どうだい? 一緒に僕とこの街を出て一緒に研究をしないかい? 君が望む研究を完全にバックアップできるくらいの資金力はある。他にも望む物を与えることができるよ」


「お断りじゃな。こんな騒ぎを起こすお主らとなど、満足な研究ができるとは思えんのじゃ」


「この状況で、君に選択肢なんてないと思うんだけど?」


「そうじゃな。じゃから、冥途の土産に聞かせてくれんか。何故こんなことをしたのかを」


「……君は、三年前の戦争を経験したことがあるかい?

 僕は、経験した。

 自分で言うのもなんだけど、僕は幼少期から優秀でね。十三歳になった頃には剣も魔法も人並み以上にできた。

 そんな僕を、軍人であり佐官だった父は自分の部隊に従軍させたんだ。


 僕は軍のみんなに可愛がられていて、僕も彼らを慕っていた。

 だけど、戦場では簡単に人の命が失われる。昨日一緒にご飯を食べて頭を撫でてくれた人が、翌日には戦死してしまうのが日常にだった。

 正直、気が狂いそうだったよ。それでも、正気でいなければ自分が死んでしまう。毎日が、必死だった。


 戦争が長期に渡り、僕達の部隊は徐々に損耗していき、ついには敵軍に包囲され、壊滅の危機に見舞われた。

 僕もここで死ぬのかと諦めたよ。

 そんな時に救援にきてくれた隊が、フランシス・シュタイン大尉という人が率いる軍だった」


 最後の言葉聞いて、胸が早鐘はやがねを打つ。


「その部隊は小さな部隊だった。けれど、その戦果は他の部隊の追随を許さなかった。

 なぜだと思う?


 死者を操って戦わせていたからさ。

 死霊術士ネクロマンサー、君も魔法を学ぶ者なら聞いたことくらいはあるだろう?

 戦場では死者には困らない。おかしな言い回しだけどね。


 死を恐れない軍隊というのはとても恐ろしい。

 それ以上に、死なない軍隊なんて悪夢そのものだ。

 いくら攻撃しても倒れず、どんどんと前線を押し上げてくるのだから。

 それを見て僕は思ったんだ。これなら、戦争で負けることはないって。


 確かに隣国とは休戦協定を結んで戦争は終わった。だけど、いつ休戦状態が解かれるとも限らない。

 それに、東の帝国が侵略してくる可能性も十分にある。


 我が国は戦争で疲弊した国力を回復させると共に、他国の脅威に対抗する術を持っておかなければいけないだ。

 だから、僕は死を恐れぬ軍隊を作るための研究と実験をここで行った。

 死霊術を超える、魔法を使える兵隊を作るために」


「そんなことのために、お主は街を丸ごと巻き込んだというのか……」


「そんなこととは心外だね。これでも僕は愛国心を人より持っていて、国のためを思っての研究だっていうのに。

 それに、僕はあくまでこの学院で研究を進めたにすぎない。街全体のことは知らないさ」


「無関係ということもあるまい? 学院にあった魔力回復役の回収もお主が手配したのじゃろう?」


「確かに無関係ではないけどね。魔力回復役もユーレ君の考える通りだよ。

 そろそろお土産は十分だろう?」


「最後に一つ、忠告をして良いかの?」


「あぁ、優秀な君の言葉だ。心して聞こう」


「死霊術はお主が考えるような物ではないよ。確かに物量は戦争において大きな武器となる。じゃが、優秀な魔法使いが沢山おるならば、さほど脅威にはならぬ。

 お主が見た戦場は、戦争が続いて、疲弊した状態であったからこそであろう。

 そしてお主の研究じゃが、思考力を持たぬ人形もまた、魔法が使えようとも優秀な魔法使いの前では役に立たんじゃろう」


「はっ。君に一体何がわかるっていうんだ!」


「わかるとも。わしの祖父はフランシス・シュタイン! わしの本当の名は、ユーレ・シュタインじゃ!」


 わしは前髪を止めていたバレッタを外し、魔力を流す。


「<召喚魂サモンソウル! おじいさま!>

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