第15話 良い奴っぽいけど話を聞かない奴は本当に良い奴なのか?

 舞台の上には、わしらを出迎えた四人の他、たくさんの教授連中がおった。

 そんな教授らに対し、わしはゾンビもどきを観察した結果と発症に魔力が関係あるかもしれないことを説明した。


「なるほど。我々は生徒達の安全を重視するあまり、ゾンビの状態を確認はしていませんでした。

 魔力との関係というのも、こんな時に不謹慎ですが、実に興味深かい」


 今発言したのは、魔法薬学の教授であるヤークト教授である。

 魔法薬学は、魔法に関する薬品・道具を研究開発する学問である。

 さっきリーリアが飲んだ魔力回復薬はこの学問から発明されたものである。


「それで、ユーレ君は今までゾンビになってしまった生徒の魔力量多寡を知りたいのだね?」


「そうじゃ……です。後は発症した生徒の関連性がわかれば良いのですが……」


「そうだね。今訓練場にいる生徒に協力してもらうことにしよう。

 まずは、ゾンビになってしまった生徒、噛まれてしまった生徒のリストアップ。

 それができたら、魔力量の多寡を知りうる限り書き出してもらおう。

 関連性と言うけれど、一言で片づけるには曖昧過ぎるね。何か思いつく観点はあるのかい?」


「リストアップはお願いしたいですじゃ。

 関連性は、確かに曖昧ですの。ふ~む、具体的な物は思いつきませぬ。一旦保留とさせて下され」


「了解だよ。フリット君、すまないが今のリストアップの件、頼めるかね?」


「わかりました。生徒会で手配します。

 ユーレ君達は結果がまとまるまで、すまないが端にいてもらえないか?

 噛まれているリーリア君がここにいることは、絶対に他の生徒に知られないようにしてくれ。

 何せ、発症した人と噛まれた人は全員、この場から追い出してしまっているからね」


 やはり、門の前で倒れていた人々はここでひと悶着あった結果なんじゃろう。

 友人をこの場から追い出さなければならなかった葛藤、助けられなかった友人への後悔など、生徒達の心情を様々なはずじゃ。

 そんな中、リーリアだけ特別扱いされているとわかったら、どんなことになるかわかったものではない。

 リーリアが噛まれたことを知っている者も多数おるじゃろうし、何があってもリーリアは表に出せんな。


「承知したのじゃ。二人とも、良いかの?」


「オッケー」


 わしらは生徒会長が示した場所へと向かう。

 舞台の上は暗幕で仕切られているから、神経質になる必要はないはずじゃ。


「そうじゃ、生徒会長殿。

 水を少しわけてもらえんかの? ここまで碌に水を飲めてなくての」


「なら、訓練場の一角が給水所になっている。そこに行くといい」


「感謝するのじゃ。

 二人は待っていてほしいのじゃ」


 舞台袖から訓練場の方に降りて給水所へと一人向かう。

 訓練場には、いくつかのグループに分かれて固まっているようじゃ。

 人数はバラバラじゃが、少ない所で三人、多い所は一〇人以上か。

 一際異彩を放っているグループが一つある。

 制服を着ていない集団、つまり街から学院まで逃げてきた人達じゃな。

 彼らは一塊になって、一番人数の多いい集団になっておる。


「すまんが水を分けてほしいのじゃが、ここで合ってるかの?」


 簡易な机の奥に二人の生徒が座って、机にはコップが二つあるだけである。

 水魔法で水を出してくれているということじゃろうか。


「コップはそこのを使ってくれ。っていうか、お嬢ちゃんは見たことない顔だな。

 街から来たのか?」


 学院の制服は、学年によって男子ならネクタイが、女子ならリボンの色が異なる。

 この生徒は緑色のネクタイをしているから二年生じゃろうか。

 見たことがない顔というのは、学院生活でというより今まで訓練場におらんかったからじゃろうな。


「わし、制服着とるじゃろ!?」


「借りたんじゃねーの? つーかよくそんな小さいサイズの制服なんてあったな」


「わしは今年入学したれっきとしたこの学院の生徒じゃぞ!」


 なんじゃこやつ、失礼な奴だのう!


「そっかそっか。わりぃわりぃ。

 水だろ。ほら、そこのコップ持って来い」


「コップは二つしかないのかの? 連れが二人おってな。持っていってやりたいんじゃが」


「コップは二つしかねーぞ。つーか、なんでそいつらはココにこねーんだ?

 こんな小さなお嬢ちゃんにお使いさせるとか関心しねーな」


「いや、あの、さっきな、見張り台から入ってきたばっかりなんじゃが、連れは舞台の方におってな……」


「はぁ!? 見張り台からってどういうことだよ? しかも舞台って教授達がいる所だろ? お前何者だ?」


「わしは天才美少女魔法使いのユーレ・イコーデルじゃ!

 見張り台というのはの……。

 あ、あれじゃ! わしらは特殊な調査を……?」


 見張り台から来て舞台にいるとか、めちゃくちゃ怪しいって言っているようなものじゃな!?

 うまい言い訳が思いつかんかった!


「イコーデル? あ! 『停滞魔法における対象の考察と課題』を発表した飛び級生徒じゃね!?

 まじかよー! どーりでちっちゃいお嬢ちゃんなわけだー」


「ち、ちっちゃくないわい!」


 やっぱり、失礼な奴だのう!


「あの論文はめちゃくちゃ興味深かったよ。

 停滞魔法の対象を身体にした場合と魔力にした場合の魔力の視覚化ってやつ。

 研究進んでんの?」


 なんじゃこやつ、わしの論文読んでくれておったのかっ!


「あいや、それを今日の朝までずっと実験しとったらこうなっていたというか……」


「そっかそっか。こんなことになってなきゃ近いうちに発表されてたかもなんだな。

 何にせよ、こんな中よく無事だったな」


 そういってほほ笑んだ。

 なんじゃこやつ、良い奴じゃな!


「そ、それで、お主の名はなんと言うのじゃ?」


「あぁ悪ぃ、自己紹介がまだだったな。

 俺はストイーヤ・ツレッズだ。よろしくな、嬢ちゃん」


 差し出された手を、わしは握り返した。


「そうそう、水だったっけか。悪ぃけど、コップは二つしかないんだ。

 訳有りなんだったら、俺がそっち行ってやるよ。

 ほら、ついてこい」


 そう言うなり、すぐに移動を開始してしまうストイーヤ。


「ちょ、待つのじゃ!?」


「いーからいーから!」


「そうではない! 人の話を聞くのじゃー! このポンコツがー!」


 止めようとしても、立ち上がったストイーヤは身長が高く、ストイーヤの胸くらいまでしか身長のないわしでは止められるはずもなかった。

 舞台袖から上がる際に生徒会室に水の調達だというとあっさり許可が出てしまい、わしはさらに冷や汗を垂らしながら止めようとしたが無駄じゃった。


 そして、ストイーヤはミアルとリーリアの前に辿り着いてしまった。

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