第41話 思ってたのと違う

 生徒会長殿と話しを終えたわしは、リーリアを伴ってエンジ教授の元へ行く。


「エンジ教授、今話す時間はあるかの?」


「貴様か。無事で何よりだ。それで、成果があったから戻ってきたのだろうな?」


「無論あるのじゃが、教授が先に合図を寄越したのじゃろう?」


「あれは警告だ。勘違いしたのは貴様らだろう。だが、ミアルと言ったな。あの生徒のおかげでパニックが収束したのは事実だ。礼を言おう」


「わしではなく、本人に言ってほしいものじゃな。

 それでの、他の人には聞かれたくない話なのじゃ。あちらで良いじゃろうか?」


「ふむ……よろしい」


 喧嘩別れというわけではないが、以前のやり取りからお互い言葉に遠慮がない。

 まぁ、こんな状況だしの。

 立場うんぬんなど二の次であろう。


 そんなことを考えながら、リーリアはエンジ教授グループと一緒に残ってもらい、彼らから少し離れた所で生徒会長殿に伝えたことをそのままエンジ教授に伝える。


「ヤークトっ! 奴がこの事態を発生させたと言うのかっ!」


 エンジ教授の表情は見る見るうちに変化していき、怒りの形相に染まる。

 薬のことは生徒会長殿と同様に打ち明けなかったが、わしらと同様に研究室の生徒であるスミセンが絡んでいるからヤークト教授が糸を引いていると考えたのじゃろう。


「ややや、待つのじゃ! まだそうと決まったわけではない! これ以上真実を確かめぬまま内部で争うのは得策ではないじゃろう!?」


「……。生意気な貴様に諫められるとはな。私もこの状況で冷静ではいないらしい。すまなかった」


 いや、そのセリフは本当に謝る気があるんじゃろうか? 甚だ疑問ではあるが、まぁよい。


「ところで、食事の管理は誰が行っておるのかの? 今日になって何人もの人が発症したのは、食事に何か仕込まれていた可能性があるのではないかと思ったのじゃが」


「食事か……。そういった管理は生徒会が行っていると思っていたが……。私も実際に誰が用意しているかなどはわからん。が、食事に何かが仕込まれていたのなら動かぬ証拠となりそうだ。私の方でも調べておこう」


「そうじゃったか……。後で生徒会長殿に聞いてみるとするが、教授の方でも調査を頼むのじゃ。

 それで、ヤークト教授を問い詰めたい気持ちはわかるのじゃが、ヒリア教授達がまだ本館にいるのじゃ。

 問い詰めるのはみなを訓練場に入れてからにして貰えないじゃろうか」


「ふん。好きにしろ。ヒリア教授達が訓練場に入ったら、残っている教授陣を集めるとしよう。

 貴様らにも証言をしてもらうことになるぞ」


「わかったのじゃ。ただ、ヒリア教授とは先に話しを通しておいてもらいたいのじゃ。それが条件じゃな」


 エンジ教授が頷いたのを確認して、今度はヤークト教授の元へ行く。


「ヤークト教授、今時間を貰えますかの?」


「ユーレ君、よく無事でいてくれたね。こちらは生徒を守れなかった上に、こんな事態になって私個人としては情けないばかりだ。それで、君達の成果はどうなったんだい?」


「こっちは中々に荒れておったようですの。

 確証は得てないのじゃが、奴らに魔力が関係している可能性が高いのは検証でわかってきたのですじゃ。

 あとは噛まれたリーリア達も魔力回復薬を服用することで、快復に向かっている傾向があるのじゃ。

 このまま発症しなければ完治する可能性も高いと思うのですじゃ」


「完治する可能性が出てきたのは素晴らしい成果だね。

 ただ、魔力回復薬の在庫がないことが気がかりだけど……。

 発症した人達を回復する術は見つかっていないのかい?」


 ヤークト教授が黒幕だとして、発症後の治療が知られたらどうなるのであろうか……。

 みなを訓練場に引き入れれば、ナナイのことはすぐに発覚してしまうし打ち明けるしかないか……。

 いや、誰も覚えておらぬ可能性も十分にあるが……。


「偶然かもしれぬのじゃが……。実は一人、正気に戻った者がおる」


「本当かい!? それは素晴らしい!」


「あ、いや、一人だけなのじゃ……。魔力回復薬を飲ませたら直ったのじゃが、別の生徒に試しても効果がなくての……。まだまだ検証が必要なのじゃ」


 実際、治療方法は分かっているのじゃが、念のためぼかして説明するに留めることにした。


「そ、そうか……。いやでも希望が見えてきたよ! 引き続き、ユーレ君の研究に期待させてもらうよ」


「わ、わかっておるのじゃ。それでの、ヒリア教授達が外で待っておるでな、扉を開ける許可がほしいのじゃ。

 エンジ教授と生徒会長殿からは許可を貰っておるでな」


 なんじゃろ。

 ヤークト教授は本気でわしの成果に喜んでくれている気がするのじゃ。

 こんな状況を引き起こした人物の反応じゃろうか……?

 それとも、発症させる薬は出来たが、それを快復させる術は見つけられていなかった……?


「そんなことで良ければいくらでも許可するよ。ゾンビ共を近づけないように扉を開けるのには人手が必要だろう? 私のグループから手伝える者を手配するよ」


「助かるのじゃ。ヒリア教授達に合図を送る直前にまた来るゆえ、その時にお願いするのじゃ。

 それでは失礼するのじゃ」


 ヒリア教授達が入ってきたらスミセンがいないことに気付くだろうが、その時にはエンジ教授が教授陣を集めての話し合いの場が設けられておるじゃろう。

 そこで、スミセンのことを伝えて、真実を問いただせばよい。


 無事、扉を開ける許可を三人から得たわしはリーリアを連れてミアルの所へ戻る。


「無事扉を開ける許可が出たでの、見張り台に上って合図を送るとするのじゃ。

 扉を開けるのは、ヤークト教授グループから人を出してくれるそうじゃ」


「ちょちょ、それって大丈夫?」


 手で口を多い、周囲に聞こえないように小声でミアルが問う。


「さすがにみなの前でおかしなことはできないじゃろう。

 エンジ教授がヒリア教授らが訓練場に入ったら、教授陣を集めるという言うておったからの。

 何かあるとしたらその後じゃな」


「それならいいんだけど……」


「ともかく、ヒリア教授達を迎えに行こうよ。私達が信じられるのは、研究室にいたみんなだと思うし。

 もう私は見張り台で魔法を発動してきていいの?」


「ヤークト教授の所へ一度よって、準備をしてもらう必要があるのじゃ。

 念のため、三人でまとまって行動するのじゃ」


「「おっけー」」


 わしらはヒリア教授らに合図をするため、三人で見張り台へと上っていった。

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