第40話 誰も信用できぬ

「……ふ~む、食事、じゃろうな」


「そうだね、あの薬を食事に混ぜられて、魔力がない街の人達が感染したんだ」


「? なんのこと?」


「すまんが、今お主に話すことはできん」


「……わかりました。ただ、生徒会は今、極力犠牲を出さないように動いています。ミアルさんも協力してくれてますけど、二人も私達に協力してくれませんか?」


 生徒会長殿は生徒同士の殺し合いを憂い、他の生徒を襲わないよう自主的に拘束されるグループを作った。

 要は、体調悪くなってきてゾンビになっちゃうかもしれんから、先に縄で縛って隔離してくれ、というグループじゃな。

 訓練場には用具倉庫があるからそこを使って、監視も合わせてしておるのじゃろう。


 ヤークト教授のグループとさほど変わらん気もするが、自分が少しでも助かる可能性に縋りつきたいか、他の生徒に迷惑を掛けたくないか、そういった違いがあるのじゃと思う。


 名目上、生徒会長殿のグループでは隔離されるので、すぐに殺されることはないじゃろう。


 一方でヤークト教授の方は、発症してしまえば内部からか、もしくはエンジ教授グループに殺されてしまう可能性は否定できないはずじゃ。


 それでもなお、一縷の望みにかけて生を望んでしまうのが人と言う生き物なのかもしれん。


 ミアルはそんな中で、すぐに殺されてしまわぬよう発症してしまった奴らの無力化をしていてその場を離れられんというわけかの。


 セーカの話は、特別矛盾している点や怪しそうな所はないように思う。

 わしはリーリアを見て頷くと、リーリアも頷き返す。


「わかったのじゃ。わしらもミアルと合流して手伝うとしよう。案内してくれんか」


「ありがとう! 案内って言っても階段下りるだけだけど。それじゃ、早速行きましょう」


 治療法について、セーカは一切触れておらんので、ミアルはまだ公表はしていないんじゃろう。


 今回の件でヤークト教授が裏から糸を引いておるかの裏付けが必要じゃし、生徒会長殿やエンジ教授と情報共有をしたい所じゃな。


 階段まで聞こえていた怒号や爆発音はいつの間にか鳴りを潜めていた。

 階段の中間まで既に下りておったので、訓練場まではそう時間はかからんかった。

 下りる最中、血の匂いがしてきたのは中々に堪えるものがあったが。


 階段を降りきり、訓練場を見渡せば三つの人の群れが見える。

 エンジ教授、ヤークト教授、生徒会長殿が主導するグループじゃ。


 人数はエンジ教授のグループが一番少なく、次いで生徒会長殿のグループ、ヤークト教授のグループじゃろうか。

 生徒会長殿とヤークト教授のグループは然程差はない。

 用具倉庫に隔離されておる人もおるのじゃろうが、随分と人が減ったものじゃな……。


 今は膠着状態なのか、それぞれのグループを互いに見張るような形になっておる。

 聞こえる声は、すすり泣く声ばかりじゃ。

 どうにも空気が悪くていかんの……。


 わしらはすぐに生徒会長殿のグループへと向かい、ミアルの無事を確認する。


「ミアル、無事のようじゃな」

「ミアル! 大丈夫だった?」


「うん、ワタシは平気だよ。でも、大変なことになっちゃってるよ……」


「そのようじゃな……。治療法については他の者に告げたのかの?」


「ううん。まだ。それどころじゃなかったから」


「そうか。ではすまぬがお主はこのまま奴らの無力化に努めてもらえるかの。

 わしとリーリアは生徒会長殿やエンジ教授に治療法とスミセンのことを話に行こうと思うのじゃ」


「ん。りょ~かい。さっきの約束は全部終わった後だね」


「ん? なんのことじゃったかの?」


「えぇ~? そんな~!」


 ボヤくミアルを無視して、生徒会長殿の所へ。


「今、大丈夫かの? わしらの成果を共有したいのじゃが」


「ユーレ君。よく無事でいてくれた。何か進捗があったんだね? もちろんだよ。

 エンジ教授やヤークト教授と一緒でいいかい?」


「いや、すまんが個別に話したいのじゃ」


「ん? 君がそう言うなら構わないが……」


 手間かもしれんが、ヤークト教授には聞かせられんことじゃし、エンジ教授と生徒会長殿の二人だけを呼んで話すのも怪しまれるでの。

 個別に話しかけに行くしかあるまいて。


 わしは治療方法が見つかったこと、スミセンがゾンビを研究棟に引き込み、一連の騒動に関わっていること、そしてスミセン自身が奴ら化したことを生徒会長殿に伝える。


 スミセンが持っていた薬のことは話さなかった。

 ヤークト教授が主導した事実が状況証拠しかないから、変な印象付けを行わないことと、最悪、生徒会長殿やエンジ教授が関わっている可能性があるからじゃ。

 ヒリア教授らを中に入れたいことも伝えたが、二人の教授にも許可を貰う必要があるようじゃった。


「君は本当に、想像もしてないことをしてくれる。改めて同じ学院生として誇りに思うよ。

 それにしてもスミセンがそんなことをするなんてね……。単独犯の可能性はないのかい?」


「黒幕がいるようなことを言っておったでな」


「そうか……。

 まったく、また計画を変更する必要があるか……」


「計画?」


 そういえば前も計画がどうのと言っておった気がするの。


「とんでもない成果を上げてくれたんだ。これからどうやって今いる無事な生徒を守るか、誰を治療するのかを考え直さないといけないからね」


「そうか。それらはわしの苦手とするところでの。生徒会長殿にまかせるとしよう。

 わしはエンジ教授の所へ行ってくるでの」


「あぁ。今は落ち着いているけどどうなるかわからない。気を付けて」

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