第35話 酔っ払いのフルスイング

「二階にいた~ユーレ症候群者~? はどこから来たのでしょ~か~?」


「本館の二階からおびき寄せたんじゃろうな。

 こんなことをする奴じゃ、恐らく教室に一度閉じ込めた奴らも全部扉を開けて外に出しておるじゃろう」


「う~ん、そうなると思ってたより厳しくなるかもねぇ。ルート変える?」


「一階も同じように奴らをおびき寄せていそうじゃし、外は暗くて危険に思えるがの。

 本館から研究棟の二階まで奴らが入りこんでいるとしたら、逆に密度が薄くなって、外で不意を突かれるよりは安全のように思えるんじゃが」


「そうね。外は明かりもなくてどこにユーレ症候群者が潜んでいるかわからないから、まだ照明用のランプに明かりを灯せる本館の方が安全に思えるわ」


「了解。それじゃ、ルートは変わらずだね。

 先頭はワタシでいいのかな?」


「ミアルは今回のかなめだからあまり危険に晒したくないんだけど……」


「それでも、奴ら相手には一番有効な攻撃を持っておるのじゃ」


「自分が先頭を行きます。ミアルは二列目で安全を確保できたらユーレ症候群者を無力化すればいい」


「モイブ先輩……」


「それで行きましょう。ミアルの後ろはサポートにユッコちゃんとストイーヤ君。殿しんがりは私」




「あの猫ちゃんまだいるかな~? っていうかどこから入ってきたんだろう?」


 研究室から階段に向かう途中にミアルが猫に興味を持ちだした。

 クロネは死霊術で強化されておるからどこからでも入ってこれそうじゃが……。


「スミセンが一階に奴らが入ってくるよう開放したはずじゃ。その時に紛れ込んだのではないかの」


「あ~そうかもね。

 猫ちゃ~ん、出ておいで~」


 ふ~む、クロネが傍にいてくれれば心強いのじゃが、触られるとまずいのじゃよな。

 死霊術で動かしているとはいえ、生きている時のような体温がないのじゃ。

 少しくらいなら大丈夫じゃろうが、ずっと触られていたらバレてしまうかもしれん。


「出てくるのじゃ~」


「ニャ~オ」


 わしの声に反応して、クロネが姿を現す。


「お~よしよし。こっちへおいで~。って、いたぁ!」


 そ~っと手を出すミアルにネコパンチを食らわせ、わしの所へ来て頭を足にすりつけてくる。


「お~よしよし。あっちのお姉さんは怖いの。わしの近くにおると良い」


「ぐぬぬ、ユッコちゃんめ!」


「はっはっは。なら、俺が「フシャー!」って、あっぶね!」


 ストイーヤが手を出そうとして、威嚇するクロネ。

 わし以外には触らせないようにしてくれておるの。


 クロネを交えてたわいもないことを言っているとすぐに階段に辿りつく。


 階段のすぐしたには、変わり果てたスミセンがまだおった。

 奴はわしらを認識すると、魔法を発動させる。

 さっきと同様にストーンスプラッシュである。


 先頭を行くことになったモイブは、盾を用意しておる。

 どこぞの研究室にあったらしく、ストイーヤが持ってきてくれた物じゃ。

 その盾でストーンスプラッシュの魔法を防ぎ、距離を詰める。


 もう一度魔法が放たれ、それを防ぎ切った所でミアルが前に出てスミセンの首筋に一撃を見舞う。


「いったぁ!?」


「ミアル、どうしたのじゃ!?」


「首に魔法が掛かってる! 岩が張り付いていて攻撃できないよ!」


 スミセンの奴、薬を飲む前に魔法を二つ程唱えておったな……。

 エクウィップウォールの魔法で首筋だけ守っておるのじゃろう。


 ミアルを前に送るため、スミセンに近づいていたモイブは攻撃を受け始める。


「くそっ! 力がかなり強いぞ! 自分ではそれほど持たない!」


「ニャー!」


 クロネがスミセンの横っ腹目掛けて体当たりをして、一瞬体制を崩させる。

 押し倒せば……! そうか!


「スミセンを階段の下に落とすのじゃ!」


「あっはっはっ! それなら私の出番よね! まっかせなさ~い!」


 一番後ろから陽気な笑い声と共に、飛び降りてくるヒリア教授。

 いや、十段以上飛ばしておるな……。


 ―― ダンッ! ブゥウン!


 着地音がするや否や、ヒリア教授はスミセンをぶん殴って階下へと吹き飛ばした。

 風の音が怖いんじゃがっ!?

 というか、スミセンの顔が陥没しておらんか!? まぁ自業自得(?)じゃな。


「一丁上がり~! さぁみんな私を褒めて~!」


 吹き飛ばされたスミセンは踊り場でモガモガと暴れたが、階段を上がってくる気配はなかった。


「「「わ、わぁ……。さ、さすがヒリア教授~」」」


 みなドン引きしとるがっ!?


「ヒリア教授は殿なんだから、後ろにいてくれないとナナイ先輩やリーリアが危険になるでしょ!

 先頭はワタシに任せて、戻って下さい!」


「何よ~ミアルのいじわる~。私だって頑張ってるのに~」


 普段はいい教授なんじゃが、魔法がかかると酔っ払いのようになる体質は難儀じゃのぅ。


「次が来ているぞ、備えてくれ!」


 モイブの言葉で気を引き締めて、迫ってくる奴らを一人一人意識を刈って無力化していく。


 研究棟の二階には六人程の奴らがおり、魔法を使ってくる奴も二人程おった。

 風魔法を使ってくる奴と火魔法を使う奴で、風魔法にはなかなかに苦労させられた。

 元々視認性の悪い風魔法が、暗闇から放たれると回避するすべがないのじゃ。


 モイブは盾で全身を守るようにしておったが、わしとストイーヤはサポートのために左右に展開していた。

 そして、わしが風魔法をくらってしまい、制服を切られたてしまったのじゃ。


 それを見たミアルが即座に相手が一〇メートルは吹き飛ぶレベルのパンチで倒した。

 じゃが、さすがにやりすぎと思うレベルで顔がひどいことになっておったので、回復魔法をかけておいた。


 他の奴らは長い廊下にまばらで動いており、密度が薄かったから一人一人確実に相手にできたので、さほど苦労はせんじゃった。


 無力化した奴らにこの場で治療を施すことはできん。

 じゃから、手近な研究室に放り込んでおくことにする。

 鍵をかかっている研究室ばかりじゃったが、ヒリア教授が鍵のかかっている扉を片っ端から破壊していき、みなで奴らを運んだ。


 研究棟での掃討を終えたわしらは、本館へと続く開けられたままの扉の前で、一旦休憩を取ることとなった。

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