第36話 廊下では、押さない駆けない魔法を使わない

「本館二階にはどれくらいのユーレ症候群者がいるのかな?」


「私は三人で教室に閉じ込められたんだけど、他の教室も同じくらいで三人か四人くらいだったよ」


「ってことは、教室が全部で八つあるから多くても三〇人ってとこか? さっき研究棟にいた奴を除けば二四人くらいまで減るな」


「廊下の直線距離は大体一〇〇メートルあるかないかくらいだから、その人数ならさほどひどい混戦にはならなそうだな。自分が一人でもなんとか耐えられるのではないかと思うが」


「問題は魔法を使う奴がどれくらいいるか、ね」


「昨日わしらが移動した時はそれほど奴らの数多くはなかったからの。その後発症した物は魔力が強い可能性が高い。魔法を使う奴らの数が増えていると仮定した方が良いじゃろう」


「ユッコちゃんが片っ端から停滞魔法を掛けていくっていうのは?」


「さすがに全員に掛けていくのは厳しいの。訓練場で何があるか分からん状態で魔力がなくては危険じゃろう。せめて魔法を使う奴がわかれば別なんじゃがの」


「ユーレ症候群者が密集していた場合は頼みたい。自分が声を掛けよう」


「それなら了解なのじゃ」


「私は~どうしましょうか~」


「ナナイは身体強化魔法をミアルやモイブ君に切らさないようにして。あと、何かあったときにすぐに回復を頼むわね」


「了解です~」


「私はどうしましょう?」


「リーリアさんは照明用ランプに随時明かりを灯してほしいわ」


「わかりました」


「休憩はもういいじゃろう? 本館攻略と、行こうかの!」




 連絡通路を渡って、角を曲がる。

 ランプをつけても廊下の奥は暗く、奴らがどれくらいいるかはさっぱりわからない。

 ナナイへの実験の結果、奴らは視覚に頼っていない可能性が高い。

 なので、ランプを付けて明るくなっても、こちらが不利な状況になることはないじゃろう。


 リーリアはわしとストイーヤと同じくサポートの位置でランプを見つけ次第明かりを灯す。

 角を曲がってから一つ目のランプに明かりを灯すと、うっすらと奴らの姿が浮かび上がる。


「二人だ。自分が前へ出る! リーリアは次のランプに明かりを!」


 発見した二人のさらに後ろに奴らがいないか確認するための指示であろう。

 駆け出したモイブの後ろにぴったりとついてリーリアが明かりを灯す。


「オッケー! ワタシの出番!」


 後ろに奴らがいないことを確認すると、ミアルが奴らの後ろに回って無力化した。


「ふむ、ひとまずは問題なさそうだな」


「この辺りにいた奴らの多くは研究棟まで誘導されて、数が少ないのじゃろうな。奥に行けば厳しくなると思うのじゃ」


「そうか。そうだな。気を引き締めるとしよう」


 廊下の中心には昨日通った中央階段がある。

 そこに辿り着くまでに七人程を無力した。

 最大で二四人の所、七人のみじゃ。

 逆側の廊下では、今までの倍以上の奴らがおるかもしれん。


 奴らと戦っていると、少なからず音が立ってしまう。

 それに釣られてか、奴らが中央階段付近までやってきていた。


「やれやれ、休憩はなしかの」


「モイブ先輩、明かり灯します!」


「了解だっ!」


 中央階段に一番近いランプにリーリアが明かりを灯し、浮かび上がった奴らの数は、五人。

 今までで一番密集している状況じゃ。


「ユーレ! 停滞魔法を!


「わかったのじゃあ! <ディレイ> <ディレイ> <ディレイ>」


 前にいる三人に対して、連続で三回魔法を発動する。

 ミアルはその三人の後ろにいる二人に狙いを付けたのか、壁を蹴って後ろに回り込む。

 そして、わしらの予想を裏切り吹き飛ばされてしまっていた。


「大丈夫かっ!?」


「くぅ! 油断した! 後ろ、風魔法と土魔法使ってくるよ!」


 狭い場所で魔法を使えば、同士討ちになるから普通は使わんのじゃが、奴らにそんなことは関係ない。

 廊下で魔法を乱発されれば、全てを避けることはできない。

 特に風魔法は視認が難しいため、なおさらじゃろう。

 身体強化魔法の金剛体がかかっておるからか、軽傷で済んでいるようじゃが。


「二人同時かよ! 右側、俺が魔法で牽制する! <ウォーターボール>」


「りょ~かい!」


 ストイーヤが一人の動きを止めるため、直径五〇センチくらいの水の弾を連射する。

 質量を持った攻撃は確かに一人の体制を崩すことに成功した。

 じゃが、痛みや恐怖を感じていないのか、奴らは変わらず魔法を使い続けておった。


「ごめん! これはやっぱ無理かも!」


「嬢ちゃん、後ろの奴らに魔法掛けられないのか!?」


「射線が通っておらん! 前の奴を一人でもいいからどかしてくれんかの!」


 ミアルは五人の後ろに回った後、魔法による攻撃を受け続けているため、こちらに戻って来れておらん。

 そんなミアルの後ろから、さらに光が放たれる。


「ミアル! 後ろじゃ!」


「ちょ!? あっぶなっ!」


 ドンと、壁にぶつかる音がした。

 どうやらミアルは無事に回避したようじゃ。

 光の正体は六人目による火魔法、ファイヤーボールの光じゃった。


 火魔法は威力が高く、ファイヤーボールは人一人怪我をさせるには十分な威力じゃ。

 リーリアやモイブには威力が高いことと、着弾時の音で奴らを集めてしまうから使用は禁止にしておったのじゃが、奴らはそんなことは構わずに使ってきおった。


 ミアルは魔法を使う奴らに囲まれてしまう形になってしまった。


「ナナイ、私も前に出るわ! 金剛体をお願い! <英雄の腕>」


「教授は~一番後ろでは~? <金剛体>」


「あははは! そんなこと言っている場合じゃないのよ~<韋駄天>

 あっはー! 行くわよっ!」


 ヒリア教授が一気に前へ出て、前にいた奴らの内、中央を吹き飛ばす。

 が、一歩遅くミアルに魔法が集中して放たれ、風魔法が直撃したのか壁に叩きつけられてしまう。


「きゃっ!」


「ミアル! 絶対、絶対、ミアルをやらせるもんかー!」


 それを見たリーリアは、ファイヤーボールを放っていた。

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