第37話 黒猫危機一髪
「ミアルとユッコちゃんは、私! 私がっ! わたっ……」
「もう良い! もう良いのじゃ、リーリア!」
リーリアはファイヤーボールは五度放ち、三発が命中、二発が壁に着弾し、大きな音を立てていた。
ファイヤーボールによって奴らの態勢が崩れた所を、ミアルが魔法を使える生徒から無力化していった。
じゃが、奴らとリーリアが放ったファイヤーボールの着弾音で、奥にいた奴らがこちらに集まりつつある。
「ふっ、はぁはぁ……。わた、私……が……」
魔法の発動は止まったものの、リーリアは興奮状態にある。
「ミアルは無事じゃぞ。落ち着くのじゃ。
ストイーヤ、燃え移らんよう消火を頼むのじゃ!」
「わかってる! <ウォーターボール>」
「ナナイは私と一緒に回復を!」
ストイーヤが直撃した生徒や壁にウォーターボールで消化し、ヒリア教授とナナイが直撃した生徒を回復魔法で傷を癒す。
確かに奴らは脅威ではあるが、わしらの目的は生徒を治療することである。
やむを得ないとはいえ、死なせてしまったり、傷を残すことは本意ではない。
ミアルとモイブが立ち位置を変え、モイブが照明用のランプに明かりを灯していく。
リーリアが落ち着き、ヒリア教授とナナイが生徒の治療を終える頃には、新たな奴らが六人程姿を見せていた。
「まったく、千客万来じゃな」
「招いた憶えはないんだけどね」
「まったくじゃな」
「そんなこと言っている場合か!? そろそろ魔法の射程圏内だぞ!」
ストイーヤの言葉に全員が身構える。
「リーリア、落ち着いたかの」
「……うん。ごめん……。もう大丈夫」
リーリアを立たせ、ジリジリと奴らとの距離を詰めていく。
すると、バタンっ! と後ろから大きな物音がした。
「あはははは。後ろの教室から三人出てきたわ~」
いつの間にやら最後尾に戻っていたヒリア教授が、緊張感なく状況を伝える。
どうやら、教室に閉じ込められていた奴らが物音を聞いて出てきたらしい。
扉を閉めたままの教室を残しておくなど、スミセンの奴めいやらしいことをしてくれる。
「強行突破しよう! もう奥にはきっといないはずだよ!」
既に一三人を倒しておったから、ここにいる九人の奴らを含めると遭遇した奴らは二二人。
おそらくもう追加で奴らが出てくることはあるまい。
ここさえ抜ければ、廊下の奥まで一気に進むことができるか……。
ミアルの提案は悪くないようにに思うが、全員で前にいる六人を安全に突破する方法が問題じゃ。
「私が、ここに残ってみんなを援護する」
落ち着いたかと思ったリーリアが宣言する。
「どうしてそうなるのじゃ!」
「私はこの人達と同じ運命を辿るはずだったのを、二人に救ってもらった!
その二人を助けるためなら、私はどうなったっていい!
きっと、二人を助けるために私はここにいるの!」
「バカ者がっ! そんなことのために助けたのではないのじゃ!」
「私がここに残れば、二人は無事に行けるんでしょ!?
訓練場の人達も助けられるんでしょ!?
……私がユーレ症候群になっても、助けてくれればいいじゃない」
「お主は魔力回復薬が不足しておることをわかっておるじゃろうがっ!
治療法がわかったとて、処置が遅くなれば死んでしまうのかもしれんのじゃぞ!」
「二人がそうなるより、ずっと良いよ……」
「この大馬鹿者めがっ! お主は友人じゃ! わしはもう二度と身近な者を失いたくないのじゃ!
クロネ! 道を切り開くのじゃ!!」
「ニャーオ!!」
クロネが前にいる六人に次々と飛び掛かる。
早く動く物に反応する習性のある奴らは、クロネを追いかけ、あるいは魔法を発動させる。
「モイブ! ヒリア教授と一緒に殿で後ろの三人からみんなを守ってほしいのじゃ!
ミアル! クロネに続いて突破するんじゃ! ストイーヤはサポート!
ナナイとリーリアはとにかく走るのじゃ!!」
「おう!」
「了解!」
「でも……」
「いいから走るのじゃ!
みな、噛まれなければそれで良い!
とにかく突っ走るのじゃ!」
クロネは体躯の小ささと俊敏さで奴らを翻弄しながら、態勢を崩し行き、ミアルが無力化させていく。
わしもディレイを発動させてサポートをする。
クロネとミアルの活躍で、道ができた所をナナイとリーリアが突破する。
それに続いて、ストイーヤ、わし、ヒリア教授、ミアル、モイブの順で無事に抜け切ることができた。
「こっちは真っ暗なのじゃ! リーリア明かりをつけてほしいのじゃ! 奴らはもうおらんと思うが、もしいたらわしは泣く自信があるぞ!」
「あ、うん。……ユッコちゃんって時々すっごく頼もしいのに、急に年相応なリアクションするから戸惑っちゃうよ。さっきはごめん……ありがとう、ユッコちゃん」
「な、ななんのことじゃー?」
「お楽しみの所わりぃんだけどよ、やっこさん達はまだまだやる気みたいだぜ」
クロネとミアルが戦ってくれておったが、全員を無力化できたわけではない。
危険はまだ残っておるが、挟み撃ちの状況を脱するきっかけができたのはクロネのおかげじゃろう。
後でたっぷり撫でてやらんといかんな。
「あの人達、やっぱり倒しておかないとまずいかな?」
「そうじゃな。まぁ正面からならどうとでもなるじゃろう。態勢を立て直して迎え撃つしかあるまいて」
「りょ~かいっ!」
ここまで来た時と同じように、モイブ、ミアルの順で前線を構築して迎え撃つ。
クロネは直前まで奴らの注意を引いていたが、いつの間にやらわしの横に来て、体を擦りつけておった。
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